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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第四章・過日の亡霊――亡き元王女により暴かれた過去

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【08】筆頭秘書官ルミルレットーバ

 エリニュス・バベル・リビティーナーリウス・ファンタズマ


 オルクスが「強いというより、結果を出すといった方が正確ですね」と言っていた。その意図を図りかねていたが――


「スパルク氏の殺害に関与しているかも知れない……程度なので、ここまでのことは、一旦置いて下さい」

「ここまでのことを?」

「補強にはなりますが、補強以外のなにものでもないので」

「わかりました。貴方も座ってください、ロテルシト男爵」

「それでは、侯爵殺害犯について、大雑把ですが順を追って説明いたします」

「大雑把ですか」

「はい、大雑把です。侯爵が殺害された理由は、昔の罪を曝いたからです。ただそこは、皆さまも気付いていらっしゃることでしょう。では、侯爵はなにを曝いて、殺害されることになったのか? 結果だけを聞きたい方もいらっしゃるでしょうが、調査機関というのは、結果だけを出しても認められないので、これから長々とした話になりますが、お付き合いください」


 結果だけなら、エリニュスは占いで出せる。だが事件に関して占いは使用を禁じられている。

 エルトハルトさまが直接、エリニュスに誓約紋を刻み、占いを使用したら分かるようにもした。


――手練れとは、エリニュスのような者のことを言うのだろうな

――どうなさいました?

――占いに関する誓約だ。手ごたえはあった、誓約はしっかりと発動する。だが同時にあいつは、かい潜れると理解(・・)した

――天与(ギフト)だからですか?

――天与(ギフト)を封じるのは不可能だが、通知に制限はない……が、あれはな

――もう少し強めの誓約を叩き込まれたらいかがですか? エリニュスなら大丈夫でしょう

――おそらく無駄だ。複雑な誓約の隙間を抜けることや、大きな魔力の隙をつくことに慣れている。いままで会ったこともないし、経験したこともないが解った。そしてそれは天与(ギフト)ではない。本人が培った経験と技術だ……これが、いい経験というのだろうな。わたしも魔力に甘えずに自己研鑽を積まねばな


「カラブリア王国の皆さまには説明は必要無いかも知れませんが、通信が繋がっている他の国の方々には、些か説明する必要がありそうなので、説明させていただきます。ユセリラルダ侯爵は元はこの国の王女でした」


 騒ぎまくっていたカラブリアの王が、エリニュスを睨みつけるが、そんなのは知ったことではなと、エリニュスは続ける。

 バビロン出身者にとって、本当に国王というのは恐ろしくもなんともない、ただの人でしかない。


「国王は身分が低い最愛の恋人と引き裂かれたのは、ユセリラルダ侯爵の母親のせいだと恨み、ユセリラルダ侯爵の母親、即ち王妃が亡くなり、最愛の不倫相手との結婚を許さなかった父王の死後、最愛の恋人を王妃としました」


 本件には三十年前の殺人事件が関与している。

 三十年前の殺人事件――犯人がカラブリア貴族という、あの当時としては明らかにおかしい事件なのだが、他国に伝わっていない。

 他国の事件でも、その頃のカラブリア王国で貴族が犯人だとされたのならば、噂の一つも届くものだ。

 だがその時は届かなかった。理由は殺人事件が起きた三日後に、先代国王が死んだからだ。



 その混乱に事件は紛れた……正しくは現国王の愚かさに便乗した。



「父親という最大の障害がなくなった国王は、再婚するだけでは飽き足らずユセリラルダ侯爵を冷遇し、更には愛人時代に生ませた娘に王女の称号を与え、最愛の恋人との間に生まれた娘にとって、ユセリラルダ侯爵の婚約者こそが、真実の愛の相手だと泣いたので、婚約者をすげ替えた……やはり話が長くなりすぎるので、カラブリア王国で長期にわたって愛され、売れ続けている”真実の愛とはなんでしょうか?”をお読みください」


 エリニュスは手元の資料入れ鞄から、この国の恥部を晒した小説を取り出す。あんなものを出版するなど、ユセリラルダはなにを考えていたのだ。


 それほど恨んでいたのかも知れないが。


「ユセリラルダ侯爵は魔力の低さゆえに、父王に疎まれ婚約者に蔑まれました。父である王が跡取りの不出来を疎むのは、理不尽ですが国の統治に関わる人材ゆえ理解する人もいるでしょうが、格下の婚約者が蔑むのはいかがなものかと思いますが、それが許されるくらい、彼女は魔力が低かったようです。個人的にお会いしたことないので、分からないんですが」


「さて、どの国でもですが、調査機関の職員の採用条件としてある程度の魔力が必要になります。これは精神操作魔法を防いだり、犯人を追っている時に負傷しても、内部魔法で治療したり……など、生来の魔力が必要になる場面が多いからです。彼女、ユセリラルダ侯爵の魔力は、この基準に到達していなかった」


