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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第五章・過日の亡霊――亡き元王女に捧げる正義の亡霊

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【09】

 オルタナの未来視が指し示した「ユセリラルダ侯爵殺害事件に関する第二の事件」は我々の勝利で、無事終了した。


 未来視がもうちょっと分かり易かったら良かったんだが……終わってみれば、犯人を指し示してはいた。

 こういう感じだから、ギフトは裁判では使えない。すなわち証拠にならない――機関では使用禁止になって当然。


「ご無事でなによりでした、エルトハルト長官。別に心配しちゃあいませんでしたけど。わたしは取りそびれた休暇を消化させていただきます。それでは」


「待て、エリニュス」


 首根っこ捕まれた!


「休暇を」

「黙れ、エリニュス。クアルバーグ、ユセリラルダ侯爵殺害事件を任せる」


「かしこまりました」


 無念を晴らすというか、侯爵にたいしてできる最後のことだから、頑張れ! クアルバーグ参事官。


「オルクス、お前はヴェデリオン・パールス氏殺害事件だ」

「あー大昔の事件を掘り返すのは、苦手なんですが」


 おまえは未来に生きる男だからな。スキルが大体未来形だから、苦手だろうよ。頑張れよー協力しないけど。


「苦手から逃げるな」

「はい……かしこまりました」

「そしてエリニュス。お前は、ユセリラルダ殺害のために魔石を集めた冒険者を探せ」

「ロテルシト男爵の供述を待って?」

「あの男が供述すると思うか?」


 自分の罪が軽くなるための証言はするけれど、自分の罪が重くなるような証言はしないだろう――誰でもそうだけど、こいつは特にそうだろうなあ。

 なまじ「なにを証言すると、罪が重くなる」かを知っているから、避けてくるだろう。


 とくにあの映像を見た後だと、予防線の張り方が巧くて厄介な相手になるのは認める。


「自白魔法でも使わなければ、無理でしょう。さすがに、あそこで這いまわっているバリオロッシュの貴公子よりは、駆け引きできそうですから、自白魔法の使用条件くらいは避けるでしょうね。それはそれとして、どんな精神魔法をかけても、完全回復できますけど」


 なんなら途中の記憶も消せますよ? もちろん違法だけど。


「違法は好まん。迷宮においての遺体探索は、機関どころかすべての冒険者の中で、おまえがもっとも優れているはずだ」


 長官から褒められてる。そりゃまあ、得意ですが! 得意ですが! 


「近辺の迷宮総当たりかー」


 ドロクローが迷宮主やってたところは、除外しても大丈夫だろう。そうだとしても…………


「さっさと探し出せ。お前ならできるだろう」

「分かりまし……ああ! 最後に一つやりたいことが」

「いま、ここでなくては、だめなのか?」

「はい!」

「なんだ?」


「ロテルシト男爵に魔石が詰まった箱を持って、浮遊してもらいたいのです」


「……そういえば、魔石を持って侵入できないから、監視カメラの映像を改竄したと言っていたな」

「はい。どのみち確認しなくてはならないことなので」

「そうだな」

「魔石が詰まった箱を持ったまま、浮遊できたら犯人から遠ざかるので、ここは頑張りどころでしょう!」


 もともと浮遊できるのかもしれないが……浮遊できたら、浮遊で侵入すると思うよ。事件後にトレーニングして、浮遊できるようになった? 可能性はゼロじゃないけど、努力するような感じでもないんだよなあ。


「頑張ってできるものならばな。クアルバーグ、実演させろ。ロテルシト、エリニュスが言った通り、浮遊ができたら、殺害容疑が薄れるのだから真剣にやれ。裁判長、証拠品2をお借りしたい」

「分かりました」


 裁判長と長官の間で話がついたので、ロテルシト男爵が傍聴席から連れてこられて、クールベイト裁判官が乱雑にロテルシト男爵の前に、証拠品2こと魔石が詰まったキャリーケースを置いた。


「さっさと浮遊しろ、ロテルシト。飛べるのであれば、飛んでもいいぞ。飛べるものならばな。逃げ切れると思うのならばな。このラッカンネール・エルトハルトの追跡から逃れられると思うのならばな」


 長官の圧が凄い。

 ちなみに恥さらしロイヤルボックスの面々もまだいる。王族である彼らが退出しないので、傍聴席の貴族たちも退出できないでいる。

 王族が退出しない理由?

