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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第五章・過日の亡霊――亡き元王女に捧げる正義の亡霊

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【06】

 裁判長たちは失敗を認められるようだ。裁判長たち本人が悪いことしたわけじゃないんだけど。過去の裁判官がねえ……


「ありがとうございます、裁判長。わたしは証拠を突き合わせていくうちに、十五年前の大喜劇を記した本”真実の愛とはなんでしょうか?”に、手がかりがまだ眠っているのではないかと考えて、しっかりと読み込んでみました」


「なにかありましたか? ファンタズマ氏」


「はい。正確には”真実の愛とはなんでしょうか?”の記述にあった、バリオロッシュ氏が用意した捏造証拠です。小説でバリオロッシュ氏は”滔々と読み上げた”と、短い記述しかありませんが、実際はどのようなものだったのか? と当時その場にいたクールベイト裁判官やクアルバーグ参事官、その他わりと(・・・)まっとうな精神をお持ちの方たちに聞いたところによると、とても長い演説だったそうです」


 残念というか幸いというか、録音が残っていたので聞いたところ、そりゃもう……聞いているだけで、背筋が痒くて痒くて、自分がゾンビにでもなるのか! ってくらい痒かったね。


「”滔々と読み上げた”確かにありますね。ふむ、証人13メルシュエト・バリオロッシュ氏、証言台へ」


「はい」

「あなたは十五年前、捏造証拠を読み上げましたか?」

「それは、この裁判に必要なことなのでしょうか」

「答えてくださらなくても結構です。席にお戻りください」


 喋らなかったか。別にどうでもいいけどね!


「ファンタズマ氏、お願いします」

「はい、裁判長。この大喜劇は、正式な裁判が行われていないので、バリオロッシュ氏がどのような捏造証拠を提示したのか? 証拠品となる偽造品は残っていない……ですが、大喜劇の場で誰も味方がいなかった侯爵は、小型録音機を隠し持ち録音していた思い出しました。だから……もしかしたら、その記録は残っているのではないか? と思い探しました」


 法廷がざわっとした。


「残っていましたか?」

「残っていました。そこでバリオロッシュ氏の”滔々と読み上げた”部分を、書き起こしました。それが証拠品55です」


 書き起こしはわたしの分体がやった。だって内容が内容過ぎて「まじ、これ証拠品として提出するんですか?」って調査員が疑問に思うだろうから、わたしが共感性羞恥などという、生やさしい言葉では言い表せない痒みに耐え、心で血涙流しながら頑張って書き起こしたよ、悪役令嬢断罪シーン。


 前世で悪役令嬢モノの耐性があるわたしでも辛いのだから、耐性がない調査員たちは精神が死にかねない。未来ある調査員たちを潰さないために、主幹という役職付のわたしは頑張った。


「確認しました」

「証拠品55の栞を挟んでいる箇所と大法廷の原因となった、怪文書と見比べてください」


 裁判長が裁判官の一人を呼んだ。おそらく、文章鑑定ができる裁判官だろう。機関(こっち)が提出した書類が正しいかどうかを、確認できる人がいないと大変なことになるからね。


「機関の判断は?」

「文章の構造から、同一人物の可能性がきわめて高いと判断いたしました」

「裁判所も機関の意見に同意します」

「ただし、文字はバリオロッシュ氏のものではありません。証拠品56、メルシュエト・バリオロッシュ氏直筆の手紙と書類の束です。栞を挟んでいる頁を一つ開いてください」

「分かりました。おや、同じ誤字ですね」

「はい。誤字が同じです。そして全て間違っています。バリオロッシュ氏は完璧にこの文字を間違って覚えています」


 高位貴族って単語の綴りを間違って覚えていても「誤字だけど身分的に指摘できないから、そのままで。意味は分かるから」って、誰にも指摘されないんだって。

 子供のころに間違って覚えると、その先は……指摘してもらえる高位貴族もいるけれど、捏造証拠で私刑系裁判ごっこした男に、指摘しようと思う人間なんて、いるわけがない。


 見放されてるってことだ。


「そのようですね」

「ただ文字は違いますので文字を書けない人間に、写させたのでしょう。ところどころ、筆記用具を離したあとに足りないからと付け足している箇所があります。証拠品57、同じように文字が書けない者たちに、この文章を書き写させました。その結果、ほとんどが同じところで付け足しを行い、また全員が誤字を訂正することはありませんでした」


「その人物たちが、文字を書けないという証拠は?」


「冒険者ギルドで、受付に代筆してもらっている者たちを使いました。ああ、説明を忘れておりました。ギルドの代筆は有料なので、文字が書ける者がわざわざ頼むことはありません。その証明として、これらの文字は証拠品4、スパルク氏の回収手帳に名前が載っていた冒険者に依頼いたしました。金融ギルドに金を借り、期日を守れず複利を膨らませ取り立てにおびえながら、文字を書けないふりをする冒険者など、まず居ないかと。存在しているとしても、それは少数のはずです」


 知識がない人は、本当に金むしり取られるんだ。そうは言っても、金融ギルドも慈善団体ではないので、当然なんだけど。なんと言っても複利は違法ではないし。


「なるほど……たしかにそうですね。これは証拠として採用いたします。他にありますか?」

「はい。ヴェデリオン・パールス氏と先代国王の遺体について戻りますが、四つの魔力紋のうちの最後の一人は、メルシュエト・バリオロッシュ氏の祖父と断定できました。証拠品58の魔力鑑定表です」


 メルシュエトの祖父は短い間ながら、機関に所属していたので魔力が登録されているから、照合することはできた。

 登録魔力が偽物である可能性も考慮し、他にも魔力での出生届の魔力紋確認と、バリオロッシュの近親者に当たる調査官たちの魔力を調べさせてもらい、証拠の魔力紋の精度を上げといた。


 この世界の証拠とは、こうやって積み上げるのだよ、メルシュエト・バリオロッシュ!