「調査機関に属することはできないが、彼女の活動はどうしても機関の情報が必要だった。そして彼女は手に入れていた、機関員でなければ知り得ない情報を」


「彼女がどのようにして、情報を手に入れていたのか? ここで機関職員、とくにカラブリア出身者の行動についてご説明いたしますと、彼らは一切、ユセリラルダ侯爵には近づきませんでした。なぜなら、彼女に近づき情報を漏らしていると疑われるのを避けるためです。実は長官がユセリラルダ侯爵のことを嫌っていたのには、これもあります。下手に彼女が近づいてきて、無実のカラブリア人部下()疑われるのは、腹立たしく事件解決の邪魔になると」


 裁判長や他の裁判官がうなづいている。理解してもらえてなによりだ。


 ユセリラルダは危険な行動ばかりとる。それが本人だけならば、まだ良いが周りをも巻き込むようなことばかりだ。

 本人が死亡した事件も、周囲の者たちも巻き込まれた。

 周囲においていた者たちも、さほど強くはなかったのが原因だが……顔見知りだから油断していたのかも知れないが、そんなのは護衛として役立たずだ。


 ”相手が弱いから油断してしまったのでしょう。要するに犯人は顔見知りってこと”


 エリニュスは言っていたが……顔見知りだからといって、警戒を解くなどどうかしている。


「ですが唯一、彼女の情報源になる機関職員がいました。二代前の長官、ロテルシト男爵カルネッセ。証拠品12,13をご覧ください」

「12は機関資料室の閲覧者リストと、13はロテルシト男爵がこの五年間に閲覧した資料の一覧ですね」


 ロテルシトという男は見ただけで、弱いと分かる。だが、エリニュスは「魔力を少なく見せかけているだけかもしれない」と疑っておく”べきだ”とも言っていた。

 まあ、本人が魔力を操り、ほとんど持っていないように見せかけることができるのだから、疑って当然だが。


 もっとも当人が「疑ってるだけで、魔力というか魔法は下手。だから、このような手段を取ったんですよ」そうも言っていた。


「はい。次に証拠品14をご覧ください」

「こちらは……ユセリラルダ侯爵の寝室から見つかった、事件のことを記した覚書ですか」

「はい。ロテルシト男爵が閲覧した事件、三件の覚書がユセリラルダ侯爵の寝室に残っていました」

「確認いたしました」

「証拠品15をご覧ください。その資料をこの五年の間に、この三件の事件資料を閲覧したのは唯一人、ロテルシト男爵だけです」

「たしかにロテルシト男爵唯一人のようですね」

「図書館も調べましたが、この三件の事件について掲載された新聞はありませんでした。もちろん出版社も調べ、彼らもこの三件の事件について書いていない、資料などないと宣誓してくれました。それが資料16の連名宣誓書です」


 証拠のなかで、これがもっとも手間と時間がかかった。

 存在するものを探すのは、手法も確立され効率化されているが、ないものを「ない」と証明するには、とにかく総当たりするしかない。

 ”これももうちょっと、コス……効率よくしないと、だめですね”……と、昨日の深夜にエリニュスの分体が腕を組みながら、つぶやいていた。


「確認しました。この事件の資料は、機関の資料室にしかないと断じても良いでしょう」

「ありがとうございます。ではそのような事件を、ユセリラルダ侯爵はどのようにして知ったか? それは、こちらになります。証拠品17目安箱」

「メヤスバコ? ですね」


――やはり裁判長もその言い方か


 ”あの人とユセリラルダさまの、メヤスバコの発音は似ている。似ているというか、両者とも違う文字を詠唱しているかのように聞こえる”と証人控え席のラパチノールという人物が言っていた。

 これに関しては、わたしも分かる。エリニュスが発する「目安箱」と我々が発する「メヤスバコ」はまったく違う。どうしてそのような違いがあるのかは分からないが。


「ユセリラルダ侯爵は、庶民の冤罪事件も吸い上げようと考え、自らの邸の裏口に、この箱と紙とペンと机を用意し、投書するよう庶民に広めました。この仕組みを目安箱といいます」

「証拠品17は箱でしかありませんが、ユセリラルダ侯爵の邸にあった際には、ただの箱ではなかったということですか」

「そうですね。目安箱とはこの箱を介した仕組みと認識なさったほうが、分かりやすいかもしれません」



 そうなのか……そういう意味なのか、そういうことだったのか。そこはわたしにも事前に説明しておいてほしかったぞ、エリニュス。



「説明ありがとうございます。続けてください、ファンタズマ氏」

「はい。再調査の依頼をしやすくする為に、裏口には施し用の棚も設置しておりました。これにより裏口に近づくのが、再調査依頼者か、日々の生活に困っているものなのかを曖昧にしました。ユセリラルダ侯爵殺害事件と同じ時に発生した、出入口がここです」

「確認しております。続けてください、ファンタズマ氏」

「はい、裁判長。この三件、そしてロテルシト男爵が調査した他七件の事件は目安箱、若しくは聞き取りによって持ち込まれた再調査依頼になります」

「聞き取りとはどういうことですか? ファンタズマ氏」

「文字が書けない者のために、匿名性の高い簡易的な部屋を作り、口頭で再調査依頼を受けていました。それが証拠品18、聞き取り部屋の図面になります」


 不特定多数からの情報提供に、メヤスバコのような仕組みを作ったのか? 普通に考えれば、聞き取り部屋のほうが先に思い浮かびそうなものだが。わたしたちとは、発想が違ったのだろう。


