#12 湊の居場所
柚希や葵達に、早くも祐菜の気持ちがばれてしまった。
その日の夜、祐菜は「話がある」と言われ、柚希の部屋に呼び出されていた。
「ユナちゃんっ!まずは湊君と2人きりになりなさいっ!」
柚希は楽しそうにそう言う。
柚希の部屋にいるのは、葵と柚希と祐菜。
『ふっ・・・2人きり?!』
「そうそう♪あ、明日一緒に帰ってみるとか?」
『ええええ?!』
柚希とそんな話をする中、葵は呆れた表情だった。
「まぁ、早く湊を楽にしてあげてよ」
『え・・・?』
祐菜が首を傾げる。
柚希が微笑んで話し始めた。
「湊はね、別に友達が欲しかったんじゃないの。・・・誰か、自分を愛してくれる人が一人でもいれば、それでいいのよ。そこが、湊の"居場所"。それだけでも安心出来る」
『・・・はあ』
祐菜は曖昧な返事をしながら、柚希の話の続きを聞きたくて、じっと柚希の方を見つめていた。
ところが、話を続けたのは葵だった。
「・・・それは、決して誰でもいいわけじゃない。今の湊はきっと、篠原・・・お前が愛してくれることを願っていると思うよ」
『・・・わっ・・・私ですか?!』
思わず大声を出してしまい、両手で口を塞いだ。
今はもう夜だ。もしかしたら桃香あたりは寝ているかもしれない。
『・・・なんで、そんな・・・』
改めて小声で喋ると、柚希が答えた。
「湊が過去を話すなんて驚いたわ。そんなに心を開いた相手は始めてよ。私だって過去は噂で聞いただけだったし」
『・・・そうなん・・・ですか』
「ユナちゃん、素直で明るくて優しくて・・・湊と正反対じゃない?惹かれるのもしかたないわ」
『そっ・・・そんなこと・・・』
「それに、ユナちゃんってなんだか似てるのよね。湊のお母さんに」
『湊君の・・・お母さん・・・・?』
「しかも、みんなは湊を怖がって近づこうともしないのに、ユナちゃんは・・・」
『あの・・・何で、柚ちゃんが湊君のお母さんを知ってるんですか?』
祐菜は柚希の言葉を遮って小さく手を挙げる。
すると柚希は、「あっ・・・」と、小さく呟いてからまた笑った。
「あ、ごめんね、言い忘れてたんだけど私・・・小学校の頃湊の家の隣に住んでたの」
『幼馴染・・・ってことですか?』
「湊は友達なんかつくろうとしなかったから、幼馴染ってほどでもないんだけど、お母さんとは何度か喋ったことはあったの」
『そう、だったんですか』
「・・・頑張ってね、ユナちゃん!」
「湊は自分の気持ちに気付いてるかが問題だけどね」
そう言って葵は部屋の戸をあけた。
『だっ・・・だめじゃ無いですかぁ』
「湊、恋愛なんて縁がなかったからね」
柚希は、葵の開けた戸の方へ向かって祐菜の背中を軽く押した。
「ほら、もう夜遅いから子供は帰った帰った」
葵のその一言で、祐菜は時計を見る。
いつもは、10時30分頃には寝てしまうのだが、今の時刻は11時だった。
『えぇ?!もうこんな時間?!ありがとうございましたっ!!!』
そういいながら祐菜はあわてて柚希の部屋を出て行った。
「・・・じゃ、柚希も早く寝なよ」
葵も部屋の戸に手をかける。
「・・・うん」
葵も去り、静かになった部屋で柚希は、楽しそうに少しだけ微笑んだ。