「肉塊に残っていた魔力紋の一つと、同一であることを認めます」

「ありがとうございます。これにより、メルシュエト氏の祖父が、ヴェデリオン・パールス氏と先代国王の死に関わっていることは、確実になりました」

「それも認めます」

「怪文書を書いたと思われるメルシュエト・バリオロッシュ氏、彼の祖父が関わっている先代国王とヴェデリオン・パールス氏の死。これらが無関係だとは考えられない……と言いたいところですが、無関係の場合も考えられます」

「立証できない限りは、そうなりますね」


 証拠はできる限り使いたいが、提示して捨てる必要もある。なんで廃棄する証拠の祖父のことを証明したか? それはメルシュエトの精神に揺さぶりをかけるためだよ――真実の愛とはなんでしょうか? を読んで、例の音声を聞いたから分かる。こいつ、こういう揺さぶりに弱い。


 っていうか、悪役令嬢ものの冤罪仲良し組の捏造証拠読み上げ担当は、イレギュラーに弱い。


「はい。本来でしたら、立証するところですが、時間が足りませんでした。よって先代国王とヴェデリオン・パールス氏の死に関する証拠は取り下げ(・・・・)、怪文書とバリオロッシュ・メルシュエト氏の文章が酷似していることのみで争います。証人13に”ラッカンネール・エルトハルトの告発文は、わたしが作成したものではない”という宣言を求めます」


 特徴が一致している文章と、綴りを完璧に間違っている単語。これらを前に「作成していない」という証言を求めるのは、証人(・・)メルシュエトの潔白の為に重要なことだ。


 アーティホード氏が「被疑者だから」と証言を断ったように、証人に疑いがあったら晴らさなくてはならない。そうでなければ、他の証言を求めることができないから――もっとも次の証言は「ない」けどな。


 証言台で誓約をして嘘をつくと、一発でばれるぞ! 


 頑張って誓約をくぐり抜けるか破壊してもいいけど――できるのなら。そうなったら、別の方法で追い詰めるだけだ。地元(バビロン)では”誓約破り破壊”とも呼ばれている、わたしの必殺技(ファンタズマ)を見せてやるぞ。



「ファンタズマ氏の申し出を聞き入れ、証拠の関係性は保留扱いにします。そして証拠品55、56を採用します。それでは証人13メルシュエト・バリオロッシュ氏、証言台へ」



 顔色が悪くなりきっている。

 ばれて困るなら、こんなことしなけりゃよかったのに! 

 というか、なんでこんなことをしたのか? については、わたしはまったく分かっていない。

 なんとなく、祖父の事件を探られたくないから……くらいしか無さそうだけど、わざわざこんなことをしなくても。



 ロテルシト男爵といい、メルシュエト・バリオロッシュといい、黙ってりゃあいいものを、なんで現場を荒らして、それを突き付けられたら被害者みたいな表情するんだよ。



「証言してください、メルシュエト・バリオロッシュ氏。”ラッカンネール・エルトハルトの告発文に、わたしことメルシュエト・バリオロッシュは一切関わっていない”と」

「……」

「今度は答えるまで、席に戻れませんよ」

「……」


 事実を語ると誓約した証言台で無言を貫くって、証言しているも同じなんですけど。そこんとこ、分かってるのかな? 口を割ってしまえば楽になれるのに。……口を割らない理由が分からない。


「裁判長」

「なんですか、ファンタズマ氏」

「バリオロッシュ氏が発言したくなるよう、説得したいと思います」


 ここで耐久戦をしても負けはしないが、見ている人たちも飽きるだろうし、国家運営にも支障をきたすだろうから「裁判長の」権限を使って、証言を引き出すとしよう。


 事前に打ち合わせなんてしていないが、裁判長なら分かってくれるはず。


「どのように説得なさるのですか?」

「正確にはわたしではなく、かつての”彼ら”に」


 部下に録音再生機を運ばせる。


「”かつての彼ら”とは?」

「”かつての彼ら”です。十五年前の断罪劇の音声をここで再生させてください」

「理由は?」

「そこに喋らざるを得なくなる、彼らの発言があるので」

「なるほど」

「音声再生の許可、いただけますか?」


「許可します」


「ありがとうございます、裁判長。あと、わたしが作った音声だと言われないように、裁判長に確認しながら読んでいただきたいのですが」

「分かりました」

「書き起こした資料の……」


 それにしても、この呪言をもう一度聞かなくてはならないとは。それでは再生開始!


【以上の理由とウティルエニィの涙の告発を持って、わたしリーノス・レメートはアルティ・ユセリラルダと婚約を破棄する!】


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