「そのような意図で作られたものでしたか」

「はい。再調査の依頼を受けるユセリラルダ侯爵ですが、調査の取っ掛かりには、機関の資料が有用です」

「そうでしょうね」

「現在の長官は絶対ユセリラルダ侯爵を拒み、二代前の長官は頼まれて資料を漁る。では先代の長官はどうか? 先代長官ヨトラコル伯爵は調査協力はしていなかったと本人が証言しています。そんなヨトラコル伯爵のもとに、ある日突然ユセリラルダ侯爵が、従者を伴わずに訪れたそうです。証人7ヨトラコル伯爵シャサイア氏です」


 エリニュスが証人番号をあげると、ヨトラコル伯爵が手を挙げる。


「ヨトラコル伯爵シャサイア氏、証言台へお願いします」


 この伯爵は本当に不運というか……当人が真面目で、なんら事件に関わらず、さらに冤罪事件の多発を不快に感じ、自分の代で改革しようとしていたところに、ユセリラルダが乗り込んできて、荒らしに荒らしてヨトラコル伯爵の立場を失わせた。


 ユセリラルダという女は、ヨトラコル伯爵が自らを犠牲にするのも厭わない、志が高く自らを律することができる善人であったから協力を得られた。

 またヨトラコルはユセリラルダの元婚約者とは違い、まともな貴族なので、元王女に対して礼を尽くした。

 その結果としてユセリラルダは、冤罪を暴く正義の人という名声を得られただけで、普通であれば無視されるか殺されただろう。

 ユセリラルダ本人は気づいていたか……多分気づいていなかったな。だから、死んだのだろう。


「ヨトラコル伯爵シャサイアです」

「嘘偽り無きよう証言することを宣誓しますか?」

「いたします」

「ではヨトラコル伯爵に質問です。ユセリラルダ侯爵からの訪問はありましたか?」

「ありました」

「いままでユセリラルダ侯爵からの訪問はありましたか?」

「公職を辞してからは、一度もありません。在職当時も自宅を訪れることはありませんでした」

「ありがとうございます。ユセリラルダ侯爵は先ぶれもなしに、訪れたのですか?」

「はい」

「あなたは、邸に通したのですか?」

「はい」

「訪問理由を証言することはできますか?」

「できます」

「では、何を聞かれたのですか?」

「バクノン一門のガルムロド・アーティホードという、ウェイヨウィスの神官が起こしたとされ事件について、尋ねられました」


 証人控え席にいる神官に、視線が集まる。


「それはいつ頃に起こった事件ですか?」

「三十年前の事件になります」


 ヨトラコル伯爵の発言に、傍聴席にかすかながら、驚きの声が上がる――五十を過ぎた貴族だろう。

 おそらく彼らも知らない。彼らにとって三十年前の大事件は、国王の急逝と、父の死を喜び、喪に服することもなく愛人を王妃にした現国王の一件だ。


 ”喪に服する”という概念などないであろうバビロン出身のエリニュスが「儀礼を重んじるとかほざいている国家として、それはどうなん?」と漏らしていた……全くもってその通りだ。


「三十年前? 証人の略歴を確認いたしましたが、あなたは三十八歳です。何も知らないのでは?」

「はい。ですがユセリラルダ侯爵が、是非ともわたしから聞きたいと希望し、わたしのもとを訪れたのです」

「何故ですか?」

「推察になりますが、いつも資料集めを手伝っている、わたしの前の長官ロテルシト男爵も容疑者の一人なので避けたのでしょう」


 先ほどの一件で、不信を覚えた貴族が、ロテルシトにぶしつけな視線を向ける。


「容疑者の一人?」

「はい。彼はその頃は、事件の現場となった神殿に配属されていた神官でしたので」

「ロテルシト男爵はウェイヨウィス神官から、機関の長官になったのですか?」

「はい」

「そうでしたか。それならば、まずはあなたに話しを聞いたのも分かります。ところで、あなたはどのように答えたのですか?」

「小耳に挟んだことがある程度だとしか、答えられませんでした」

「他には?」

「知っていることは、ほとんどないと答えました」

「なるほど。あなたは、ユセリラルダ侯爵から、機関の調査資料を調べて欲しいと依頼はされなかったのですか?」

「依頼されましたが、断りました。わたしは機関から、完全に身を引いた者ですから」

「そうでしたか。ファンタズマ氏、証人に尋ねることはありますか」

「現時点ではございません」

「分かりました。証人の控え席にお戻りください、ヨトラコル伯爵」

「失礼いたします」


 ヨトラコル伯爵が控え席に戻る。


――この一件が殺害の理由だとしたら……身を引いたなどと言わずに、機関に報告すべきだった


 証人になることを求められたとき、ヨトラコル伯爵は自らを責めるような言葉を漏らしていた。

 たしかに報告はして欲しいが、ユセリラルダの殺害は避けられなかっただろう。自ら身を守れないのに、殺人事件に関与していたのだから。


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