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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第六章・とある転生者の死後

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【01】

『さすちょうってなんだ? そして年上の手下なんて、大勢いるだろ』

『思考に割り込むな、おまえじゃなかったら殺してるとこだぞ。そしていきなり話しかけてくんな! まともな年上な。ま・と・も。分かる? スムマヌス』

『まとも……か』

『デスペラティオとかカコスとか、わたしとおまえ以外に制御できない馬鹿じゃないか』

『まともってそういうことか。たしかにその二人は、おまえと俺以外制御できないもんな』

『その二人以外にもまあまあいるけどな。で、なに? どこの階層で何人死んだの? 回収に向かうぞ』

『今回は死人回収ではなく、近々大攻略するから、有給休暇ってヤツを貯めておけっていう連絡だ』

『分かった、予備調査しとくな。久しぶりだな大攻略(レイド戦)

『右肩甲骨が疼くだろ』

『やめろ』


 年上のまともな大人が部下になりました。そして本業と副業、どちらもやたらと仕事が増えました――どっちも好きだから、全く問題はない。


 ヨトラコル伯爵と街に繰り出し、いい青空だ。日差しが眩しく青空が広がっている……それと自我を失った妄執の残滓である、原形が残っていない亡霊が一体。

 青空に似つかわしくないなあ。軽く祈って(強制消去)も良いけど、都市にはつきものだから、人の思いのなれの果てってヤツ。


「いい街ですね」

「ええ、わたしも心からそう思っております」


 休暇前に調査していた魔道具街灯による感電死事件について、やっと再調査できるようになったよ。


「どこが問題なのか分からないので、可能性を一つ一つ潰してくつもりです」


 目的地に向かう道すがら、いままで集めた情報(極僅か)を説明する。


「地道な調査は、得意なほうです」

「それは心強い」


 ついでヨトラコル伯爵も立ち直ってくれた。そーいや、この人責任感が強くて、自分は一切悪いことしてないのに、責任とって長官職辞した人だから、冤罪事件を見逃していたとなるとダメージ入る人だった。


 まあ、ヨトラコル伯爵が関わっていないものは、冤罪の確率が跳ね上がるんだけど。


 ……目安箱から提供された事件が残っていて調査する予定なんだけど……これも、ヨトラコル伯爵が長官だった頃にかかる……のか?

 確認して長官在任のころとかかっていたら、後回しにする? でも過去の冤罪事件なんて、早急に調べないと証拠と証人の絡みがあるから、できるだけ早急に。

 その度に落ち込まれてもなあ。気にする必要はないですよ! と言いたいが、気にするタイプだから復帰したんだろうし。


「どうかなさいましたか、エリニュス主幹」

「エリニュスでいいですよ」


 まともな人間にまともな態度取られるのは、まともな集団で生きてこなかったわたしには辛い。「どうせ着衣や防具類は吹き飛ぶんだから無駄だ」といって全裸で徘徊する回復兇人たちが懐かしい。


 猥褻物陳列罪とかないの? あると思う? あの無法都市に。そして回復兇人たちの言い分を「コスパいいな」と受け入れてしまっていた自分の黒歴史。


 いや、まあ、あいつらに着衣はもったいないから、今でも森羅万象において最適解だとは思うが。


「上官にそのような言葉遣いをしますと、長官に叱責されてしまいますので」

「…………」


 長官、許さないだろうなあ。うん、分かる。元長官だからといって……みたいな。だからみんな、部下にしたがらなかったんだね。


「長官厳しいですもんね、分かりました」


 砕けた言い方を強要して、ヨトラコル伯爵が長官に叱られるのは避けるべきだろう。


「そういえば、エリニュス主幹はバビロンで、”片翼”という渾名をお持ちと」

「げほっ! ごほっ、ぼほぉ!」


 なにをいきなり! いや、分かる。調査をしやすくするためだ。

 会話して意思の疎通をしやすくするための切欠として――だが! オルタナ! てめえ! よりにもよって、一番触れて欲しくない渾名をバラしやがったな! 分かる、だからバラしたんだろ!


「大丈夫ですか?」

「あ、大丈夫です。はい、片翼とも呼ばれています。バビロンでは珍しくない、体に部品を足したものでその形状が渾名になったんです」


 体内の魔方陣とか魔法回路、誓約印とか契約印とかその他諸々が多くなりすぎたので、それらを整理する為に体のパーツを増やして、そこにまとめていたんだ。

 両翼にしたらいいだろ? その時のわたしは、片翼にしちゃったんだよ。やっちまったんだよ! 


 今更両翼にしたところで、片翼の渾名は消えねえ!


 外国の人間は体のパーツを増やしていないことは知っていたので、バビロンを出る際に、片翼は右肩甲骨と同化させて、普段は「そんな中二病発症しておりませんが」って顔してたのに!


