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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
閑話

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沈黙の亡霊【前篇】

 パロッサディは産まれた時から、魔力が高かった。

 魔力をほとんど持たない両親から産まれたとは、到底思えない程に。

 神殿の親子検査で、パロッサディは間違いなく二人の子だったが――その魔力から、神殿が養育を申し出た。

 両親も魔力があるのなら、神官になったほうが良いだろうということで、彼を預ける。


 パロッサディを育ててくれた神官サーツ。

 しばらくしてから、もう一人兄のような神官が現れた。もとは冒険者だったが、異国で神官としての人生を送ることにしたレシジス。

 異国の冒険者だったレシジスの話は、パロッサディにとって、とても興味があり楽しいものだった。


「空が見えない……」


 神官はこの世界の天空を支えていると噂される巨大な塔・バベルの周囲に広がる影の中(バビロン)出身だった。

 迷宮都市バビロンに産まれた彼は、


「冒険者になるのは当たり前。どんな冒険者になるかを選ぶような所だった」


 冒険者の中で、神官という道を選んだ。


「どうして神官を? 戦士のほうが、強くて格好良いじゃないですか」

「神官は多少弱くても、パーティーに入れてもらえるんだよ」

「なぜですか?」

「探す人が探しやすい痕跡を持っているから」

「?」


 レジヌスの説明によると、迷宮――バビロンで迷宮と言えば、世界でもっとも高い、今だに完全攻略がなされていないバベルの塔を指す――で、魔物に襲われたり罠にかかって動けなくなったりなど、攻略はおろか引き返すこともできなくなった時、契約していれば助けに来て貰える。


「もちろん無料じゃなくて、バベル攻略前に救出を専門にしている一家(クラン)に金を支払って、契約するんだ」

一家(クラン)て?」

「冒険者集団だ。少人数だとパーティーで、大人数になると一家。他の国は分からないけれど、バビロンの一家に所属する条件はただ一つ。単独でバベルの塔、二百階層まで到達して帰って来られること」

「それは、難しいんですか?」

「わたしたちのパーティーは五階層が精一杯だったなあ」

五階(・・)って」


 パロッサディはこの時、ただの五階だと思っていたし、レジヌスも勘違いされていることは分かった――詳しく説明はしなかったが、ただ大きいことだけは伝えておいた。


「パロッサディが言いたいことは分かるけど、普通の迷宮と違うからね? 一階層(ワンフロア)がこのカラブリア大きいんだぞ」

「え……」

「まあひとつの階層を全てを調べ尽くして、次の階層に上がるわけでもないけど」

「へえ……」

「それで迷宮に入る前に、保険として専門のクランに依頼するんだけど、神官がいると、値引きされるんだ」

「値引き? どうして?」

「神符があると、辿りやすいってことで」

「護符とかじゃ、だめなんですか?」


 どこの神殿でも護符りは売っている。そして神官は神より神符を授かっている状態の人間のことを指す。


「護符をどこかに落としたら終わりだからな。死んでいたら、諦めもつくが、生きているのに護符を落としてしまって、探してもらえないのは辛いだろ」

「そういう……でも、危険な時って分かるんですか?」

「そういう契約もできるけど、それは金が掛かるからクラン同士でしかしないな。パーティーは”何日後には迷宮を出るので、出て来なかったら、救助お願いします”って依頼する」

