【02】
「ヨトラコル伯爵がユセリラルダ侯爵から情報提供を求められたと言っていた、ヴェデリオン・パールス氏殺害事件について、調べることにしました。その結果として、ユセリラルダ侯爵がパールス氏の遺体を調べていたことを突き止めました。それに関しては、バイネウス氏が証言してくれました」
肩を落としているロテルシト男爵が、わずかに震えた。いや、まあ、お前の罪はもうどうでもいいよ。
侯爵殺害事件の容疑者だけど、ここは長官の冤罪を晴らすための法廷なんで。
「証言は採用しております」
「ありがとうございます、裁判長。その裁判長に一つ頼みがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「裁判に必要なことでしたら」
「裁判に必要と申しますか、この大法廷を見ている他国の人たちに対しての、説明が不足していることです」
「説明不足ですか?」
「はい。先ほどからロテルシト男爵に対して”長官に就任した当初は忙しい”と我々は述べております。ほとんどのカラブリア国民は、理由を理解しておりますが、カラブリアに住んでいない、この映像を見ている人たちからすると”無能を容認している”としか見えない可能性もあります」
ロテルシト男爵が就任した頃、わりと大事があったんだ。
「そうですね。この大法廷を国外で傍聴している方々にお伝えします。三十年前、ヴェデリオン・パールス氏殺害事件の三日後に、先代カラブリア国王が亡くなっております。急死でした。国王の唐突な死により、国内がかなり混乱した……と聞いております」
ヨトラコル伯爵から「貴族が犯人だった」と聞き、その調査の経過を追い、裁判が行われていないと知った時「なんでこんな大事件が、簡単に闇に葬られたんだ」と思っていたら、クアルバーグ参事官が「殺人事件の三日後に、先代国王がお隠れになった」と教えてくれた。
かなり急な死だったので、かなり宮廷が荒れたそうだ。とくにこの混乱に乗じて国王は、愛しき不倫相手を王妃として迎え入れることに成功した。
この大法廷を起こした国王らしい、小賢しさを感じる一件だよね。ただ……先代国王ってユセリラルダ侯爵の母親と息子の結婚を強行した割に、妻子への冷遇に対してなにも対処してないんだよなあ。
それとそこまで息子の真実の不倫相手との結婚が許せないのなら、不倫相手の女を殺せばいいだけなんだが、それもしていない……。
賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ――殺害しても意味がないことを知っていた可能性も考慮して、裁判を続けよう。
「ここで千里眼でつながっている神官のお一人に、尋ねたいことがございます。証人9のウルティフォ氏に証言の許可を」
「分かりました。ウルティフォ氏、ファンタズマ氏の質問に答えてください」
さきほど一まとめで答えてくれたウェイヨウィス神官の一人、ウルティフォ氏。当時を知っている証人の中で、唯一女性。そしてヴェデリオン氏と同年代で、同じように貴族出身。
この人は、間違いなく情報を持っている。なんなら、犯人に心当たりがある。特定の氏名とかじゃなくて、本当に「心当たり」
ウルティフォ氏に直接会った調査官が、そのあたりを掴んでいる。
詳しく事情聴取しなかったの?
いやあ、まだ不信感が募りまくってて口が重いっていうか、仕方ないっていうか。
でも、今なら答えてくれるはず。頑張ってまっとうな調査をしている姿を、見てもらったからね!
証人として無理やり裁判を見せることで、昔とは違うってことをアピールしてるから!
『はい』
「パールス氏は実家と不仲だったと聞きましたが、間違いはありませんか?」
『はい、たしかに不仲だと言っていました』
「わたしは貴族の居ない都市出身なので、聞きかじりで失礼ですが、貴族令嬢は結婚するのが当たり前なのでは?」
『たしかに、仰る通りです』
「ウルティフォ氏とパールス氏は、貴族令嬢ですよね? なぜ二人とも結婚なさらずに、神官の道を歩まれたのですか? ……まあ、ウルティフォ氏の理由は必要ありません。ただ同じ道を歩んだ貴族令嬢同士なら、パールス氏の事情もご存じかと思って、質問させていただきました」
ユセリラルダ侯爵も結婚していないが、元婚約者が真実の愛に目覚めて婚約破棄してきたり、もともと父親と不仲という事情があるので。逆にいうと、このくらいの理由がなければ、未婚で神官になったりしない……らしい。
未亡人になって神官は、結構ある……らしいよ!
