【04】
「では裁判長、次に移らせていただきます。証拠品3、殺害現場へと続く廊下の映像を流します。十分とかなり長い映像になりますが、目を凝らしてご覧ください」
目を血走らせて映像解析していた調査員たちに指示を出し、空中に映し出されている画面に映像を流す。
貴族の邸としてはシンプルで派手さのない廊下。
誰も通らない廊下を早送りせずじっくり十分映像を流し――最後に爆発が起き画面が砂嵐になる。
爆発が起きたとき、息を飲む声が聞こえた。
「ユセリラルダ侯爵が殺害された部屋へと続く、廊下の映像です。この廊下はユセリラルダ侯爵が殺害された部屋に続く、唯一の廊下で、映像は事件が起こる十分前から事件発生時までになります」
映像はやや荒めだが、何が映っているか分からないような映像ではない。
侯爵の部屋に続く廊下にはなにも映っておらず、そして爆発の映像になる。
裁判長は大きく息を吐き出し――
「わたしには何も映っていなかったように見えますが」
そう言ってから、国王を睨めつけた。
口を開きかけていた国王は、下唇を噛んで鼻穴を膨らませて、言葉を飲み込む。
「ユセリラルダ侯爵を嫌っていて、魔石を持っても飛行ができる人物……という、実に雑な理論でエルトハルト長官が犯人だと、怪文章には書かれていおります。ところで、先ほど流した映像のおかしなところ、お気づきになられましたか? 裁判長」
わたしもオルタナも、魔石を抱えて飛べるけどな!
「おかしい? わたしには分かりませんでしたが」
「では、再度映像を流させていただきます。ビーハイ、十分前からもう一度流せ。今度は三分でいい」
「はい」
もう一度、標準速度で映像を流す。
「これの何処におかしいところが?」
「では、説明いたします。ビーハイ、今度は0.5倍速だ」
同じ映像がゆっくりと流れ――
「裁判長、よくご覧ください。窓から動く影が差し込んでいますね。ここから影に注意してください……今、影がおかしな動きをしたことに気付きましたか?」
規則正しく動いていた影の動きが、一瞬だがはっきりと狂った。
「規則的に、同じ大きさで動いていた影が、突然リズムが狂い長さも違い、また元に戻る」
「これは一体?」
「画像加工です」
「画像加工?」
「はい。犯人は自分が映っている部分を消去したのです。ビーハイ、同じところを標準速度で何度も再生しろ」
すっかり動画証拠担当調査員になっている、目を血走らせていたビーハイに指示を出す。
「消去すると、このようになるのですか?」
「いいえ。この映像は映像時間を誤魔化すために、自分の映像を消去した部分に、複製した画像を継ぎ足したのです」
「どうして?」
「この映像は終日撮影されてています。そして締めの時間に記録が、一日の時間に及ばなければ”異常あり”と警告がでるそうです。だから犯人は、自分が映っている部分を切り取るのではなく、複製して貼り付け記録時間を調整した」
傍聴席がざわざわし出した。
「そのようなことが、できるのですか?」
「それについては、証人1にお聞きください」
侯爵の商会の防犯設備開発部門の責任者に、証言してもらおう。
「証人名簿を確認しました。証人1のラパチノール氏、宣誓してください」
裁判前に「嘘つかない」宣誓をするのだが、魔法世界なので本気の宣誓――嘘ついたら、宣誓紋が点滅する仕組みになっている。
もっともこれも、魔力が強いと押さえ込めてしまうけどね!
