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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
閑話

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沈黙の亡霊【後篇】

 途中下車して休憩を挟みつつ、魔道列車を乗り継ぎ――ある日魔道列車に「これより、バビロン」とアナウンスが流れた。

 すると同時に窓から差し込む日が消え、車中は日陰になる。


「皆さまがバベルの塔の制覇者になることを、心より期待しております」


 歓迎なのか「お前たちには無理だ」と言われたのか? アナウンスの声色からは、判断が付きにくかったが、パロッサディはあまり好意的に受け取れなかった。


 現時点で冒険者の技量は持っていないパロッサディだが、一応パーティーのリーダーだった。


「バベルの塔探索ができる冒険者って、意外と上澄みだったんだ」


 魔道列車で移動中に、互いのことを知るべく話ていた中で、パロッサディが”レシジスは、五階層で冒険者辞めたんだ”と語ったところ、護衛の冒険者たちが感嘆の声をあげ、詳しい説明を受けた。


「じゃあレシジスも、もっと自慢すりゃあ良かったのに」

「バビロン生まれだと、幼馴染みがクランの一員とか普通にあるから、自分の評価が低くなるんじゃないかな」

「クランって、単独二百階層超えないと属せないって聞いたけど」

「バビロン育ちでバベルの塔を登った先生の助言は、聞いたほうがいいか」

「なに?」


 パロッサディは低階層の地図について説明し、


「たしかにバベルの塔では、そう言うクランがあるとは聞いてたけど、低階層の地図は知らなかった」

「聞いたことある気がする。”なんとかのなんとか”っていう」

「なに一つ分からねえ」

「でもあるんだ」


 長旅ですっかりと打ち解けた彼らは、そんな話をしながら、


「終点バベルの塔西前、バベルの塔西前になります」


 到着の案内に腰を上げて、夕暮れ時よりも暗いバビロンに降り立った。


「うわ……」

「駅……」

「でか……」

「……」

「……」


 パロッサディと護衛の四人にとって、初めてのバベルの塔前の()ですら、圧巻だった。とにかく、彼らがいままで見たなかで、もっとも大きな建物であり、それは駅を出ても変わらなかった。


「あの視界全てを遮断する、鈍色の壁がバベルの塔?」


 バベルの塔は巨大すぎて、パロッサディには建物とは思えなかった。

 同行した冒険者たちも、見上げられるだけ見上げたが、ただの壁にしか見えず。


「聞いてはいたけど、すっごいな」


 彼らは一頻り驚いたあと駅を出て、まずは目的の品を買うことにした。


「リビティーナーリウスの店って、どこにありますか?」


 来たこともない場所なので、パロッサディはすぐに駅員に声をかけて、行きたい場所について尋ねた。


「この大通りをまっすぐ行くといい。奴らの紋が掲げられている。奴らの紋は分かる?」


 駅前にいる駅員は、このように初めてくる人たちへの道案内をし、


「これがリビティーナーリウスの紋だ」


 胸元から出した小さな手帳に書かれていた図の一つを指差す。


「……多分、大丈夫だと思います」

「ここに来るのが初めてなら、リビティーナーリウスにまっさきに行くのは良いことだ。あいつら腕は確かだし、信頼できるからな。最初は塔滞在半日で契約するんだぞ。あとバビロンには、人間に見えないのが多数いるけど、クラン紋が額とかにあるから、そいつ等は”多分”人間だから怖がらなくていいぞ」


 駅員の助言にパロッサディは頭を下げて感謝し、大通りをまっすぐ進んだ。


「うわぁ」

「噂では聞いていたけど」


 バビロンでは他の国ではあまり(・・・)見ることのない、人間と”なにか”が混在している容姿の者が多く――彼らも慣れているので、パロッサディたちのように、初めてバビロンを訪れた者たちが、自分たちに驚愕の眼差しを向けることに、不快を感じることもなく、人によっては軽く手を振ったりなど気さくな一面も見せてくれる。


