【18】当日に撮影された映像
ドアをノックする音が響く。
「いいわよ」
ユセリラルダ侯爵が声を掛けると、シンプルな作りのドアがゆっくりと開く。
そこにいたのは、ロテルシト男爵と従者のファミーヌ。
ファミーヌは車輪と持ち手がついた、荷物運びに便利な箱を持っていた。
「お久しぶりにございます」
「久しぶりね、ファミーヌ」
「主は迷宮で喉を少しやられてしまい、わたしが代わりに挨拶をさせていただきます」
ユセリラルダ侯爵の招きに応じ、室内に足を踏み入れたロテルシト男爵と、彼の従者ファミーヌ。
がらがらという音を立てながら車輪が床の上を滑る。ファミーヌが運んでいたケースに、ロテルシト男爵が手を伸ばし――車体と持ち手をつないでいる軸の中から、鈍色の刃が現れた。
その刃――剣を持ったロテルシト男爵は、自分の隣にいた従者のファミーヌの側面を腕ごと貫く。
その刃は肉が締まる前にすぐに引き抜かれ、大きく一歩踏み出す。
ユセリラルダ侯爵の護衛ミークが自分の武器、刃幅が大きめでやや湾曲している短剣を抜いて、ロテルシト男爵に飛びかかる。
ミークの膝から下の両足が、一瞬にして吹き飛んだ。
肉片はすべて後方に飛び散り、衝撃により空中で体勢を崩したミークは、床にべちゃりと落ちる。
「あっ……あ……」
ユセリラルダ侯爵の途切れ途切れの声。
画像の端に映っていたバッジドゥが立ち上がり――彼の動きた特段遅いのではない。
彼はいつも、来客に対応することなく作業をしていた。
この部屋にやってくる者は、誰もが彼のその行動をとがめなかった。だから、この時も、ミークが床に落ちるまで気づかなかった。
椅子から立ち上がったバッジドゥだが、彼とロテルシト男爵の間に武器になるものはなにもなかった。
彼はその身をロテルシト男爵の前にさらけ出し、ユセリラルダ侯爵の盾になることしかできなかった。
画面を一瞬覆う濃紺。それはすぐに下へとさがり、画面から消えた。画面が下を向くと、バッジドゥの両足も、先ほどのミークと同じように膝から下が失われていた。
そして画面に飛び散る黒みを帯びた血。
画面はぐるりと周り、どっ! という、物体がぶつかる音とともに、床を映し出す。
「はぁ…………ごぼっ、ごっ……ひゅ、ひゅ……ひゅ……」
空気を吐き出すような声。液体が吐き出される音、そして管が哀れに泣く。
そこから足音が遠ざかり――何かが這う音がかすかに聞こえ、腕だけで体を運ぶバッジドゥの姿が映った。
彼の手のひらが画面を覆い、ユセリラルダ侯爵の眼鏡を掴む。その手は床を滑らせるように眼鏡を投げた。
眼鏡は黒いなにかにぶつかって止まった。画面に作りのよい靴――貴族男性が履くような靴が映り、その靴は眼鏡を蹴り飛ばし、画面はくるりくるりと回る。
画面の動きが止まり――ロテルシト男爵がバッジドゥが座っていた機器の前で、監視画面に手を加えている姿が映る。長いような短いような時間が流れ、ロテルシト男爵は持ってきた箱を開けて魔石を握り、瀕死のファミーヌ、ミーク、バッジドゥ、そしてユセリラルダ侯爵の襟元から魔石を押し込む。
そして魔石を蒔き、その上に彼らを積み上げる。一番上はユセリラルダ侯爵だった。
画面の端で青白い光と赤い光が入り交じる。魔石の連鎖爆破に用いる魔法と、すぐに連鎖爆破しないための保護魔法、この二つを施し、それらの魔石が入っているケースを、ユセリラルダ侯爵の上に乗せ、刃物を手に画面から消える。
窓が開くような音、そしてもう一度同じ音。
少しして振動により画面がわずかに揺れ、そして室内は光に包まれた。光はすぐに消え、画面には爆破直後の部屋が映し出される。
画面の端にはかすかに陰が映り込み、そして消えていった。
余波で小さな瓦礫が、からん、からんと音を立て、ひびの入った床が大きな音を上げて亀裂が広がる。
ふんわりとした焦げ茶色のロングヘアに、機関の制服――黒のズボンに黒いワイシャツ、赤いネクタイに光沢ある深緑色のベストを着用した人物が現れ、右手を前に出して、すぐに画面から消えた。