 同化できるの? 簡単にできるよ。どうして片翼をさらしてたの? バビロンでは変なパーツをつけて歩いていても、目立たないからな。


 片翼って渾名がついている時点で、目立っているのでは? …………言うな! たしかにバビロンに片翼はわたし以外、一人も居なかったよ。


「とてもお美しいと聞きました。オルクス曰く、バビロンでもっとも美しい体外構成だと」


 おい、ハードル上げるな、オルタナ。


「よろしければ、今度お見せしますよ」


 故郷では晒していたので、見せるのにはとくに問題はない。抵抗はあるが……だって片翼。両翼にしちゃおうかなー。でも両翼にすると、危険回避の時にな……。


「よろしいのですか?」

「はい」


 ヨトラコル伯爵が話題を振ってくれたから、こっちもなにか――そうだ! 真実の愛の魔道士枠という弟がいた。


「パレルソン……弟さんと随分と違いますね。カラブリア貴族って、実力誇大の口だけって思ってたんですけど」


 ヨトラコル伯爵の弟パレルソンは、バビロンの攻撃魔法を得意とするクラン・ヘカーテで雑用している。

 団員じゃなくて下働き。

 団員っていうのは、バベルの塔を二百階層を単独踏破した冒険者で、下働きは単独三十階層以上踏破、八十階層未踏破の冒険者。


 クランの運営には、まあまあ人が必要なのよ。ただし、あまり弱い人間だと使い物にならない。魔力がないと、触っただけで消し飛ぶ魔物素材とか、普通にあるんで。

 パレルソンはバベルの塔二百階層に到達してはいないけど、魔力はあって丈夫なので、下働きはできている。


 バビロンのクランで雑用するに至った理由は、表向きは竜退治の武者修行で、本当のところはユセリラルダ侯爵への不敬な態度を腹に据えかねた父親が「そこまで増長しているのならば、竜を倒してみろ。そうしたら許してやる」と。

 メルシュエトのように、特に罰を受けなかった奴もいるが、ヨトラコル伯爵家はまともなので、パレルソンに条件付き国外追放をかました。


 パレルソンは断罪五人組の中で、もっとも魔力があり、魔法が得意というポジションだったんだけど、その才能とかプライドとか、その他諸々バビロンで打ち砕かれた。


 使える魔法は、カスみたいなもの(オルタナ談)だったそうだ。


 オルタナから見たら、ほとんどの人はそうだと思うけど。

 パレルソンは最初はヘカーテのクラン団員になるつもりだったみたいだけど、竜は倒せないし、二百階層に到達できないし……で、下働きしている。


 当人は天才ともて囃されていたので、簡単だと思ったみたいだけど、現実はねー。冴えない顔色で、魔物の素材運んでる姿しか見たことないから、地元では天才扱いだったと聞いた時には驚いた。


 外国の天才って、たいしたことないなーと思ったことも、正直に言っとく。わたしのその考えは長官を前にした時、粉々に砕かれたわけだが。


「それを言われると、恥ずかしい限りです。弟は魔力が優れていたので、わたしたちも甘やかしていました。その結果が”真実の愛とはなんでしょうか?”です。先達ての大法廷で音声を聞き、貴族の籍も剥奪することにいたしました」


 共通の話題が真実の愛をのたまう不肖の弟パレルソン・ヨトラコルしかいなかったから話題振ったら、処遇を知ることになってしまった。


「あれ? わたし、弟君に止め刺しちゃいました?」


 なんの関係もないわたしが、十五年越しに断罪した? したの? 実感ないけど、ざまぁしたのか!

 バビロンでの冴えない姿を見ているから、今更ざまぁ! もなにも。ざまぁは、威勢が良かった頃、または人生の頂点に立っていると勘違い野郎している頃を知っている人が見たら楽しいが、真面目に仕事をしている姿を知っている今となっては……「真実の愛とはなんでしょうか?」の読者にとっては、追加コンテンツとして面白いと言えば面白いが。


「わたしたちの判断が甘かっただけです。王女殿下に対してあのような態度を取ったのですから、最初から籍を抜くべきでした」


 籍を抜く抜かないはいいとして、遠くに送ったのはヨトラコル伯爵家にとってよかったかと。地元にいてこのたび再度馬鹿しでかした、メルシュエトみたいなのもいるので。


 バリオロッシュの家、国際的に批判を喰らって、大変なことになっとるし。メルシュエトの怪文書を取り次いだ、侯爵の元婚約者リーノスとその実家のレメート公爵家も、なんかもう……ね!


