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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第四章・過日の亡霊――亡き元王女により暴かれた過去

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【10】

 涙は証拠にならない! 

 普通に考えたら、そうだよねえ。いやあ、侯爵を悪役令嬢に仕立て上げようとした、か弱い婚約者強奪女・異母妹と愉快な仲間たちは「涙が正義!」って絶叫してたんだって。


 裁判官席にいるクールベイトって人が、愉快で不愉快な仲間たちと同級生で、断罪という冤罪の場にいたそうで、証拠として必要なので話を聞きにいったところ、証言する前に「嘆かわしいを通り越して、国を捨ててやろうと本気で思った」って吐き捨てた。


 なんで国捨てなかったの?


 この人も冤罪について思うところがあったらしくて、国に残って正常な裁判が執り行われるように頑張ろうって思ったんだって。


 卒業式の「真実の愛断罪」がひど過ぎて。


 普通の人なら、こいつらが未来の国王とその配偶者かって、国に絶望するところだけど、愛国心がある人は違うな。


 さてと……


「ヨトラコル伯爵の証言から、何者かがユセリラルダ侯爵が用意した目安箱に、アーティホード氏が起こしたとされる殺人事件の再調査依頼がありました」

「ヨトラコル伯爵の証言しかないので、些か証拠として弱いですね。もちろんヨトラコル伯爵が嘘をついていないことは、分かりますが、正しさを証明していただかないと」


 再調査依頼を書き写したメモは残ってたけど、依頼した投書そのものは見つからなかったんだよ。

 おそらく、文字から投書した人が誰か分かってしまうことを避けるために、すぐに証拠を処分したんだと思う。


 ヨトラコル伯爵の筆跡鑑定を直接見たら、警戒するのもうなづける。あの人、すごいわ。調査において国際評価が地を這うカラブリアだけど、才能ある人もいるんだね。機関に戻ってきてくれないかね? 一緒に調査したら、楽しいだろうなあ。


「かしこまりました、裁判長。ヨトラコル伯爵がこの事件について聞かれたのは、半年ほど前だったそうです。これもまた証拠はヨトラコル伯爵の証言しかございません。ユセリラルダ侯爵が、供を連れていたら……と思いますが、今回の事件で殺害されていたら同じですがね」

「そうですね」

「裁判長。ヨトラコル伯爵の証言で、目安箱に”同じ人がつづった投書があった”という証言がありました」

「ありましたね。それで?」

「裁判長にお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「なんでしょう? ファンタズマ氏」

「裁判長、その他裁判官の皆さまは外出の際、法衣を着用なさいますか?」

「いいえ、しません。法衣を着て出歩くことは法律で、禁止されております。ご存じありませんでしたか?」

「存じ上げておりますが、裁判長の発言が欲しかったので」

「そうですか」

「この同一人物が書いた文字。ヨトラコル伯爵も見て、確かに同じ人物が書いたものだと、元機関の調査官として間違いないと証言しました」

「たしかになさいましたね」

「さて、わたしも含めて皆さま文字が書けるので、ここを想像するのは非常に難しいかもしれませんが――ユセリラルダ侯爵が庶民の事件でも再調査してくれるための、箱が用意されている……と聞いた庶民がいました。ですがその人は庶民で文章を綴ることはできなかった」

「だから聞き取り方式に替えたのでしょう?」

「はい。ですがパールス氏殺人事件と、爆死の事件は同じ文字で書かれていた。同一人物が書いた。文字を綴ることができる人が持ち込んだ事件がどちらか? は、どうでもよいのですが――依頼し易く、一目で文字が書けることが分かり、さらに事件の再調査の依頼書を頼んでも、無料で引き受けてくれ、尚且つ秘密を守ってくれそう(・・・・)な人。この条件に合う職業が一つ、神官です。それもサンクス神以外の」


 誓約といえばサンクス神なんだが、こっちは普通に金を取る。


「…………たしかに、サンクス神の神官以外の神官が、もっとも分かり易く、依頼しやすく、そして彼らは引き受けてくれますね」


 目安箱に代書で投書したのなら、簡単に探せはするが、事件の再調査についてを、代書屋に頼むか? となると、また違う。

 代書屋って秘密守るんじゃないの? 誓約できる金があればね!

