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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第五章・過日の亡霊――亡き元王女に捧げる正義の亡霊

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【03】

「ああ。相思相愛の婚約者を殺害した男と結婚ですか。それは、それは」

『家族も新しい婚約者との結婚を強く勧めたそうです』

「殺害したのを、知らなかったとか?」

『いいえ、知っていたそうです。なんなら、殺害協力までしたと』


 さすがに人面獣心が過ぎませんかね? 一族郎党悪逆非道とか、バクノン一門と争って没落して良かったのでは? え、貴族ならどこでもそんなんじゃない? ……まあ、そうかもね。


「それは、随分と良いところのお坊ちゃんから、横恋慕されたと考えても?」


 権力がある人面獣心に惚れられたとか、最悪だよな。うん、断れなかっただろうねえ、そいつ(・・・)のことは。


 おまえ、誰なのか分かってるのか? 証拠は掴んでいる。だから、こうやって聞いてるんだよ。ただアレ(・・)の理由が、若い頃からの極悪ストーカーとは思わなかった。


『そのようです。その人物が誰かは語ってくださいませんでした。そして、それが一門との不仲の理由です』

「ありがとうございます」


 一礼してウルティフォ氏に座ってもらう。


「ウルティフォ氏の証言から分かる通り、ヴェデリオン・パールス氏は、誰かに言い寄られていたようです。一族総出で、婚約者を殺害してまで結婚させたかった相手とは、一体誰なのか? それはイトチフォ家に聞けば分かるでしょう」


「そうですね」


「ただこのように、実家というか一門と不仲だったヴェデリオン・パールス氏の遺体は、ウェイヨウィス神殿に埋葬されています。バイネウス氏の証言にもありましたが、ユセリラルダ侯爵はヴェデリオン・パールス氏の遺体を確認した。そこで我々も、その遺体を見せてもらうことにしました。すると、そこには遺体ではなく、肉塊(アレ)がありました」


「肉塊? 遺体ではなく?」


 裁判長は証拠品リストを指でなぞりながら――


「はい。大法廷で世界各地に無造作に見せていいものではないので、棺内部の映像は控えますが、証拠品48、ヴェデリオン・パールス氏の一部です」

「これが……」


 肉塊(アレ)に関しては、当たり前だが事前に裁判所に証拠品を確認しているので、裁判長たちも分かっているけれど、証拠品だけでは意味が解らないことが、往々にしてある。

 今回なんか特に「ラッカンネール・エルトハルトが犯人であるという文章が届いたから裁判」という、意味が解らないにも程がある裁判なので「この証拠品なんなん?」みたいなことが、裁判所内でも起こっていたそうだ。


 ただ裁判所の方も事情を知っているので「とりあえず証拠になりそうなものを、片っぱしから申請しているんだろう」と受け入れてくれた。その勢いに乗じて、パールス氏の肉片を押し込んだんだけどね。


 証拠品番号が飛んでるのも、そのせい。いくつかの証拠が使えなくて、無念で仕方ない……みんな、徹夜続きでハイテンションになってたんだ。


「裁判を見ている魔力を持たない人に説明しますと、人は死んでも魔力は残っているのが普通です。魔力を使い切って死ぬというのは、ほとんどありません。体に残った魔力によって、遺体は生前の姿を残したままであることが多い。魔力がなくなったとしても、肉塊になることはない。それなのに、パールス氏の遺体はひき肉の塊になっていました。先ほど申し上げた、ロテルシト男爵がつけた傷の痕跡を確認できなかった理由でもあります」


 ロテルシト男爵が驚いた表情になった。

 侯爵がヴェデリオン・パールス氏の遺体を調べたから、自分の魔力紋を検出されたと思い込んで、侯爵を殺害したようだけど、遺体はそういう状況じゃなかった。


 ほんと、ロテルシト男爵って無駄なことしただけなんだよなあ。あ、三十年前も無駄なことしてたか。


「これは本当にヴェデリオン・パールス氏なのですか?」


 裁判長の質問はもっともなんだが、現時点でその答えは出ていない。


「調査のために正式にイトチフォ家に遺伝子提供を求める段階ではないので、なんとも言えません」


 一応イトチフォ家の血を引く調査官の遺伝子と比べてみたので、肉塊にイトチフォ家の血が入っていることは分かったけど、それだけなので、証拠としては出せないんだ。

 この辺りは前世の遺伝子と同じで、遺伝子も遡れる限界がある。ミトコンドリアで攻めろ? ミトコンドリアで攻めた結果が現状なんだ。


 魔法世界なんだから、百代くらい遡れてもいいと思うんだけど。


「そうでしたか。では、なぜこれを証拠品として提出したのですか?」

「ユセリラルダ侯爵殺害事件の調査中に、それとまったく同じ肉塊が発見されていたからです」

「同じものですか?」

「はい。それが証拠品49、両者の遺伝子表です」

「同じような(・・・)ものですね」

「はい。試料の採取箇所によって、多少の差がありますが、挽かれた状態なので同じ肉塊と判断して差支えない適合率かと」

「そうですね。証拠品を確認した時に、同じものが二つあると思ったのですが、別々の所から採取されたものだったのですね」


 間違って同じ遺伝子解析表を証拠として届け出たと思うくらいに、両者は似ている。


「はい。両者とも見た目もほぼ同じでした。だから(・・・)二つ目の肉塊を、証拠品として提出しなかった訳ではありません。それを持ち出すには、怒り狂ったエスカバーナ・カラブリアに話を通さなくてはいけないので、大法廷前に許可を取るのは不可能と判断しました。余計なことに時間を割いていられないので」