「そうですか。ですがバビロンは貴族だから特権があるわけでもないので、貴族籍を失っても、いままでと特に変わらないと思いますけれど」


 貴族じゃなくても、今でも生き残っているから、大丈夫では? と、励ますつもりだったんだが……。


「ええ。ただ、わたしには弟はいない。それだけのことです……いいえ、本当は十五年前のあの日に弟は居なくなっていた。ただわたしが、弟の陰、いや亡霊を見ていただけのこと。いつか葬らなくてはならなかった亡霊を葬っただけのこと」


 特に表情は変わらないんだが……縁を切る判断を下したヨトラコル伯爵にとっては、ずっと家族だったんだろうな。

 きっと恨み切れなかったのだろうし、自分がもっと気に掛けていたら、弟がこんなことをすることはなかった……ヨトラコル伯爵みたいなタイプは、そういうの考えてしまうタイプだよなあ。

 「あなたは悪くない」なんて台詞は無意味。もちろん、このタイプの人は「ありがとう」って答えてくれるだろうが。


 感情って単純に割りきれないし、簡単なものではないからそうもなるよね――割り切り上手なわたしでも、他人の遅効性ざまぁに巻き込まれたあげくに、まともな人間が悲しむ姿を見るはめになったら、ざまぁの爽快感よりも、申し訳なさが勝る。

 わたしにも、こんな優しい気持ちがあったとは。もちろん”追加コンテンツとしては面白い! もっとくれよ!”という、外道感溢れる気持ちも、もちろんある。


「亡霊ですか……そうですね。たまに過去として、思い出してもいいのでは? もちろん一人で思い出さずに、無関係っぽいやつらと酒を囲みながら。なんなら、お相手しますよ」

「ありがとうございます。では、近々本当に酒の席を用意してもよろしいですか?」

「もちろん! あ、そろそろ現場です。現場を前にしてですが、ヨトラコル伯爵はなにか気になる、再調査したい事件などありますか? よかったら、協力しますよ」


 平の調査官は再調査希望は出せないが、役職付のわたしは、再調査希望を出せる……もしかして長官、わたしに再調査希望を出させるために、ヨトラコル伯爵と組ませた?


 まあ、わたし調査好きだからね。再調査とかも、面白くて大好き。少ない情報をたどるとか、楽しすぎて寝食を忘れるわ。もともと必要ないけれど。


「実は幾つか気になる事件がありまして。この事件を解決したら、相談に乗って欲しく」

「わかりました。でもまず、この事件を解決しましょう。冤罪か否かから」


 肩を並べ――ヨトラコル伯爵は背が高いので、全く肩の位置は違うが、現場へと近づく。


――そうだ冤罪関係なら、ユセリラルダ侯爵の話題……えっ……




 ”ヨトラコル伯爵には、残って組織の改革をして欲しいのです”

 (わたしは、あなたのことを愛しています。前世も今世も家族に愛されなかったわたしは、愛を伝えることには臆病で……でも、あなたを愛することだけは許して欲しい)




 わたしのもう一つのギフト・過去視が火を噴いた。


 独身だったユセリラルダ侯爵。物語なら理解してくれる男性と相思相愛になるのが大定番だが、彼女は独身だった。独身が悪いとは思わないが、ユセリラルダ侯爵はヨトラコル伯爵が好きだったようだ。


 所作が美しく、年上の誠実な男性。うん……最低ライン以下の婚約者と比べる必要もないくらいにヨトラコル伯爵のほうが上だ。




 ”いいえ。わたしは責任を取って、辞任させていただきます。あとは後任に”

 (わたしはあなたが憎い。そう思ってしまう自分が嫌になる。あなたに会えば会うほどに憎悪が)



 だがヨトラコル伯爵は、ユセリラルダ侯爵のことが嫌い……というか、憎悪の対象のようだ。理由は……弟しかないよなあ。

 ギフトが「その話題は出さないほうがいい」と告げてきたのだから、ユセリラルダ侯爵には触れないでおこう。



 機関の採用面接のとき、長官相手に発動しなかったギフトが、ヨトラコル伯爵に対して発動するってことは、よほどこの人には禁句ってことだ。



――――いつか葬らなくてはならなかった亡霊を葬っただけのこと――――



 弟を遠ざける原因となった元王女。恨むのは筋違いだと分かっていても、貴族として正しい判断を下したが……いや、下したからこそなのかも知れない。

 簡単に割り切れる程、無情ではなかった。

 元王女はそんな伯爵だから好きだったのかもしれないが――貴族の責務と家族の愛情の狭間で、感情を無理矢理飲み込み続けた結果、二人の関係は進展することもなく終わった。



 ユセリラルダ侯爵が三十年前の事件を、ヨトラコル伯爵に持ち込んだ理由って、会いたかったからかも知れないなあ……。それにより心が離れるとか、感情って難しいし複雑だし臆病……だけど、時として強いよなあ。とくに成就しなかった思いって残るよなあ。


「あの街灯があった位置ですか」

「そうです」

「その業者に知り合いがいます」


 ヨトラコル伯爵をバビロンに行く時に誘ってみようかな。きっとこの人は亡霊になった弟に会いたいだろうから。



 ”わたしはあなたのことが”



 ヨトラコル伯爵に愛を渇望する亡霊は必要ないし。



 ”わたしはあなたのことが”


 

 前世を同じにしていただろう亡霊王女よ、あなたの霊が再び前世の世界に戻れることを軽く祈って(・・・・・)、終わりにさせてもらう――太陽は眩しく青空は美しく亡霊はもういない。



【完結】






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