そう、魔力が高いと普通仕様の宣誓紋は、簡単にねじ伏せられてしまうのは、世界の共通認識。人間社会の枠外にいるバビロンの住人だって、それは知っている。
そして長官の魔力は並外れている――法廷で「わたしは、そのようなことはしていません」と宣言して、誓約紋が沈黙を持って真実だと認めたところで信用されない。高魔力の弊害ともいえる……まあ、そんな人、そうそう居ないんだけどね。
だからこうして法廷バトルになった訳。長官に証言を求めないのもこれが原因。
「わたしことラパチノールは、良心に従い真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないこと誓います」
ラパチノール氏の顔に、ラメ入った紫色の宣誓紋が浮かび上がった。これで、ラパチノール氏は証言台で嘘をついたら、紋が派手に点滅することになる。
「それは技術責任者に聞きます。ファンタズマ氏の説明通り、映像に手を加えることはできますか?」
「できるにはできますが、それには特殊な道具が必要になります」
「どこでも購入できますか?」
「いいえ、当商会以外では販売しておりませんし、購入者も控えております」
「ではラパチノール氏にお尋ねします、エルトハルト氏はその道具を購入していますか?」
「購入しておりません」
「確実ですか?」
「はい。もしもエルトハルト長官が購入して下さっていたら、ユセリラルダさまは大喜びして、皆に教えてくださったことでしょう」
怪文章ですら「長官は侯爵が嫌い」と書かれている通り――もしも、長官が購入したとしたら、すぐに侯爵の耳に入っただろうし、クアルバーグ参事官にも届いたと思うよ。
半端に嫌っている人ならまだしも、徹底的に嫌っている人を犯人に仕立て上げようとするから、こういうことになるんだよなあ。
「ファンタズマ氏。ラパチノール氏に他に尋ねることはありますか?」
「いまはございません」
「分かりました。では控え席に戻ってください、ラパチノール氏」
「はい」
ラパチノール氏が席に戻ったところで――
「これは画像の一部を削除し、犯人が映っていない時間帯を複製して、録画時間を規定にしたものです」
何度も再生されていた画像を指差し、影の動きが不自然であることを指摘する。
「爆発によって、記録が破損したのでは?」
裁判長のご質問はもっともだ。
というか、犯人は犯罪に関して詳しいし、監視カメラ映像に関しては知っていて画像を加工できるが、どのように画像を扱ったら、罪を逃れられるかを知らない。
画像を加工して犯罪を隠蔽する事例を知らない――画像が世の中に出てきて捜査の一助になりはじめたのは最近。その頃には調査の第一線から退いているってこと。
「破損したのであれば、時間が足りずに警告音が鳴るはずですが、そのような警告音は鳴り響かなかった。なにより、この画像の保管場所は、邸内ではありますが、事件現場とは少々離れたところにあり、そちらは破損はしておりませんでした。証拠品4、ユセリラルダ侯爵の邸の見取り図になります。記録が保管されている箇所は、赤い丸で囲っております」
実は見取り図には、もう一つ、緑丸で囲っているところがあるので説明が必要なのだ。
「映像記録の保管などについて、わたしは詳しくはないのですが、記録が違う場所にあったのは分かりました。続けてください、ファンタズマ氏」
「はい。映像の改竄は、最低でも専用の機器が必要になります。これで、容疑者の数が絞られました」
そうは言ったが、購入者リストは証拠品として提出していない。
「根本的なことですが、ユセリラルダ侯爵殺人事件についてですが、皆さま、動機はなんだとお考えですか? ああ、世の中には”何となく殺したかった”という輩もいますが、ユセリラルダ侯爵の邸に忍び込んで、こんな細工まで弄して彼女を殺害しているので、そういう思考の輩でないことは確かです。”何となく殺したかった”という輩は、そういう努力はしません」
「そうでしょうね」
さて、軽く仕掛けるか――この仕掛け、恐らくすぐに真犯人にたどり着けるけど、裁判長が否と言ったら遠回りになる……是非ともそうなって欲しいなあ。
せっかく用意した証拠は、全部使いたいじゃないか! それがすべての寝不足を強いられた関係者にとっての望みだ! ……と思う。わたしは入らない。
おまえは寝不足じゃないのか? 二週間くらい眠らなくてもなんともないように、術式組んでるので大丈夫。眠い、眠い言ってたじゃないか? まあ、あれは前世の記憶を思い出したから、なんとなく。
魔力があれば、徹夜してもまったく平気なのさ! 魔力万歳!




