【03】
侯爵が殺害された部屋の反対側にある、第二の現場の裏口へと向かう。
「こっちも殺意ある爆発だな……それにしても、この共鳴……さっきの現場もそうだが、並々ならぬ殺意を持ったやつの仕業だな」
爆破規模だけでいったら、どうってことない。
人が粉々になるくらいの爆発なのに? と言われそうだが、攻撃魔法ってとんでもない威力あるのよ。
この世界迷宮もあれば、魔物もいるわけで。魔物は大概人間より頑丈。それらを殺すために開発、進化してきたものだから。
地元じゃ竜を一撃で殺す魔法を放つようなのが、ごろごろ……とはさすがにいかないけど、複数名 いるんだな。それに比べたら威力は大したことはない。
ただ人に向ける殺意が酷い。
この現場で使われたのは「魔石の暴発」これは昔からある殺害方法。
魔力が閉じ込められている石に魔力をぶつけて、連鎖反応を起こして大爆発を起こす。魔石の質によって爆発規模は違う。
今回の現場は「それほど上質ではない」魔石が使用されている。
上質な魔石は高く売れるし、ほとんどが店で取り扱っているし、なにより魔力の痕跡《魔力紋》を綺麗に残す。
上質な魔石というのは、すっごくクリアなんだ。
魔石はランクが下がるほど、雑多なものが混じっていて、使用者の魔力紋をぐちゃぐちゃにする。
そう指紋とおなじく、魔力紋というものが、この世界には存在する――っていうか、指紋のほうが魔法紋よりずっと後輩だけどな。
質の良くない魔石を自らの魔力の魔力紋を誤魔化す。
さらに出所がはっきりしない魔石を使うことで、もっと誤魔化すことができる。この犯人は、わざわざ質の良くない魔石を大量に使って自分の魔力を隠している。
ちなみに質の悪い魔石というのは、魔力が少ないというわけではない。広義ではそうだが、偶に保有魔力が凄すぎて、不安定で僅かな衝撃で大爆発、更に魔力をぶつけたら、目も当てられないような連鎖爆発を起こすものも”質の悪い魔石”と呼ばれる。
今回はそれも含まれてると思われる。
魔石採取は冒険者ギルドが発注する依頼の中でも、四割を占める。迷宮で魔石採掘するのが、冒険者の仕事と言っても過言ではない。
生活に密着しているから、いくらでも売れるってのもある。
「でも今回のは、もぐりだな」
独り言を呟いていると、結界を通り抜けて参事官が入ってきた――わたしよりも階級の高い機関の調査員は、通り抜けられる仕様の結界にしておいたので。
「エリニュス主幹」
「クアルバーグ参事官」
朝に会った時とは比べ物にならないほど、顔色が悪くなってる。
参事官は侯爵の信奉者だし、学園で婚約破棄されたとき、その場にいたらしいからな。
救えなかったのかって? 公爵子息と王女の会話に割って入れなかったそうな。身分社会だから仕方ない。っても、参事官も侯爵家の御令息らしいけどな! でも無理だったんだって! 身分社会だから。
「現場保存ご苦労。建物内に怪我人は?」
「保存結界内を”走査”しましたが、動けないような怪我人はいませんでした」
「そうか……死者は?」
「切った爪より小さい肉片しかありませんから、数えるのは大変かと」
「正式な数でなくていい。いや、お前の”死者走査”は完璧だろう」
「裁判の証拠にはなりませんよ」
「いい」
「分かりました。裏口に二名、室内に四名」
「裏口は巻き込まれもあるが、室内は本当に四名なのか?」
おいおい、人の”死者走査”は完璧だと言っておきながら、舌の根も乾かぬうちに否定してくんのか!
「あ……猫も入れたほうがいいですか? 猫二匹も死んでます」
細けえな……っても、猫の肉片もより分けなきゃならないから、言ったほうがいいか。
「猫ではなく、ああ、猫も殺されたのか」
「はい」
「室内は三人ではなく四人なんだな?」
「はい。もしかして、邸内の使用人が三人と証言しましたか?」
参事官が肯く。
「第三者がいた。もしくは、そいつが人間爆弾だったのでしょうかね」
「どうだろうな」
侯爵が殺害された現場の方角を切なげに見つめている。そんなに好きだったら、アプローチすりゃ良かったんじゃないですかね?