 パールス氏の遺体断片は、ウェイヨウィス神殿側に申し出て手に入れることはできたが、もう片方は生家の霊廟にあるんで、当主の許可を取らないといけない。その当主がこの大法廷を起こした張本人。



「それは、王家ということで間違いありませんか? ファンタズマ氏」



 裁判長含む、裁判官の視線が鋭くなった。


「はい」


 ロイヤル傍聴席の面々が顔色を失うが、知ったこっちゃない。


「わたしたち機関は、ユセリラルダ侯爵の屋敷で粉々になってしまった人物が、ユセリラルダ侯爵本人かどうかを確認するために、ご家族に遺伝子提供を求めました。ユセリラルダ侯爵の生母である王妃は、例の小説”真実の愛とはなんでしょうか?”に書かれていた通り、幼いユセリラルダ侯爵に魔力を分け与え、衰弱して亡くなったため、標本としては頼りなかった。ですから、前の国王の棺を開けました。そうしたらパールス氏と同じくひき肉の肉塊でした」


 肉塊にたどり着いた経緯を説明した。


「さぞや、驚いたことでしょうね」

「はい。カラブリア王族の遺体は、こうなるのか? と思い、他に二つ国王の棺を開封しましたが、ひき肉の集合体にはなっていませんでした。そこで先代国王の棺に入っていた肉塊の遺伝子を調べた結果、王族らしいが他の物も混ざっている結果が出ました。先代国王の両親も調べましたが、そのような遺伝子は存在せず。混入物がどこから来たのか不明のままでした。ただ、先代国王両親の遺伝子も確認できましたので、先代国王の遺体なのだろうと判断いたしました。よってヴェデリオン・パールス氏の遺体が納められたとされる棺にあった肉塊は、遺伝子解析の数値から、先代国王が混ざっているということになります」


 捜査の途中で、意味が解らないものが出てくることは珍しくないんだが、今回のはかなりびっくりした。


「ユセリラルダ侯爵は我々と同じように、アーティホード氏を冤罪に陥れた”傷”を確認するつもりだったはずですが、この状況ではどうすることもできない。ですが侯爵は諦めるような人ではない。肉塊の遺伝子と生体反応を調べた。その結果、生活反応があったこと、そして遺伝子に自分の祖先が含まれていることに気づいた」


 当人が王族の遺伝子サンプルを持ってるから、気づくのは早かっただろう。


「数値から、ユセリラルダ侯爵と先代国王と、ヴェデリオン・パールス氏の遺体とおぼしき肉塊には、遺伝子に近親関係が認められますね」


 ユセリラルダ侯爵の遺伝子情報は、事前に提出している。

 被害者を確定させるためには、必要な書類なので。

 そしてヴェデリオン・パールス氏。彼女は王家とはまったく関係ないけど、数値だけみると王家の遺伝子ががっつり入っている。

 そして彼女の近親に、王族はいない。貴族なのでもしかしたら……という可能性もあるが、遺伝子を提供したイトチフォ家の血筋につながる調査官が、家系図を遡ったところ「形跡なし」とのこと。


「ユセリラルダ侯爵はヴェデリオン・パールス氏殺害事件に、王族が関わっているのではないかと考えた。この考えに至る理由は、遺伝子にあります」

「遺伝子解析の結果から、それは認めます。続けてください」


「日付を見ればわかりますが、ヴェデリオン・パールス氏殺害事件の三日後に、先代国王が死亡……ではなく、薨去しております。国王の葬儀がどのようなものかは知りませんが、ヴェデリオン・パールス氏の遺体があった神殿は、一切葬儀に関わっていません。これは葬儀関係の資料にはっきりと残っていました。証拠品50、国葬の資料です」


「確認いたしました」


「生体反応があることから、先代国王とヴェデリオン・パールス氏は生前どこかで、同時に生きたままひき肉になっていなければおかしい……生きたままひき肉になっているほうが、ずっとおかしいのですが、証拠からその状況になってしまうので、別の言い方ができずにすみません」

「構いません。先代国王とヴェデリオン・パールス氏は何かがあり、生きたまま両者が混ざるような肉塊となったことは認めます」


 事実をそのまま述べているのに、何を言っているのか意味が分からん状態になる。これこそが、調査の醍醐味! 不謹慎極まりないが、知ったことではない!


「はい、そして肉塊を使って、一時的に復元したということになります」

「ヴェデリオン・パールス氏の遺体があったことは、神官の方々も証言していますし、国葬の際に前の国王の遺体が、棺に収まっていたことも確認されていますので、復元について認めます」


 一体なにがあったのか?

 いろいろと推察はできるんだけど、そこはこの大法廷の争点じゃないんで、あまり深堀してもな。


 わたしはあくまでも、長官の冤罪を晴らすために――ロテルシト男爵を追い込む証拠が失われたんで、怪文書を送った人物を白日の下に晒して「わたしがやりました。ラッカンネール・エルトハルトは無関係です」と、この場で証言してもらわなければならないのさ。


 怪文書を送ったメルシュエト・バリオロッシュも、先代国王の遺体がひき肉になってることは、想像つかなかっただろうなあ。


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