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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第二章・迷宮の怨霊――迷宮主人の喪失

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9/10

【03】

「こんな遠距離で分体を動かすなんて無理だ」


 画面に自分によく似た人物が現れたことでイルジオンはそう言い、画面から声が聞こえてくる。


『機関の方ですよね?』


 声もイルジオンに似ている。

 ただイルジオンは首をかしげている。うん、声って自分が聞いている声と、他人が聞いている声って違うものだからな。


「ん~。これは、精神に作用する魔法を使える魔物だな」


 姿を変えて人に近づくのは、精神攻撃するタイプの魔物が得意とする。わりと知性があるというか、人になりきるのが得意なので魔物特有の匂いがなく、慣れていないと術中に嵌りやすい。


 わたし? 精神攻撃系魔法も魔物も大得意だよ! わたしの数あるオリジナル精神魔法のいくつかは、魔物が使っていたものを取り込んで少し手を加えたもの!


『そうだ』

『冒険者ギルドのイルジオンと言います』

『ああ。機関のエリニュスだ』

『よろしくお願いします。それでは迷宮まで御案内します』


 偽物のイルジオンの後ろ姿を映しながら、その隣を本人(イルジオン)に歩いてもらう。歩く後ろ姿はとても似ている。


「あー。これ、記憶喰ったな。たしか、四人で迷宮に入って、三人がやられたんだったな」


 精神に干渉する魔物は記憶も読めるので、逃げ切れなかった三人を取り込んで、記憶を抽出したんだろう。

 だからイルジオン本人が、声に違和感を覚えるんだ。


「ああ。見捨てて逃げたというのが、正しいが」

「調査なんだから、一人でも生き延びて情報を伝えなきゃならんだろう。冒険者なんて、大体そんなもんだろう」

「仕事だから、割り切らなくてはいけないのだが」


 歯切れが悪い。

 関係性もあるし、本人の気質もあるから、簡単に気にするなとも言えないしなあ。わたし? わたしも気になるタイプなので、仲間は守るよ。


 そうは言っても、わたしがパーティーを組む時は、ほぼわたしより強いヤツばかりなので、守ったことはない。心意気というか、お気持ちというか。


「記憶を読まれたということは……」


 ハーラミルリッツは言葉を濁したが、イルジオンもギルドのそれも先遣隊を担当するほどの冒険者だ。記憶を読まれた人間が生きていないことくらいは知っている。

 それに触れることなく、調査隊の三人については触れず、画面に集中する。


「魔物が溢れだしている……という感じではないな」


 魔物あふれ出し系スタンピードじゃない、別のスタンピード? そんなものあるのかね?


「そうですね」

「精神系の魔法を使える魔物だから……とも思えない」

「精神系はあれはあれで、溢れだすと大変だからなあ」

「集団にかけられた時は、焦り……はしないけど、面倒ではあるよな」


 バビロン組の二人が画面から目を離さずに、いろいろと言っている。バベルの塔からも魔物があふれ出すことがある。


 とういうか、多々ある。


 魔物が外に出てきたところで、困りはしないし、慣れてるからどうってことない。

 むしろスタンピードって普通に起こるものだと思っていたから、外国にきて「あ、意外と起こらないのね」と思ったくらい。


『迷宮が見えてきました』


「ついていって、大丈夫なのか?」


 緊張した面持ちで画面を見つめているイルジオンの疑問だが、


「分体だから殺されても構わない」

「ダメージが辛いだろ」

「対処はしている」


 バビロン組の二人は何も言わなかった……バベルのクランでは、分体なんて使い捨てみたいなもんだから。壊れるの前提で、迷宮に送り込むのが当たり前。


 本体へのダメージ? そういうのを軽減するために、いろいろと施しているのですよ。とくにわたしは、痛いの嫌いだから。


 なら死なないようにすると良いのでは? バベルの塔攻略は、そんなに簡単じゃないので。攻略どころか、一度は踏破した階層でも、即死食らったりするんだ。


「お前の偽物と、ハーラミルリッツが一時期支配人をしていた迷宮は似てるな。もしかして、こいつ(ボス)か?」


 迷宮のボスが迷宮から単独で出歩くの?

 分からないが、ないわけではないような……とりあえず、スムマヌスに送ったら喜ばれる情報だろう。


「俺はこの距離では、似ているかどうかは分からないけれど、前の核は、たしかに迷宮とよく似ていた」

「階層の核には会ったことはあるけど、迷宮の核には会ったことないからなあ」


 バベルの塔は攻略されていないので、迷宮の核にはお目にかかったことはない。


「こいつを倒すと、わたしが迷宮の主になっちゃう可能性があるってことか?……面倒だなあ」


 ふらふら付き合ってたけど、うっかりこいつを殺したら、迷宮主になってしまう?

 死なないと権利を譲渡できない……これを持っているせいで、命を狙われる……命を狙われるのはいいけど、なんか面倒だな。


「倒せるのか?」

「これなら、問題はない。でもなあ、迷宮欲しくないから、譲渡方法とかないのか」


 迷宮を手に入れてもなあ……。

 どうする? ………。わたしがこの迷宮の権利を手に入れて、研究して譲渡以外の方法を見つけ出す?