 パロッサディたちは駅員の説明通り、大通りを進みリビティーナーリウスクランにたどり着いた。

 店はバベルの塔と駅の丁度中間の位置にあり、建物の表側には紋が光によって、大きく映し出されている。

 建物は非常にシンプルで、一階は解放されており室内が外からもうかがえる状態。

 壁際には商品が並べられており、中央にはやや大きめな四角い机が幾つかと、机よりも数が多い椅子。

 三組ほどが額にリビティーナーリウスクランの紋がある人と、なにやら話をしていた。


「おじゃまします」


 パロッサディは挨拶し、入店すると、


「いらっしゃい」


 店内にいた本来耳朶がある部分に、鳥の翼がついた、全体的に白っぽい人物が笑顔で近づいてきた。


「購入したいものがあるのですが」

「なにかな?」

「ファンタズマのハザ(・・)ード()ップ第一階層版が欲しいんですが」


 パロッサディが商品名を告げると、小さな鳥の翼の耳朶を持つ男性は、細めの瞳を開き、無言で「え?」と――


「……」

「……」

「あれ? こちらじゃなかったですか?」

「いや、ファンタズマはウチのクランのコスパで間違いない……ハザードマップ……」


 小さな鳥の翼の耳朶を持つ人物は、店内にいる顔に同じようにクランの紋を付けている者たちに視線を送るが”分からない”と、首を振るものばかり。


「コスパのハザマのことだよ」


 他のパーティーと話をしていた目元を包帯で巻いている人物が、そう大きな声で告げる。


「ああ!」

「あれ、正式名称ファンタズマのハザードマップだった! 正式名称なんて久しぶりに聞いたわ」

「コスパのハザマでしたか。おかけになって、お待ち下さい」


 鳥の翼がついている人物は、ちらりと商品棚を見て商品がないことに気付き、裏へと取りに走った。


 店員――リビティーナーリウスクランに所属している者たちが「ああ。そうだった」「呼びやすいから、ハザマとしか覚えてなかった」「ジタンのハザマでもいいんじゃね? って言ったら、なんか”ソイツは違う”って、コスパに言われたことあったんだ。コスパとジタンの違いってなんなんだろうな」「グレボの謎が未だに分からん。団長に聞いても教えてもらえないし」など口々に話し始めた。


 パロッサディたちは椅子を勧められたが、商品に興味があったので、商品が置かれている棚へと近づく。


「これレシジスが言ってた護符か」

「初回は護符と救助料がかかるので、少々お高めですが、次からは護符代はかからないので安くなります……が、お客さまはウェイヨウィスの神官でいらっしゃいますから、護符代は必要ありませんよ」


 商品を見ているパロッサディに他の店員が近づき、料金形態や商品の説明をしていると、先ほどの人物が戻ってきて、


「補充するの忘れてた」


 ”切らしている”と申し訳なさそうに裏から戻ってきた。


「他の支店から在庫を持ってくるから、少し待ってくれますか」

「他の支店?」

「うん。ここは西側支店。バベルの塔は大きいから、東西南北の他に西南西とか北北西とか、結構な数の支店があるんだ」


 その言葉にパロッサディは、先ほどのバベルの塔という名の、果てしなき壁を思い出し納得した。


「どうした?」


 急ぎではないから、いいですよ……と言おうとしていたら、五人パーティーが入店してきた。

 その中の一人――背が高く、がっしりとしていて、短く刈り込んだ髪に太めだがすっきりとした眉を持つ、バビロンの特殊な容貌に不慣れなパロッサディたちでも、一目で「男性」と分かる人物が声を掛けてきた。


「クラン長」


 この人物こそリビティーナーリウスのクラン長スムマヌス。


「このパーティーがコスパのハザマを買い求めにきたんですけど、切らしてて。これから送ってもらおうかと」

「切らしちまったもんは、仕方ない。早めに補充しろ。そして、わざわざ足を運んでくれたのに、悪かったねえ」


 スムマヌスの威圧感のない、少し困ったといった笑顔に、パロッサディはなんとなく安心した――彼らはクラン長に関する情報を持っていなかったので、どれほど怖ろしい人なのかと、不安に思っていたので。


「そうだ、団長! このパーティー、正式名称でお買い求めに来て下さったんですよ」

「正式名称? コスパのハザマの正式名称ってなんだ?」

「ファンタズマのハザードマップ」

「ファン……ハザ…………忘れてた! そういう商品名だったな。君たち、バビロン出身じゃないよね。誰が地図を? 君? 名前は? ちなみにわたしは、スムマヌスだ。リビティーナーリウスのクラン長をしている」

「お……ああ、パロッサディと言います。ウェイヨウィスの神官で、巡検の務めについております」

「自己紹介ありがとう。それでパロッサディは、どこでファンタズマのハザードマップについて知ったのかな? もしかして本人から聞いた?」

「いいえ。ファンタズマさん? は、バビロンにいるのでは?」


 店員、即ちクランの構成員たちの会話を聞いていると、どうも”ファンタズマ”は通りが悪いようなので、名前ではないのかとパロッサディはやや不安になったものの、かといって、意味も解らず”コスパ”と呼ぶようなこともできないので、不安を押し殺しながらファンタズマと呼んだ。


「ファンタズマの分体はバベルの塔にいるが、本体はカラブリアで遊んでいるよ。西駅に到着したから、カラブリア方面から来たのは分かるから、てっきりファンタズマから聞いたものと」

