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はじまり


青く広がる青い海。

潮風が頬にあたり、太陽は南の空高く上がっている。

「ヤー!!ヤー!!」

「次の獲物だ!」

「今夜は豪勢だな!」

船員たちは酒を掲げ、各々持ち場で武器を構えた。


私の名はアリアドネ。このフォルドナ船の船長である偉大な父の13歳の娘。

そう、海賊だ。


「舵を取れ!あの着飾ったやつらがのうのうと近づいてくるぞ!」

声を響かせるのは白髪交じりの茶髪と髭を携えたフォルドナ船長。片手を掲げ、握られた豪奢な剣を配下に誇示している。

「おお、アリアドネ!そこにいたのか!だが奥にいるんだぞ。海軍があいつらを護衛してたら危険だからな。」

「どうして……?」

「どうしても、だ。いいこだから、中にいような。」


 私を抱き上げて見せると、まだ若い男衆から「贔屓だ!」「娘愛好家!」「経験させてあげろよ!」とヤジが飛ぶ。

「うるせえ!持ち場に戻れクズども!」

そう喝を入れるとすぐに私に向き直り、ぐしゃりと頭をなでてくる。いうことはいつも同じだ。

「いずれは継がせてやるから、まだ待っていなさい。」

そう言って、扉を閉めるのだ。

船員以外は知らない、場合によっては脱出もしやすい秘密部屋。

そこには誰もいない。だが昔は母がいたらしい。

しかし、私を生んでしまったことで体が衰弱し、私がみっつのときには息を引き取った。父は寂しそうにそのことを前に教えてくれた。


 だからか、部屋にあるものは人形やら、かわいらしい私専用のお洋服やら、王子様との愛の小説だのと、年頃の女の子が好むものばかりが置かれている。

父の唯一の家族として大切にされているのだ。

たとえそれらが、すべて強奪したものだとしても。


不満はない。

海賊とはもとより国から拒絶されたはぐれ者の集まりだ。

どの船員も、帰る場所がないからここにいる。

でも。


「さあ、金を出せ!」___若い男の船員の怒号。

「武器を捨てろ、こっちのご貴族様がどうなるかはわかっているだろうな?」___中年男の船員の脅し。

「ハハハ!!怯えちまって、かわいそうに。」___片足を無くしている船員の嘲笑。

悲鳴と物音がはびこり、父たちがいつも通り剣を、鎖を、獲物たちに突き付けた音がした。


「悪いな、我々にも生活があるんだ。……全員、金や食料は回収したな!奴らを縛り上げて海に捨てろ!」


父の命令にこたえる声よりも早く、悲鳴は途切れ水音がはねた。


強奪するその時だけは、みんな怖くなる。


どうしてと、そう聞いたこともある。なんでほかの人が嫌がることをするのかと。


以前、国から逃げているときに片足を失った船員は酒を片手に言った。

『海軍が国を守る番人なら、海賊は悪魔にならなくちゃいけない』と。


同じように、妻を魔女と疑われ火あぶりにされた中年の船員は言った。

「もう戻る場所がない」と。


また別の、えん罪で処刑されそうになり逃げてきた青年は言った。

『奪うことだけが生きる道であり、国への唯一の復讐なんだ』と。


みな、ひどく寂しそうに、そう言っていた。



悲鳴がやめば、怒号も止む。

そっと扉を開けるのは、いつも通り豪快に笑う父だった。

「アリアドネ!今日の夕飯は豪華だぞ。やつら、牛肉まで積んでやがったんだ!」

「船長!果物もありまっせ!」「さいっこう!」

香ばしい香りとともに、先ほどまであったのだろう船員たちの眉間のしわがほぐされてゆく。

「おお!アリアドネには多めに回せよ!野郎どもが倒れても構わねえが、うちの娘が倒れたらお前ら魚の餌だからな!」

「わかってますって!」「いや俺ら大事な船員だよな!?」「贔屓だー!!」

「ガハハ!!」

父が笑えば、船員たちも笑い出す。

その隙に酒飲みの好きな船員が大量のグラスを配り、若い衆が踊り、誰かが格好つけて歌えばマンドリンとコンサーティーナを持つ船員が楽器を鳴らし盛り上げる。

先ほどの諍いなどまるでなかったかのような、温かく愉快な時間。

この時間だけが、続いてほしい。


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