クアルバーグ参事官から聞いたから、間違いない!
『必要ないことかも知れませんが、わたしの理由からお話してよろしいでしょうか?』
「何故ですか?」
『彼女は神官になった理由を、多くの人に知られたくないかもしれない。でもわたしは、いま語らせてもらいます。だから……彼女のことだけ語るのは、卑怯だと思うからです』
「そうですか。では、お願いいたします」
ウルティフォ氏自身の語りだが、結婚相手は初婚ではなく、ウルティフォ氏は三番目の妻で、前の二人は変死とのこと。
ああ、そういう系統の……。
そんな相手に嫁ぎたくないと訴えても、家族は聞き入れてくれず……うん、貴族令嬢は結婚が責務とは言っても、快楽殺人の生贄にされるのは、違うと思うよ。
なんでそんなの、のさばらせているのか、理解に苦しむ。
マジで貴族、意味わからん。
そんな相手には嫁ぎたくないと訴えても、家族は誰も聞き入れてくれなかったので、神殿に逃げ込んだと。
『わたしが逃げたことで、誰かが犠牲になったかもしれない。そう思うと……今まで言うことができませんでした』
「冷たいように聞こえるかもしれませんが、ここは法廷なのではっきりと言わせていただきますが、本当に犠牲になった方が居たことを確認してから、悔いてください。しっかりと調査しようとお考えでしたら、冒険者ギルドにどうぞ」
他に犠牲者が出たとしても、ウルティフォ氏が気に病むことはない……そうは言っても気に病む人は病むだろうな。
『ありがとうございます、ファンタズマ氏。調査については考えてみます。それでパールス氏が未婚で神官になった理由ですが、彼女には相思相愛の婚約者がいたそうです』
「どのような方か、聞いていますか?」
『婚約者は同じ一門の男性で、幼馴染だったそうです』
「へえ。でも結婚しなかった」
『はい。結婚前に殺害されたそうです』
「誰に?」
『通りすがりの外国人に』
クールベイト裁判官が、口元歪めてる。
通りすがりの外国人に殺された? そんな訳がない。殺害したのは、間違いなくこの国の貴族だと、心を読まなくてもわかる強い視線だ。
「いつ頃の事件ですか?」
『五十年以上前です』
五十年以上前に婚約者が殺害されて、三十年前に神殿で変死した。なかなか波乱万丈な人生だな、ヴェデリオン・パールス氏。
「そうですか。では、婚約者が殺害されたから、パールス氏は神官になられたのですか?」
『いいえ……新たな婚約者と結婚したくなかったので、神官になったそうです』
「結婚相手になにか問題があったのですか?」
『パールス氏の婚約者を殺害したのが、その男だから……と言っていました』
傍聴席がざわついた。
ウルティフォ氏の快楽殺人犯貴族の時もざわついたけど、貴族犯罪を野放し冤罪し放題してるんだから、罪を犯すハードルが低くなってることくらい、分かるだろう。だから、いちいち驚くな。
一人だけ震えてるやついるけどね。驚きでの震えじゃなくて、罪を暴かれる手前、核心を突かれた犯人特有の震えだ。
証人控え席にいる、バリオロッシュ侯爵家の子息メルシュエト。
かつてユセリラルダ殿下を「断罪」した五人のうちの一人で、証人控え席に座っている。ヨトラコル伯爵もバリオロッシュの震え方から、罪を犯していることに気づいたらしく鋭い視線を向けている。
優しいイメージしかなかったんだが、意外と怖い表情できるんだな伯爵。
ちなみに先代バリオロッシュ侯爵は、ロテルシト男爵の前の機関長官だった。三十年間立件しなかったヴェデリオン・パールス氏殺害事件について、関与している可能性がある人物だ。
オルタナの未来視。三十年前の立件されていない事件資料を手に取った時に降りてきたってのは、そういうことだ。でも、裁判に使えないから、意味ないんですけどね!