「それなら、護符を落としても探してもらえるのでは?」

「護符の値引きを使ってなければな。護符を目印に探してもらう契約だったら、あっちは護符を見つけて引き返すからな」

「料金以上の仕事はしないってやつだ」

「冒険者ってそういうものだからな」

「全員護符を持てば」

「一人一人の契約になる。折角のパーティーの意味がなくなるんだな」

「ああ、そういう」

「でも神官だとパーティー全員に、繋がりを持たせることができる。神符の付与という形で」

「神官が救助割引を発動させることができる……ってことですか」

「まあな。腕に覚えがあるとか、魔法を使いこなせるとか、予知系の天与(ギフト)を持ってるとかでも無い限り、神官冒険者がもっとも無難だな」

「強い神官とかいないんですか?」

「一家にはいる。蘇生魔法の化け物とか、治癒魔法の異常者とか」


 ”化け物”や”異常者”など、とても回復魔法を使う人間に対する異称ではない……とパロッサディは思ったが、口にはしなかった。


「一家について、なにか知ってますか?」

「一番世話になった、リビティーナーリウスなら少しは」

「リビティーナーリウス?」

「救助依頼を受けるクラン」

「そういうの専門の集団なんですね」

「うん、そこ。もちろんリビティーナーリウスは、超一流だから、そこの構成員とはそんなに絡みはなかったんだけど、一人”変わり者”がいてさ」

「”変わり者”ですか?」

「うん。ファンタズマっていう女の子」

「なにが変わってたんですか? あれ? 女の子? 年下だったんですか?」

「そうだよ……まあ、構成員になると、見た目は信頼できない情報だけど、多分女の子だった。変わっているのは”弱い冒険者を徹底的に調べる”っていうことをしてたんだ」

「なんですか、それ」

「弱い冒険者は、なぜそこで死ぬのか? を調べるっていう、変わったことをしていた人物だった」

「?」

「ファンタズマによると、弱い冒険者が救助を求める場所は、ほとんど同じ。だからどういう軌道で負傷して、そこに逃げ込み救助を待つのか? ……から、実力的にどこで引き返したほうがいいとか、食料は……とか調べてたな」

「救助要請しないで帰ってきたら、商売として成り立たないのでは?」

「半額は返ってくるから、たしかに商売としては……だけど、ファンタズマは気にしてなかったし、リビティーナーリウスの長も許していたって噂だ。長のほうは会ったことはないけどな。あと、ファンタズマ……というか、リビティーナーリウスにとっては低階層の救助料金なんて、大したもんじゃなかったんじゃないかな。その分をファンタズマが稼いで補填していたとか、聞いたことがある」


**********


 パロッサディは神官としての適性は高かったので、そのまま神官になることはできたが、性格が神殿勤めには向かなかったので、


「冒険者も兼ねた神官ということで」


 神殿付きではなく、各地をまわる巡検神官となり――各地を回るのならば、冒険者とのコミュニケーションが取れたほうが、なにかと便利なので、パロッサディも冒険者登録をすることになった。