 要するに普通の代書屋、庶民が依頼できる代書屋は厳しい誓約とかないんで。これが貴族の祐筆とかになると、命を刈り取られる系の誓約紋が入っている。


「懐事情から言っても、庶民が頼むなら神官一択でしょう。冒険者ギルドなら、代書もありますが、彼らが秘密を守ってくれるという保証はありませんし、多分誰も、そう(・・)思うでしょう。まあ憶測ですが。あと金もかかります」


 サンクス神の神官というのは、多くがギルドに勤めている。ギルド=サンクスって感じだ。


「たしかに冒険者ギルドのくだりは、憶測ですね。そちらの証言は証拠になりません。続けてください」

「はい。目安箱に再調査依頼を投書した神官を、総当たりで探しても良いのですが、ヨトラコル伯爵の見立てでは、文字は若い男性が綴ったものと思われる……とのこと。もっとも現物もないのに、ヨトラコル伯爵が得意だった……ということをあまり重ねて、冤罪を招くのは良くないことなので、この程度にしておきます。話は目安箱への投書ですが、どちらがどちらの事件を持ち込んでも良いとは言いましたが、恐らく代筆した神官がパールス氏殺害事件についての再調査を依頼したと思われます。その根拠として、庶民は三十年前に起きたこの事件について、知りようがないからです」


「知りようがない……ですか」

「はい。なぜなら、この事件は神殿の奥深くで起こった事件だからです」


 裁判長が資料を手に取り目を落とす。


「たしかに神殿の地下拝殿で起こった事件ですね」

「さらにこの当時、神殿には外国人がいなかったことも、パールス氏殺害事件の資料に記載されています」

「確認しました、続けてください」

「当時蔓延し、当たり前のように行われていた外国人に罪をなすりつけるということが、出来なかったという、当時にしては希有な殺人事件でした」


 裁判官全員が、眉間にしわを寄せて、国王を睨んでる。これ(・・)が暴かれて、司法権取られたのにも関わらず、今回の大法廷強行だもんなあ。


「まことに遺憾ですが、認めざるをえません」


 冷静な裁判長の声に、怒りがこもってる!


「外国の神官を犯人に仕立て上げるのは、さすがに無理だった。なので地下拝殿に立ち入ることができる者から、機関は犯人を選んだ(・・・)

「選んだ……とは」

「アーティホード氏の一門バクノン家とパールス氏の一門イトチフォ家は不仲だったので、その延長で殺害したということになっています。証拠品19の殺害事件の資料を読む分には」

「そのようですね」


 この事件、逮捕記録はあるんだが、裁判記録はない。

 だから裁判官たちは、この一件を知らないのだ。なぜ裁判記録がないのか?


「ただこの事件の裁判記録を、我々機関は見つけることができませんでした。要するに裁かれていないということです。イルカト裁判官、裁判記録はありましたか?」


 答えはただ一つ、逮捕されたが裁判にかけられていないということ。

 それを、裁判官に調べてもらった。なぜイルカト裁判官に頼んだのかというと、この人庶民なので。貴族とつながりが少ないことと、クールベイト裁判官が「信頼できる」と推してくれたので。


 イルカト裁判官を推薦しながら、事情を聞いたクールベイト裁判官は首筋がぴきぴきしてたって――オルタナが言ってた。


「答えてください、イルカト裁判官」

「裁判長。機関の調査依頼を受け、過去三十年間の裁判資料をあたりましたが、裁判記録はありませんでした」


 お疲れさまー。

 出版各社の「この事件、載ってないよな」を調べるのも大変だが、裁判所も大変だったろうな。


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