#13 初サボり
祐菜は柚希の部屋から戻ったあと、湊から聞いた話や柚希から聞いた話をベッドにもぐりこんで整理していた。
湊は、友達は居なかったし、信じていた父親にも裏切られ、母親もなくしてしまった。
湊は、居場所をなくしてしまったのだ。
でも湊は、母親にそっくりな、素直で明るい祐菜が好き。
『・・・湊君がその気持ちに気付いてるかわかんないけど・・・』
祐菜と湊が両思いになれば、楽になるのかもしれない。
居場所を見つけられるかもしれない。
湊を必要としてくれる、湊を安心させられる存在に、祐菜はなれるかもしれないのだ。
湊もちょっとは、人を信じられるようになるのかもしれない。
そういろいろと考えるうちに、祐菜は寝てしまっていた。
翌日。
3限目が終わると湊は鞄を持って席を立った。
『みみみ湊君っ!だからサボっちゃ駄目だってば!』
祐菜がそれを慌てて止めると、湊は相変わらずの無表情で祐菜を見る。
「・・・・・・嫌」
『うう~・・・駄目なんだってば・・・』
「・・・」
しばらく黙っていた湊は、突然祐菜の鞄を持って、祐菜の手を強引に引っ張った。
『ほえ?!ちょ・・・湊君!何処行くのー?!』
華蓮は呆れた顔で祐菜に手を振っていた。
祐菜がいくら騒いでも湊は相変わらずの無言のまま、街までやってきた。
『あああ・・・もう4限目も終わっちゃう・・・』
湊は祐菜の方は見向きもせず、ゲームセンターへと入っていった。
『ああっ!ちょっと、湊君?!』
祐菜も湊の背中を追いかけてゲームセンターへと入る。
授業をやっているはずの時間なのに、学生らしき人も何人かいた。
きょろきょろと周りを見ているうちに、湊の姿を見失った。
『あれ?!湊君?!』
「・・・うるさい」
いつのまにか、真後ろに湊は立っていた。
あわてて振り返ると、湊の手にはクマの人形があった。
『湊君!もう・・・勝手にどこでも行っちゃうから・・・』
祐菜が喋っている途中に、話を遮るようにクマの人形を顔に押し付けられた。
「・・・あんたがうるさいからサボりに付き合わせたのに。こんなとこでもうるさいんだね」
『ごっ・・・ごめん』
「・・・」
『って、あれ?何で私謝ってんだろ?』
一人で首を傾げる。
すると、小さな笑い声が聞こえた。
湊を見上げると、笑っている。
祐菜がずっと見たかった、本当に楽しそうな笑顔だった。
「・・・ほんと、ばかだね。あんた」
『えっ・・・あ、あはは・・・』
そして湊はまた歩きだした。
『あっ、湊君!次は何処にいくの?!』
「・・・戻ってほしいんでしょ、学校」
『あ、その前に寮にこのクマ置いてきていい?』
「・・・勝手にしなよ」
そう呟いて学校へと向かう湊の背中を、必死に追いかけた。