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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第四章・過日の亡霊――亡き元王女により暴かれた過去

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【15】

――ですが、ユセリラルダ侯爵が作成した、新しい調査機器の承認となればどうでしょう?――



 わたしの一言に法廷が静まり返り、一斉に被告人席に座っている長官に視線が向けられた。長官はそんな視線は気にせず、まっすぐ前を向いている。さすが長官。


「ファンタズマ氏の話を聞く分には、とても難しいでしょうね。ファンタズマ氏が裁判中に数え切れないほど”長官は侯爵を嫌っている”と注釈をいれて、話をするくらいですから」

「はい。わたしもそう思います。ただ思っているだけなので……裁判長、長官こと被告人ラッカンネール・エルトハルトに確認してください」

「分かりました。エルトハルト氏、証言台へ」


 裁判長に呼ばれた長官は立ち上がり「お前は一体、なにをしているのだ?」といった視線でこっちを見ながら、証言台へと向かい、


「エルトハルト氏。あなたは、ユセリラルダ侯爵から、新たな調査機器を採用して欲しいと頼まれた場合、どのような返答をなさいましたか?」


「断ります」


 一言発しただけで、裁判官たちも納得の空気に。”断ります”その一言に、迷いもなにもないのが誰にでも通じる。越権やかましい脳の海馬よわよわ国王とか、真実の愛野郎とかも背筋を正すくらい。


「ありがとうございます。お戻りください、エルトハルト氏」


 そりゃ、断るよなあ。だって長官は、わたしと同じく千里眼魔法使えるから、小型動画撮影機なんて必要ないし。

 千里眼魔法が使えない部下たちに支給しては? 機関の調査官なら、魔力的に千里眼魔法使えるんで。使えないやつは自己研鑽するが”よい”――長官にとっては、そういうもんだろう。


 なにより長官、甘えとか許さんのよ。まー調査機関ってそれなりに権力を持っているから、自己研鑽を怠るのはもっての外! ってことだろ。言い分としては正しいと思いますが、誰もが長官みたいに出来るわけじゃないんですよ! 長官はそれでも「やれ」って言うだろうけど。


「採用は難しいようですね」

「はい。わたしが侯爵の立場なら諦めます。ですがユセリラルダ侯爵は諦めなかった。そうですよね? クアルバーグ参事官」


 裁判長が参事官に話しても良いと合図を送り、


「エリニュス主幹が言う通り、諦めていませんでした。ユセリラルダ侯爵閣下に頼まれ、長官との会談を準備しました。面会申請書類はわたしが用意しました」


 参事官は口を開いた。


「この小型映像録画機を調査証拠として採用するための申請書類……と解釈してよろしいのですか? クアルバーグ氏」

「はい、そうです。ただ申請書類は書きましたが、面会目的は聞いておりません。また日時を確定する記載はないので、証拠品としての提出は控えさせていただきます、参考資料程度にどうぞ」


 参事官が面会申請書を書いたってだけで、書いたのがいつか分からないので、なんの証拠にもならないのだ。長官が承認して、はじめて証拠品になれる。


 もっともその長官が被疑者なんで、どうやっても証拠にならないんだけどね。


「ありがとうございます。では続けてください、ファンタズマ氏」

「クアルバーグ参事官が整えたエルトハルト長官とユセリラルダ侯爵の会談は、ユセリラルダ侯爵が亡くなってから三日後に設定されていました。このことから考えて、侯爵は小型の映像録画機とその周辺機器を既に完成させていたのは確実です」


 ぎりぎりまで調整はするだろうが、稼働そのものは「していた」はず。そうでなければ、長官を納得させることはできない。


 長官が納得するかどうかは知らんけど。


「そうでしょうね。それらに関する話は聞いていないのですか? クアルバーグ氏」

「聞いてはおりません。恐らくですが、わたしに迷惑をかけないよう、知らせなかったものと考えられます」

「そうかも知れませんね。ではファンタズマ氏、続けてください」


「はい。裁判長。ユセリラルダ侯爵にとって、エルトハルト長官は強敵。クアルバーグ参事官という協力者がいたとしても、完璧な説明ができなければ、心血を注いで作った魔道具が、調査の証拠として採用されることはない。ましてエルトハルト長官が何度も同じ案件で会ってくれるとは考えられない。だから侯爵は完璧は当たり前、更に劇的な手法でエルトハルト長官を驚かせ、採用を確たるものにしようとした。クアルバーグ参事官に詳細を伝えなかったのは、参事官本人が語った通り……かどうかは分かりませんが、詳細を伝えなかったことが、図らずもこの殺人事件で明らかになりました。詳細を知っていたら、クアルバーグ参事官はすぐに映像を確認して、犯人の手がかりを得ていたことでしょう」


「そうとも取れますね。ユセリラルダ侯爵は、エルトハルト氏との一回の面会で、採用を勝ち取ろうとした……証拠はありますか?」


「はい。これがその証拠になります。証拠品0の配達物。差出人はユセリラルダ侯爵で、宛名はエルトハルト長官。機関の受取日は侯爵殺害の四日前。証拠品25、機関受け取り記録です」


