【16】
「お待たせしました、ファンタズマ氏。話し合いの結果、今回だけ特別に許可することにいたしました。エスカバーナ・カラブリア、こちらの封印が解かれていないことを、確認しに来てください」
証拠品を傍聴席へ持っていくことはできないので「貴様が来い」と――恰好いいな裁判長と、裁判官の皆さま。
国王はと言えば、自分の所に運ばれてくるとばかり思っていたようだが、
「証拠品を傍聴席に運ぶなど、ありえません。ご存じなかったのですか? もっとも一傍聴人に証拠品を触らせることも、ありませんが、今回はあなたが起こしたことですから、特別に証拠品に触らせるのです」
裁判長が「五年前まで司法権持ってたくせに、なに言ってんだ」になってる。参事官が国王嫌いなのはわかるが、裁判長も嫌い……まあ、嫌いか。
国王は特別傍聴席から降り、お供を連れてやってきて「長官への贈り物」を確認する。
「未開封であること、確認しましたか?」
「確認できた」
「ではこの証拠について、認めますね」
「はい」
「では席に戻ってください」
裁判長に証拠品0を返して、国王は自分の席へと戻っていった。
かなり草臥れてきたなあ、国王。だが、お前が始めた裁判だ。最後まで逃げることは、許さねえ!
「ファンタズマ氏、続けてください」
国王の着席を確認した裁判長から、証拠品の開示を求められた。
「最後まで疑いを排除したいので、開封を裁判長にご依頼したい」
「分かりました。わたくしが、開封いたしましょう」
裁判長の両脇に控えている裁判官が、万が一に備えて防御魔法と、回復魔法の準備をした。
裁判官も本当に大変だなあ。もちろん好き(使命感含む)でやっていることだけど、精神はすり減るだろう。
ルトールスが受け取りの封を解き、裁判長が丁寧に包装をはがして箱から取り出したのは、遠目には完全にサッカーワールドカップのトロフィーだった。
わたしの透視は間違ってなかった。
そして素材は高純度の天金翼石。完全に長官を意識して作ったな。
それにしても、なんでこの形になったんだ……上部の丸い部分が、魔石なのか。あれが受信と記録の動力か。
「このような品が出てきました」
「ありがとうございます、裁判長。わたしも初めて見る証拠品なので、まずはラパチノール氏に説明を求めてください」
いや、まあ、透視してましたけどね。
「それではラパチノール氏、証言台の方へ」
証言台に立ったラパチノール氏に、裁判長が録画再生機を掲げる。
裁判官が十一名で横に並び、裁判長だけ色合いの違う法衣で、他の裁判官はお揃いなので、完全にワールドカップで優勝したチームがトロフィー掲げてる姿にしか見えない。
「はい。それは小型映像録画機の記録媒体です。先ほどのファンタズマ氏の説明通り、録画機は小型なため記録領域が確保できなかったので、映像を記録媒体に飛ばすという形を取りました」
「たしかにこの小さな魔道具に、大量の記録映像を保管するのは無理でしょうね」
裁判長は手元にある、置物に設置していた小型カメラを手に取る。
「上部の丸い魔石は受信と記録用で、出力用には別の魔石が必要になります。再生の際はその魔石を外し、別の魔石をはめ込まなくてはなりません」
「再生させる魔石は?」
「再生には、二時間で五タラントの純白石という、膨大な魔力が必要になります」
設計図などは読んでいるから、驚きはしないが、二時間再生で五タラントの純白石は、この世界じゃ富豪仕様だ。
さらにエネルギー換算……になるかどうか、分からないが、二時間再生に日本の一日の石油消費量と同じくらいのエネルギーを使うくらいだろう。わたしの、ガバガバエネルギー換算だけど。
「それは……簡単に再生できませんね」
「邸には五タラントの純白石が幾つも貯蔵されております」
さすが侯爵、金持ってんなあ。わたし? 持ってるよ。純白石の主要産出地はバビロンだから。
魔石の採掘は冒険者のメインクエスト。それはどこでも変わらないよ。魔石の性質や純度が違うだけで。
バビロンのクラン団員で、依頼を受けて魔石を採取するのは、わたしくらいしかいないけどね。
「機関からの、証拠品提出にはありませんね。法廷が閉鎖されている以上、外部から持ち込むことはできませんが? これでよろしいのですか? ファンタズマ氏」
「はい、裁判長。ユセリラルダ侯爵が、機関に五タラントの純白石を持ち込もうと考えていたら、機関に事前に許可申請を出さなければなりません。申請は最低でも十日前まで、二人の会談を取り仕切ったのは、クアルバーグ参事官ですから、頼まれていたとしたら申請を忘れるわけはありません。証拠品26、一年分の機関本部への魔石持ち込み事前申請書です。ユセリラルダ侯爵の名はありませんでした」
「確認しています」
「事前に許可申請を出していなかったということは、ユセリラルダ侯爵は”機関において”純白石を使用するつもりはなかった。それに尽きます」
「ではどのように再生するつもりだったのですか」
「長官です。エルトハルト長官の魔力です。純白石換算など不可能な、上質で豊富な魔力を有していますので」
「なるほど……エルトハルト氏の魔力ならば」
裁判長の視線の先の長官は、先ほどまでと変わらず。侯爵が送り付けたきた、録画再生機にまったく興味なしの模様。もーすこし、こう……まあ、長官だから仕方ないね!
