#1 憧れの場所
風が吹き荒れ、桜が舞い散った。
次々と地面に落ちていく桜に見とれている一人の少女の名は、篠原祐菜。
ストレートの髪が、風で静かに揺れた。
「シノハラ・・・ユウナさん?」
突然、後ろから聞こえた声に、思わず祐菜は振り返った。
『・・・?』
振り返った先にいたのは、少し大人の雰囲気を漂わせた少女。
前髪を眉の少し下で切りそろえた、まるでどこかのお嬢様のような、そんな少女だった。
「あ・・・ごめんなさいね、驚かせちゃって」
笑顔でそういった少女は、静かに祐菜に近づいて、話を続けた。
「寮・・・探してるんでしょう?」
『え・・・?』
この春、高校1年生となる祐菜は入寮予定の寮を探していたのだった。
祐菜も含めて、たった6人の小さな寮だが祐菜は寮生活にずっと憧れていたのだ。
『えっと・・・あなたは?』
祐菜は少女を見上げた。
改めてみた少女は、思わずため息が出てしまうくらいの、整った顔立ちをしている。
「私は井上柚希。高等部の2年生よ。私も寮に入ってるの。案内するわ。来て」
柚希は桜が舞い散る道を、静かに歩き始めた。
「ほらみんなー!新しい子が来たわよ!」
寮にたどり着いた柚希は、手をパンパンと叩き始めた。
『結構広いですねー・・・』
寮というよりも、下宿のような場所だった。
リビングに入って祐菜が珍しそうに周りを見渡すと柚希はくすくすと笑った。
「そういえばユナちゃん、高等部からこの学校来るなんて、珍しいわね」
『ほえ?』
「ここにいる子はみんな中等部からの仲よ」
『そうなんですか?』
柚希がお茶を運んできて、リビングのテーブルに置いた。
その瞬間、祐菜は階段の方に人の気配がした。
そこにいたのは、一人の少年。
少し明るい茶色の髪はとてもサラサラに見える。
「杉浦湊。あなたと同じ高校1年生よ」
柚希に紹介された少年は、何も言わずに階段を上がっていった。
『あれ・・・?』
突然首を傾げた祐菜をみた柚希は困ったように笑った
「あぁ、あの子はもともと喋るのが嫌いな子だから。気にしないで」
『いや・・・そうじゃなくて、えっと・・・男?』
祐菜が見たのは、確かに男の子だった。