「大きいところで登録したほうが、絶対にいいから」


 旅の冒険者と組んで、各地、各国を回るのもいいが、その冒険者がまっとうな人間かどうか? 神殿育ちのパロッサディには判別がつかない。


 そこでいろいろと教えてくれた元冒険者の神官レシジスが、王都のギルド支配人宛に手紙を認め、持たせてくれた。

 王都までは神官仲間たちと向かい――


「あれは、なんだ?」

「ああ、あれか。あれは、ユセリラルダ侯爵が開発した、監視カメラというものだよ」


 初めて王都にやってきたパロッサディにとって、見るもの全てが新鮮だった。彼がいた地方では、見たこともないものが、王都には多数あった。


 そしてユセリラルダ侯爵という名も、そこで初めて聞いた。


「へえー冤罪事件なあ」

「貴族絡みの事件とか、神殿には関係なさ過ぎる」


 自分とは無関係だと思いながらも、自由時間ができたので、一人で王都で有名人のユセリラルダ侯爵の邸まで足を伸ばした。


「さすが有名人。聞けば誰でも道順を教えてくれるな」


 王都に不慣れでなパロッサディでも、簡単に邸に到着することができた。そして、正面からぐるりと外周を伝い、裏口に到着する。


「不用心だな。魔法で封鎖されているわけでもないし」


 ユセリラルダ侯爵邸の裏口は、正面とは違い門扉らしいものがなく、塀の切れ間という表現がしっくりくる見た目だった。

 近づくと大きな切れ間は敷地側に凹んでおり、そこに棚が二つと、背は低いが頑丈で魔法防御が施されている箱と、その脇に簡素な机。

 机の上には紙とペンが置かれていた。


「なんだこれ?」


 好奇心から棚の扉を開けると、そこにはパンやチーズや端切れ、草臥れてはいるがまだ履くことができそうな靴や、売れば金になりそうなレースなどが並んでいた。


「寄付を配ってるのか」


 中身を見て、恵まれない人に寄付を配るのは神に仕える者の務めの一つなので、パロッサディにはすぐに分かった。

 だが、机と紙とペンについては、よく分からなかった。


 ”なんだろう?”と机に手をつき、あちらこちらを覗くように確認していると、


「神官の方に頼みたいことが」


 後から声を掛けられた。

 声を掛けてきたのは、どこにでもいるような特徴のない中年女性だった。

 彼女はユセリラルダ侯爵の邸の裏口に、事件の再調査を依頼できる「メヤスバコ」というものが出来たと聞き足を運んだ。


「ここに、調べて欲しい事件について書いて投函すると、調べてくださるのか」


 彼女は文字を書くことはできたので、自宅で書いてここまで持ってきたのだが――習ったわけではなく、誰かに手紙を書いたこともないので「これで、侯爵さまに伝わるだろうか?」と、邸への道すがら不安になった。

 だが引き返したところで、周りに再調査依頼を読ませることができず、また彼女の周囲の人たちも、彼女と同程度の文章力しかない。

 伝わることを信じて、投函しようとやってきた彼女の目に映ったのは、黒い法衣を着用した青年と呼ぶにはまだ早い、若い男性神官。

 神官ならば文章を綴るなど容易なはずだと、彼女は目的を語り自ら書いた依頼書を読んでもらった。


「ん……依頼文についての正答は分からないが、文字はちょっと読みづらいかもしれないな」


 彼女の文字を読んだパロッサディはそう言って、机に置かれていた紙に清書して手渡した。

 彼女は綺麗になった文章を前に、パロッサディに深々と頭を下げて、紙を投函し、自らが持ってきた依頼書を手に引き返した。


 彼女を見送ったパロッサディは、ふと故郷での雑談を思い出した。それは自分を育ててくれたサーツの師匠にあたる人物。

 「最後に教え子たちに会いたくて」と、サーツの元を訪れた、かなり高齢の神官。

 そのサーツの師匠は、唯一心残りがあるのだと語り出した。

 それはカラブリア王国出身ではないレシジスは初めて聞く内容で、もちろんパロッサディも初めて。


――先生の師匠が”あれは冤罪だ”って言ってたな。バクノンの……投書しとこ。もしも調べてもらえて、冤罪が晴れたら先生の師匠も嬉しいだろうからな


 パロッサディは備え付けの紙に、用意されていたペンを取り――昔、冤罪で捕らえられた神官がいたこと。神官たちは、彼が無罪であることを疑っていなかったので、神官の資格を奪わなかったこと。

 その神官の名前はガルムロド・アーティホードといい、南部のバクノン一門に属していることを書き記し「メヤスバコ」に投函して、ユセリラルダ侯爵の邸を立ち去った。


 その後しばらく王都に滞在し、


「レシジスやハーラミルリッツには、世話になったし、世話になってるからな」


 冒険者ギルドの現支配人と旧支配人が、護衛を得意とするしっかりとした護衛を選び、パロッサディは彼らと共に王都をあとにした。


 パロッサディがついた巡検という仕事は、目的地はなく――


「折角だから、まずは兄貴分の故郷に行ってみたいんだよな」

「兄貴分の故郷って?」

「バビロン」


 地味な旅になることを覚悟していた冒険者たちだが、いきなり冒険者なら一度は行ってみたい迷宮都市の名を挙げられ、笑顔で肯いた。


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