「ユセリラルダ侯爵の理念は”誰でも使える魔道具”。即ち安価な魔石で動かせる物を目指していますが、試作段階ではどうしても高い魔力頼りになりがちになるそうです。それは小型の機器になると顕著。実際、小型音声録音機も小型になればなるほど、魔力の消費は大きくなります。当然ながら動画録画機も同じこと。外部動力で補うとなれば、相当高価な魔石が必要となります。ただその魔力消費量は、あくまでもユセリラルダ侯爵が基準。機関に採用してもらうだけならば、魔力問題はかなり解決します」
わたしたち機関を使って、フィードバックを得ようとしたのではないかな。それにより、改良して動力問題などを解決しようとしたんじゃないかな? ……わたしの想像だけど。
「今回はエルトハルト氏の魔力頼りということですか?」
「はい。ユセリラルダ侯爵は、会談当日に撮影した映像を見せるつもりだった。それも機関と侯爵の邸という、かなり離れた場所から映像を送れることを、長官に見せる予定だった。証拠品27、機関本部とユセリラルダ侯爵の邸の直線距離を記載しておきました」
「確認いたしました。続けてください、ファンタズマ氏」
「はい。ユセリラルダ侯爵は、長官との一回の会談に”かけて”いた。となれば、全ての問題点を解決していたのは想像に難くない。小型映像録画機のが採用されるために必要なことはまず、確実に記録が記録媒体に残されること、要するに通信能力。そして画像の質、これは裁判で皆に説明するために必須です。動力に関しては我々調査員の魔力を用いるので、そこまでは問題ではありませんが、体から離れた時に動かすことができる外部動力の提示。そして長時間の録画が記録され、間違って削除されることがないようにすること。この程度は提示してくださったはず」
「記録時間と画像の質は、証拠として採用する時に必要ですね。小型録音機も、それらの問題点を解決して採用されましたから」
「ではユセリラルダ侯爵は、どれだけの時間、遠距離から録画が可能ならば、自分を嫌っているエルトハルト長官から許可が下りると考えたか? 侯爵が殺害される四日前に記録媒体が機関に届き、殺害された三日後に会談の予定。記録媒体を会談の七日前に、長官の手元に届くようにしたのも”何の細工もしていない”という証明のためかと」
録画機と記録媒体の距離を離し、録画を続けていたはずだ。おそらくだが、攻略済み迷宮にも行ったんじゃないかな? とにかく、どこからでも画像を飛ばせて、保存できてを証明しなければならないから。
「その荷物は長官宛てなので、危険がないか確認後、封印が施され長官室に運ばれ、裁判所に証拠として提出するまで、長官室に置かれていました」
「開封しなかったのですね? エルトハルト氏」
「はい。一切手を触れていません」
「分かりました。ファンタズマ氏、続けてください」
「はい。証拠品24の眼鏡と眼鏡の鎖ですが、眼鏡の破損状況と魔力残渣と血痕から、その場にいた誰かが身に着けていた。資料28、血痕による攻撃距離を参照ください」
血は侯爵のものだけど、身に着けていたかどうか? の立証はしていない。
もちろんできるけど、時間がかかるから!
事件現場にあったことだけ、証拠として認めてもらえたら、話は通じる。
「参照完了しました。この眼鏡を現場にいた四名のうちの、誰かが身につけていたことを承認します。承認はいたしますが、この血痕について説明いただきたい、ファンタズマ氏」
「血痕についてですか? 裁判長」
「死因は爆死と提出されていますが、爆死ではこのような血痕はつかないはずです」
「はい。その血痕は”絶対に助からないが、即死しない”傷によるものです。右肩から左下へ、内蔵の損傷はほどほど、体を起こすことはできないように、腹筋などを斬った」
「なぜそのようなことを?」
「ユセリラルダ侯爵の偉大な発見の一つに、生活反応というものがあります。生きているとき付けられた傷か、死後に付けられた傷か。それは現在、確実に判別できます、例え肉片であろうとも。犯人は最終的に現場を爆破しましたが……入り口も破壊しましたが、それは別の理由になりますが、現場を爆破したのは、自分が画像を偽造したことを隠すため」
考えられる理由はそれだけだ……三十年前、理由は知らないが、遺体を損壊していた奴が、三十年後に生活反応を気にしつつ、人を殺すとか最悪だな。
「映像の偽造ですか」
「はい。侯爵の部屋に立ち入ったことがある人なら、部屋に動画に触れることができる機器が置かれていることは、多くの人が知っていたそうです」
「分かりました」
「映像に細工をしている間に、死なれては”室内でなにかをしていた”とバレてしまうので困る。だが助けを呼ばれても困る。だから動けず声も出せないようにした。そして犯人が廊下を通った映像を、偽造し終えてから、出入口の一つを爆破しました」
「たしかに出入り口のほうが、僅差ながら先に爆発したとの証言がありますね」
「はい。あの位置の出入口を爆破し、そこに異変に対応する部隊が向かおうとします。同時にユセリラルダ侯爵の安否を確認するために、何名かが走ってくる。魔石を手放し手ぶらになった犯人は窓から外へと出て室内を爆破し、ユセリラルダ侯爵を含む室内にいた者たちを殺害します。二回目の爆発を聞いた、最初の現場に向かっていた部隊はユセリラルダ侯爵のもとへと向かいます。これにより、出入口は手薄になり、犯人は悠々と外へ出ました」
調査したところ、建物の構造と警備体制が、微妙に噛みあってなかった。訓練はしていたらしいが、基礎が出来ていないので、隊の動きが簡単というか単調というか、隙だらけというか。
犯人はこれも当然知っていた。そして忠告はしなかった。
おそらく犯人は、自分の罪が暴かれるのを恐れて、ユセリラルダ侯爵に近づいたのだろう。
そして自分の罪が暴かれそうになったことに気づき、殺害を決意した……というわけだ。