 それは裁判長が退出許可を出していないから。

 閉廷しても、退出の許可が出ないと法廷から出ることはできない。それだけは、知っていたようだ。


 というわけで、法廷にいるすべての人の視線を向けられているロテルシト男爵。

 覚悟を決めたようで、キャリーケースの持ち手に手をかけて、勢いよく握り――


「くっ! うおおおぉぉ! お? あっ? ああああああ!」


 奇声を上げながらスライドし、裁判長席に激突した。


「なんだ、あれは」


 長官の呆れを全く隠さない声が、静かな法廷に響く。


「お下手でいらっしゃいますね」


 オルタナの馬鹿にした口調。普段の長官なら叱責しているが、今回ばかりはオルタナの意見に同意なのか、なにも言わなかった。


「ここまで浮遊できないとは、思ってもみませんでした」


 言い出したのはわたしだが、さすがにここまでヒドイとは思わなかった。思うわけないだろ、人並みに魔力あるんだから。

 スライドして激突したロテルシト男爵に、クアルバーグ参事官が大股で近づき、捕まえる。

 そしてクールベイト裁判官が駆けより、魔石の入ったキャリーケースもどきを回収し、裁判長が「見るのも嫌だ」といった表情でため息を吐く。


 閉廷した法廷が地獄の様相になってる。こんな静かな地獄を作り出してしまった、自分の才能が怖い!


「ヨトラコル伯爵! ロテルシト男爵、浮遊できませんでしたよ! 最低基準以下ですね! お情けで長官になったみたいですね!」


 この重い沈黙を破るために、ヨトラコル伯爵に声を掛けたら、


「ああ、本当に、恥というか……」


 手で顔を覆い隠して前屈みになってしまい――今度は法廷の空気が、いたたまれないものに。


 これはガチで間違ったな。あとで長官に叱られるわー!


「あなたは魔力もあるし、使いこなせてもいるから、恥じることはない」


 そんなことを考えていたら、長官がヨトラコル伯爵を励ました!


「長官に気を使われるとか、ただの惨事でしかない」

「エリニュス」

「まあまあ。ロテルシト男爵の移動能力の限界値が分かりましたので、迷宮も絞り込めました。今日中に魔石を採掘した迷宮と、冒険者たちを見つけ出してきます」


 それはそれとして、ロテルシト男爵の小狡さの方向性と、魔力と魔法レベル、いなくなった三人の冒険者のレベルから、大体の予測はついた。


「そうか……そうだ、カラブリア国王。貴様を国際法に基づき、被疑者虐待の主犯として訴える。心して待っていろ」

「なっ!」

「牢につないで、食事を一切与えなかったからな。わたしだから問題はなかったが、これが魔力の少ない人間ならば、健康を害していたところだ。被疑者に最低限の衣食住、および睡眠を与えるのは、国際法で定められていることだ」


 長官の言葉に、裁判長と十人の裁判官と、その他職員の皆さんが「このカスが」って視線を向けた。

 ”そういう扱いしている”ことは分かっていても、それを訴えられるのは当然と思っていても、蔑みの視線を送りたくなってしまうのは仕方ないよな、うん。


「それと少々、元レメート公爵子息リーノスに尋ねたいことがある」


 突然名指しされた、体に痛みが残っているっぽい、真実の愛の貴公子ポジションだったユセリラルダ侯爵の元婚約者リーノスが顔を上げる。


「なん……でしょうか」

「口の利き方はぞんざいで構わない。自国の王女相手にあのような口の利き方をしていた男に、丁寧な言葉遣いなど求めはしない」

「……」

「それで質問だが、なぜおまえはその王太女を”か弱い”などと亡き侯爵に向かって発言したのだ?」

「え……それは、彼女が異母妹で、身分が……」

「あの発言当時は、どちらも王女の身分だったはずだが」

「それは……」

「どちらも王女で、どちらも王妃の娘であるのならば、魔力を持たないほうがか弱いのではないか? その王太女は侯爵よりも魔力があり、今回ロテルシト男爵が行ったとされる魔石の連鎖爆破でも、即死することはないくらいには丈夫だぞ。死にはするだろうがな」

「それは、精神的なもの……で」

「おまえは亡き侯爵の精神性を理解していたのか? あの音声を聞く分には、全く理解していないようだが。おまえは胸を張って、亡き侯爵の精神性を理解していたと、宣誓できるのか?」

「…………」


 長官、正論は時として人を傷つけるんですよ。だから……いいぞ! もっとやれ、長官! ざまぁは何度でも!


「わたしは亡き侯爵のことは何も知らないから、無責任な台詞であることは承知の上で言わせてもらうが、亡き侯爵はおまえと結婚しなくて幸せだった。そういう意味ではおまえの婚約破棄は亡き侯爵を、最高に幸せにしたのであろうな、元レメート公爵子息リーノス。おまえは本当に素晴らしい婚約者だった」


 侯爵のこと嫌いな長官をして「彼女に最高の幸せを与えた男」と、誰もが納得する言葉を…………うぉぉぉ! 長官のオーバーキル。最高だ!