「証拠品25の受取書類にたしかにありますね。魔石在中の注意書きがありますね。そして先ほどの証拠品0、事前提出がなかった証拠品ですか」

「はい」

「……よろしい、証拠品0を、特例として採用いたしましょう」

「ありがとうございます」


 事前申請しても良かったんだが、あのうるさい国王を黙らせるために、わざわざこの手段を取った。


「未開封のようですね」

「エルトハルト長官はユセリラルダ侯爵が嫌いなので、開封しませんでした」

「なるほど」


 ここまで来ると、裁判長以下裁判官の皆さんに傍聴人、たぶん外で映像を見ている人たちも「長官ならそうするだろうな」と――わたしは世界の全てが、同時に納得した心の声を確かに聞いた。


 凄い人だな、長官。


「ですがエルトハルト長官は非常に育ちがよろしい御方なので、届いた品を見もせずに捨てるような真似はいたしません」


 それはそれとして、長官の育ちの良さも言っておかないと。


「なるほど」

「ですが性格はよろしくないので」

「性格がよろしくない……それも覚えておく必要があるのですか?」

「はい、悪いことは絶対にしないと、機関所員、全員信じて疑いませんが、性格はよろしくないので、この配達物を会談の際、本人に突き返そうとした……はずです。裁判長、エルトハルト長官に確認していただけますか?」


 別におちょくってるわけじゃないんですよ、長官。長官なら分かってくれるはず。脳内には地元からめっちゃ笑いが響いてるけど。まあ、裁判って笑えてくるところ、あるよね。


 とくに殺人罪なんて存在しないバビロンの住人だ、仕方ない。


「エルトハルト氏、発言を許可します。ファンタズマ氏がそのように言っていますが、本当ですか」

「ええ、本当です、わたしはユセリラルダ侯爵に、開封せず突き返すつもりでした。裁判長、一言だけエリニュスに言いたいことがあるのですが、許可をいただけますでしょうか?」

「許可します」

「エリニュス! 覚えておけ! ……失礼いたしました」


 長官はそれだけ言うと、腕を組んでスツールに腰を下ろした。


「ご覧の通り、エルトハルト長官は決して法に背くことはいたしません。この裁判の間、わたしに対して言いたいことは山ほどあるし、普段でしたら容赦なく責め立てますが、ここが大法廷であり自身が犯罪者の立場にあり、自由な発言をすることができないと理解しているので、決して口を開かないのです。そして一言発するときも、裁判長に許可を取る。計らずも、長官の正しさを皆さまにお見せできて嬉しい限りです」


 長官の顔が「てめえ、覚えてろよ」になってる。お育ちがいいんだから、そういう言葉使いしそうな表情は、しないほうがいいですよ、長官。


「そのようですね。この届けられた品は封印がなされていますね」

「裁判長もご存じでしょうが、その封印は荷物を受け取った所員の受け取り封です。魔力精査、所員ルートルスをここに」


 機関職員は証人とか証拠にならんので――裁判所の職員がやってきて、荷物の封印とルートルスの魔力を比較し「同じです」と裁判長に伝える。


「確認いたしました。たしかに機関職員ルートルス氏の魔力で間違いありませんね」

「裁判長、その小包をこの大法廷を開いた張本人に、確認させてやってください。”実は封印は解かれていた!”などと、あとで言いがかりを付けられても困りますので。言わせていただくと、本来でしたらわたしたち機関側も、確認して証拠として提出したかったのですが、決定的な証拠の封が解かれているとなれば、この大法廷をおこした張本人が納得しないと思い、あえてこの形を取らせていただきました」


 裁判長はこの大法廷を勝手に開いて、出だしで大暴走し、冤罪を真実だと思い込んで声高に叫んでいた国王に、度し難き愚か者を蔑む視線を向けた。

 裁判長が法廷でここまで、蔑みを出すのって珍しいことだけど、仕方ないよね!


「少々お待ちください………………」


 裁判長の周りに裁判官が集まり、話し合いを開始した。

 一傍聴人でしかない国王に、証拠を見せるというのは、法廷ではあり得ないことだけど、こいつに限っては扱いが面倒なので。

 話し合い中暇なので、ルミルレットーバ首席秘書官にサムズアップすると、無表情のまま低い位置で返してくれた。

 ルミルレットーバ首席秘書官の隣にいる長官? 黙ってるよ。長官が動くはずないから。


 これで、あの録画再生機に犯行現場が映っていたら、いいなあ。映ってなけりゃ、なくてもいいんだけどね。


『本当に記録されているのか?』

『記録はされている』

『機関本部は、魔法に関しては、かなり結界を張っているぞ』

『機関本部内では録画されていないはず』

『結界を張っているところでは作動しないということか? それでは役に立たないのでは』

『後付け、もしくは長官の前で”こうすることで、結界も抜けて録画できるのです”するつもりだったんじゃないかな。その方が劇的だろ』

『おまえが驚かせる方式をとるって言ってたな。そういう手もあるか』

『……やばっ! 長官に気づかれた』


 オルタナと脳内で会話してたら「お前ら、なにか良からぬことを」って睨まれた。よく気が付くよな長官。

 あの才能には、恐れ入るよ。わたしの世界が狭いせいかもしれないけれど、こんなすごい才能の持ち主、初めて見た。


 あ、裁判官たちが着席した。


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