 それも悪くないような気がする。


 でもわたし一人が主になるより、他の数名と共同支配人になったほうが、研究は捗りそう。ということは、攻略の際にはパーティー組んで、この迷宮を踏破しないと。


 誰を呼ぼう。スムマヌスは必須で、あとはミュルミドーンと……など、悩んでいる間にも、どんどん迷宮に近づいてる。


『ここが調査して欲しい迷宮か』


 わたしの分体が見上げる。

 見上げなくても、全体像は見えている。あくまでも、そこの魔物に人間に見せるための動き。


 分体と本体の見分けはつかないの? それは分からないな、わたしは見分けがつくけれど。魔物も見分けられる奴はいるかもしれない。魔物も分体とか使うから。


「内部の構造が随分と変わっている」


 ハーラミルリッツが内部の映像に声を上げた。


「そんなに?」

「以前は引っ越しで荷物をすべて運び出した後の廃墟系だった」


 あーそいう感じだったんだ。


「今は森の中みたいだもんな」


 いまわたしたちの前に広がっているのは、鬱蒼と木々が生い茂った森の中の風情。


「魔物は出てきませんね」


 レシジスが疑問を口にする。


「おそらく”迷宮の主は生きている”と誤認させるために、襲ってこないようにしているんだろ。迷宮内の魔物を制御できるってことは、やっぱりこれが主かな……迷宮核って見たことないからなあ。階層核なら分かるけど」


 迷宮核らしきものに困らされるとは、思ってもみなかった。

 倒して迷宮主になりたくない。でも他の人に「迷宮主になれよ」と言うわけにも。権利譲渡方法がぁぁぁぁぁ。


 わたしが悩んでいる間にも、イルジオンの偽物はわたしの分体を伴って、迷宮の奥深くへと進んでいった……訳ではない。


「同じところを、ぐるぐる回っているな。風景の見た目が変わる仕組みだな」


 すっごい歩いて奥へと進んだと思うだけで、実際は同じところを歩いているだけ。


「そうなのか」

「ああ。方向感覚とか距離感を狂わせるためなんだろう……早く仕掛けてくれないかな。こいつが何なのか分からないから、迂闊に攻撃できないし……これ以上引き延ばすようなら、一時的に迷宮を封印してもいいか。もちろん、遺体は探し出す」


 イルジオンに持ちかけた。


「できるんだ、封印」


 イルジオンが「え?」みたいな表情を浮かべていたが、


「出来ないなら、言わないが」


 出来ないのに「封印する」とか言い出したら、頭悪過ぎるだろ。


「このままいけば、あんたが核を倒すだろうから、好きにしてくれて構わない」

「よし! じゃあ、代わり映えしない迷宮お散歩は終わりだ! サルコファガス!」


 こうして迷宮を封印して終わらせた。

 なにも解決していない……のは、さすがになーということで、わたしを案内していた魔物を拘束して、迷宮内で分体を五つほど増やして、ドロクローとイルジオンの仲間たちの死体を発見し、保護しておいた。


 イルジオンは魔道列車に乗り、冒険者ギルドへと帰った。わたしはというと、神殿に泊めてもらい、神殿の仕事を手伝ったり。


 仕事終わったんだから、帰ったら?


 出張日程は全部使って楽しむのが、わたしの流儀。白い雲がたなびく青空のした、なだらかな斜面の草原に背を預けて、日差しを浴びながら目を閉じるとか最高だ。


『迷宮核と権利譲渡方法な』

『バベルの塔攻略に役立つかどうかは分からないが、殺害以外の権利譲渡方法は、誓約魔法をうまくつかえば、出来る気がするんだ』

『うちの誓約魔法関係は、おまえが取り仕切ってるからな。こっちに都合がいい誓約が結べるようになる可能性があるってなら、団員は出す。希望人員は』

『とりあえず団長の分体を二つ』

『迷宮を含む辺り一帯を支配するのか?』

『支配するなら、スムマヌス本人に来てもらうよ。っても、カラブリアにはオルタナがいるからな』

『ヴリコラカスか。あれがいるなら、変なことはしないほうがいいな……なんであいつ、そこにいるんだ』

『聞くとおもう? そしてオルタナが答えるとでも?』

『そうだな。団長の分体二体の他は?』

『本体で来られそうなのいる?』

『誰でもいいなら、何人でも』

『三人くらい頼む。あとはさ――』


 ああっ! ヤギに突っつかれた! いつのまにか、ヤギに囲まれてた!

 うんうん、かわいいもんだ。

 家畜とふれあい癒やされ、同郷の冒険者たちと協定を結ぶ。


「間違って迷宮核を倒してしまった場合は、連絡をくれ。殺害以外で対処するから」

「いいのか?」

「任せておけ」


 ハーラミルリッツと冒険者同士の協定を組み、


「こいつが完全回復魔法回路だ。一つくれてやろう」

「そんなおっかないもの!」

「持っておくと、なんかの役に立つと思うぞ」


 レシジスに即死回避魔法回路をプレゼントしながら、こちらとも冒険者同士の協定を結んで、ヤギをなで回してから帰りの魔道列車に乗り込んだ。


 いやー楽しかった。やっぱ、出張って最高だよね。お土産にハーブティーとヤギ乳のチーズ貰っちゃった。チーズはいいんだが、ハーブティーは別にそんなに気に入ってないけど。


 実は魔力高いと食事しなくても、生きていけるんだよ。


 だからバベルの塔探索の際とか、食糧は必要ないんだよね。飲み水? 要らないんだなこれが。


 異国のカフェでランチを食っているわたしは、バビロンの魔力高めな連中の中では、かなりの異端児なんだよねえ……あれ? もしかして、食事を取らないバビロンのクラン所属の奴が、出されたハーブティーを飲み干してたから、気に入ったと思われた? 出されたチーズも食べてたから、気に入ったと……。

 他の国の人なら分からないが、レシジスならそう考えても……食い物を捨てるなど(前世)日本人にはできないので、ありがたく飲食させていただきますね。


 このチーズ、首都のどこのパン屋のパンと合うかなあ。


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