「カラブリア王国出身ですけれど、会ったことはありません。知ったのは――」


 パロッサディは元は冒険者で、いまはカラブリアで神官をしている人物の名を告げた。


「その経歴は多いが……ファンタズマは売った相手の名前を書き留めているから、そのリストにいるだろうな。君たちも名前控えさせてくれ。悪用はしないから。ちゃんとサンクスするから」

「サンクスする?」

「”サンクスする”ってのは、誓約のことだ。済まん、済まん。ほんと、こういう初めての人に、内輪の用語使うとコスパ……じゃなくてファンタズマに叱られるんだよなあ。ところで、君たちはファンタズマのハザードマップを買って、バベルの塔に行くつもりだったんだろ」

「はい」

「その気持ちを台無しにするわけにはいかないな。よし! わたしがお詫びに一緒に行こう」


 パロッサディと仲間たちは顔を見合わせ――


「あとでお金取ったりしないから。戦闘系クランの一員じゃないから、不安かもしれないが、一階層、二階層くらいなら心配しなくても大丈夫だよ」


 折角の申し出なので、彼らはありがたく同行してもらうことにした。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「はーい。大丈夫だよ、クラン長それなりに強いから」

「ヘカーテの音喰い……じゃなくて、ウィルトゥースの竜喰いが相手でも無い限り、やられないよ」

「不安を煽るだろうが」


 店員たちの声を背に、パロッサディはクラン長スムマヌスと共に店を出て――店の隣の空き地に停まっていた馬車に案内され、バベルの塔を目指すことに。


 馬車内でパロッサディたちは、さまざまな「バビロンで役に立つこと」を聞き、バベルの塔の前に到着したので下車した。

 バベルの塔という名の壁には、大きな穴が開いていて、その前には雑多な出店が立ち並んでいた。


「スムマヌスじゃないか! 珍しいな、一階層の入り口から入るなんて」

「ちょっと御案内してくるんだ」

「ますますもって、珍しいな。そういうの、コスパの専門だろ」


 そんな言葉を受けながら、彼らは初めてのバベルの塔を楽しんだ――未熟な冒険者であれば、一階層から入ってすぐに死が訪れる世界だが、一流クランの長が同行し、


「ハザマにも描かれているが、ここが安全地帯だ。でもって、この安全地帯はここまでで、こっちは危険地帯となっている。だからファンタズマは、この安全地帯はあまり勧めていない。ちなみに危険ってのは、こういう感じになる――」


 安全な地点だけではなく、危険帯に足を踏み入れ「どのように危険なのか?」まで、身を以て解説してくれた――もっとも、クラン長が強すぎて危機感はまったく覚えなかったが。


***********


『よお、コスパ。グレボだよ』

『コスパ言うな! グレボも忘れろ!』

『俺のことはグレボでいいんだぞ、ジタン』

『ジタンも止めろ』

『いいじゃないか。嫌いじゃないんだぜ、グレボ。ノセーフォロスより、ずっといい感じだ』

『いい感じってなんだよ』

『それより本題なんだが』

『本題あったのか!』


**********


 パロッサディたちは、その後ファンタズマのハザードマップが届くまで、


「初めまして、ハザードマップを作ったファンタズマの分体です」


 現れたファンタズマの分体によって、バビロンを案内してもらうことができた。


「こんなによくしてもらって、いいんですか」

「全く問題ない。ファンタズマって言ってもらえて、嬉しくて! 教えてくれた人の名前教えてくれる? なんかあったら、力になるから」


 もちろん無償で、さらにパロッサディの兄貴分ことレシジスにも便宜を払うね! とも。

 機嫌が良かったファンタズマから、第一階層とおまけ(・・・)に第二階層の地図ももらった彼らは、そこで満足して、別の都市へと向かうことにした。


「また来たら、寄ってね!」

「今度は地図を切らさないようにしているから!」


 最初にパロッサディたちを接客してくれた、耳の所から鳥の翼が生えている人・ミュルミドーンとファンタズマの分体と、


「布教とかいろいろ頑張れよ」


 クラン長のスムマヌスに見送られ、魔道列車に乗り込み別の国へと向かう。パロッサディたちが再びバベルの塔に向かうのは、随分先であり、次に降り立つ駅は東南東だが――


「久しぶり。そして、一つだけ聞いていいかな? カラブリア王国の侯爵殺害事件についてだけど」


 そこにいたファンタズマの分体に質問され、パロッサディは正直に答え、それは永遠の沈黙とされ――ユセリラルダ侯爵殺害事件は、投書した人物だけは謎のまま、事件解決となった。


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