 そしてまた(・・)傷ついた表情を浮かべる、真実の愛を語る輩たち。多分リーノスも異母妹も「実は侯爵はまだリーノスが好き」とでも思っていたのだろう。


 どんだけ自分がいい男だと思ってんだ? そしてどれほど自分の誘惑に簡単に乗った男がいい男だと思っているのかな?


「それでは長官、わたしはアーティホード氏の元へと向かいます」


 死んだような法廷――先ほどから法廷が死にまくっていて困るのだが、その空気の中オルタナが出発を告げた。


「くれぐれも、失礼のないようにな」

「それは人選を誤っていらっしゃいますよ」

「最大限の敬意を払え」

「いつも長官にしているような態度で」

「それは、失礼極まりない。くっ……アーティホード氏、ただいまそちらへ向かうこれは、オルクス・バベル・ウィルトゥース・タナトスといい、礼儀作法がなっていない者ですが、人員不足のためこれ(・・)でお許しいただきたい」


 長官が頭を下げる。

 下げるべきとは下げることができるんだなあ。もっとも相手は機関が三十年も放置してきた冤罪被害者とか、天文学レベルの賠償金を求められても、首を縦に振るしかできない。


『お気になさらずに。なにせわたしは、被疑者ですので』

「ははは。それは仰らないでください」


 アーティホード氏、いい人だなー。だから三十年間、仲間たちが無実を胸に秘めて、機会をうかがって……侯爵がいなければ、この事件は解決どころか、耳目にさらされることもなかっただろうな。


 結果として侯爵は殺されてしまったのだけれど。


「いい人そうで、安心いたしました。それでは」


 オルタナが滑らかに宙に浮き、そして飛行を開始し、法廷にいるすべての人々の視界から消えた。


「飛行魔法を使える人間など、珍しくもないことを覚えておくのだな、カラブリアの王族ども」


 いや、カラブリア王国では空を飛べる人は、あまりいないそうですよ長官。だから竜の襲撃に対してどのように対処すべきかを考え、結果としてオルタナという竜に襲われたほうがマシな冒険者を雇ったらしいです。


「お休みになられますか?」


 ルミルレットーバ筆頭書記官が長官に声を掛けるが、長官は首を振る。


「疲れてなどいない。訴訟準備だ」

「かしこまりました」

「アートス。そこの証人13も逮捕だ」

「あ、はい……」


 逮捕される犯罪者に美しさなんてものは求めないが、涙と鼻水に泡になった涎、失禁と脱糞姿で法廷を這いずり回っている犯罪者とか、触りたくないよな。

 これがやむを得ない事情で閉じ込められていた人で、やっと救出したときにこの状況なら、わたしも大歓喜で抱きしめるけど、これ自業自得(わたしの偽装によるもの)の上での自滅だからな。


 罪状は意味わかるが動機はなんか意味わからんし。

 長官の冤罪晴らしておきながらだが、こいつがしたかったことに関しては、分かっていない。

 本当は全部の謎を解きたかったけれど、準備期間が短すぎて仕方なく、勝ちだけ取るスタイルに切り替えたからな。



 ユセリラルダ侯爵の死の真相に近づいた”だけ”で終わってしまった。わたしとしても不本意だよ。調査がしたくて、機関に所属しているのだから。

 


「アートス、それ機関まで持ち帰ったら、わたしの分体がその真実の愛を求めし汚物を清浄するから、それまでは頑張れ」

「真実の愛を求めし! ぶっ! ありがとうございます、エリニュス主幹……っと汚えな」


 さあ、みんなでメルシュエトの精神削ろうぜ! 証拠偽装で冤罪事件を起こしまくる奴の精神とプライドなんて、削って削って削りまくるのが正義ってもんだ!


「それでは長官。わたしも……」

「遺体の回収が終わったら、次はヴェデリオン・パールス氏の遺体を直せ」

「混ざっているから、もう一体(先代国王)がないと完全に復元はできませんよ」

「まずは……だ。あと、ウルティフォ氏の結婚相手は、何者であったか? 本当に殺人を犯していたのか? これはわたしが個人的に知りたいので占え。それと」

「長官、わたし、めちゃくちゃ仕事多いんですが」

「楽しいだろう? 嬉しいだろう?」

「まあ、楽しくて嬉しいですけどね。先代と今代のカラブリア王を訴える準備には、是非ともかませてください! それでは、行って参ります!」


 死んだ国王と生きている国王、どちらも地に這わせるとか楽しみだな!



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