侯爵独身だし――悪役令嬢ものだが、ヒーローは現れず、ガチで自分の力で生きてきた……のに、殺害されるとはねえ。
冤罪事件を独自に曝いてたら、こうなっても仕方ない気もするけれどね。
「クアルバーグ参事官、結界はどうしますか?」
「このまま維持してくれ。事件終了まで、お前の結界で。立ち入り権限はわたしの承認で通せる設定にしてくれ」
「分かりました。それではわたしは持ち場に戻ります。……あ、そうだ。フォーロウ通りのカフェ近くで、爆破を聞きつけて駆けつけたのですが、道中に爆破共鳴の痕跡を持った人間はみかけませんでした」
言いながら領収書を取り出す。
一瞬いつも通りの渋い表情になったが、道中に共鳴の痕跡がある者がいなかったという、わたしの証言の証拠となる。
「分かった。その領収書は証拠として提出しろ」
今回はこれも証拠になるので。
「はい。それでは」
結界を出たら、遠くからエルトハルト長官と部下の第一室のメンバーが来た。
「今日休みなのに、ご苦労なこった。さすが長官、勤勉だなあ」
捕まると面倒なので、背を向けて、
「エリニ ……」
「”身体強化、及び心肺強化”」
「ま……て……」
魔法で体の能力を上げ、ガチめに一目散で逃げ出した。悪い人じゃないんだけどねえ。調査権で参事官と争うことになるのは火を見るより明らか。そんな現場に残りたくないんでね。
無事に機関にたどり着き――元王女で、王都で一番とも言われる商会のトップで、世界的に名の知られた犯罪捜査のスペシャリストが殺害される大事件が起きたので、いつもわりと静かな機関内もざわついている。
第四室に戻り、
「この領収書、調査資料として提出して。そして、仮眠してくる。勤務時間が終わったら起こして」
「分かったわ、エリニュスちゃん」
秘書官に仕事を頼んで寝ることにした。
**********
『エリニュス…………おーい無視すんな』
『わたしは今、睡眠中なんだよ。わかる? スムマヌス』
『睡眠ってなんだよ』
『バケモノメー。人は寝ないとシヌンデスヨ。分かる?』
『カラブリアの発明女、死んだのか』
『話し聞かねえな。うん、死んだよカラブリアの元王女』
『へえー。面白いもの、色々作ってたのに、もったいねえな』
『そうだね。たしか、バビロンにも商会を出してたよな』
『ああ。商会にはまだ死亡した情報入ってないけどな』
『教えてやらないの?』
『情報は金だぞ』
『そうだけど。それで、なに?』
『こっちで面倒な事件があってな。資料置いておくから、読んで犯人の目星つけておいてくれ』
『なぜわたしが?』
『バベル一の調査能力を貸してくれよ』
『誰がバベル一だ。そんな称号、とった覚えねえぞ』
**********
犯人はヤヌスだったよ――伝説の犯人ヤ〇に似てるとか、思っちゃった。
そんなことを思いながら目を開けると、あまり見慣れていない機関の仮眠室の天井が飛び込んできた。
あまり仮眠室を使わないから、見慣れない天井なんだ!
「おはよう」
「そろそろ起こしに行こうと思ってたわ、エリニュスちゃん。会議室に食事を用意しておいたわよ。領収書を調査資料として提出もちゃんとしといたわ」
うちの秘書官は優秀だ、オネエだが。
強キャラ感のないオネエなのが残念……でもないが。ほら、オネエキャラって背が高くて、武道にも長けているけど、ここにいるのは「キャラクター」じゃないので、中年のバーコード禿げのおっさんが、落ち武者系長髪で、けばい化粧をしている。
魔力に関してだが、それも人並み。
様々な人生経験はありそうだけど、まだ披露されたことはないし、人の人生聞く趣味ないので割とどうでもよい。
「ありがとう」
会議室に足を運ぶと、今日は休みの同僚たちまで第四室の会議室に集まっていた。
「おはようございます、エリニュス主幹」
「おはよう。ユセリラルダ侯爵の一件はどうなった?」
「死亡したのは、ユセリラルダ侯爵で間違いないそうです。そして室内にいたのは、ユセリラルダ侯爵を含めて四名。裏口での死者は二名。あ、あと室内では猫が二匹死亡でした」
死者の数は間違っていなかったな。いや、死者の数を数えるのは得意なんで、自信はあったけどな。
「全員他殺で確定だそうです。エリニュス主幹は臨場したんですよね?」
「した。まあ、事故はあり得ないな」
「そうですか」
「新人の現場研修に使いたくなるくらい、典型的な意図的な魔石の暴発を使った、魔力紋偽装現場だった」
「被害者が侯爵じゃなかったら、それもアリだったかも知れませんね」
「そうだな。殺人と断定されたってことは、侵入経路は分かったのか」
「分かってないみたいです。あとは調査権限が、参事官から長官に移りました」
「侯爵殺害ともなれば、長官が出るよな」
「一悶着あったみたいですけど」
「だろうな。だから、わたしは一目散に逃げた」
予想通りだったようだ。侯爵嫌いの長官と、侯爵信者の参事官だからな……どっちが冷静な判断ができるかというと…………どっちもどっちだ。副参事官が一番の適任じゃないかな。
あいつは首突っ込まないだろうけど。




