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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第四章・過日の亡霊――亡き元王女により暴かれた過去

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【03】

 脳内のオルタナは追い出して――いや、居座ってはいるんだけど。


「この怪文章に書かれている、エルトハルト長官のユセリラルダ侯爵殺害の理由が、稚拙過ぎて稚拙過ぎて。こんな稚拙な文章を信じる程度の人間が、最高権力を握って為政者しているなんて怖ろしすぎる。政府を信じて税金を納めている人々も、こんな馬鹿が……まあいいや。王の血管が切れる前に話しを進めますが、エルトハルト長官がユセリラルダ侯爵を殺害した理由ですが”市街地に監視カメラを設置するのを、阻止したいから”……全くもって理解できません。カメラの設置を許可するかどうかの権限など、調査機関の長官にはないのですから」


「この者は嫌っていたという証言がある!」


 国王が叫び出した。脳みそないのか? それとも短期記憶領域が死んでるんか? 参事官が「このバカ!」って顔してる。


 「嫌っていた」が殺害理由だとしたら酷すぎて……なんだが、国王はこの程度のことが我慢できなくて、罰してきたんだろう。

 自分が”そう”だから、長官も同じだと思い込んじゃったんだろうな。自己紹介ってやつだな。


「エスカバーナ・カラブリア。発言を禁じます」

「裁判長」

「貴方は被害者遺族として、この場にいるのです。貴方に発言の許可を与えてはいません。次に口を開いたら、退廷です。覚えておきなさい、エスカバーナ・カラブリア」


 裁判長に言われて、国王は乱暴に椅子に腰を下ろした。その態度、全世界に流れてるけど大丈夫?

 完全に見下されてるけど、いいのか? いいんだろうな。


「中断させてすみませんでした。続けてください、ファンタズマ氏」


 裁判長の視線が。ゴミをみるような感じで笑う。思うところは、いろいろあるんだろうなー。あるよなー、まともな裁判官なら尚のこと。


「さようで。では話しを続けます。エルトハルト長官は……まあ、厳しくて融通がきかなくて、喋り方をもう少し優しくしたら、敵を作らないだろうに……でも、王侯ってこうなんだろうなー…………と、おおよその凡人が想像するそのものです」

「…………」

「ですが、おおよその凡愚の想像と唯一違うのは、長官は法を犯すことはありません。これだけは確かです」

「……」

「逮捕されたと聞いたときは、機関所員全員、驚きました。我々にとっては、王に届けられた怪文章よりも、長官に対して信頼があります」


 今だって長官、こっちを怒鳴りたくて仕方ないだろうが、法廷で勝手に口を開いてはいけないという法に則って我慢している。

 我慢できる子なんだな、長官。我慢してる姿、あんまり見たことなかったから、できないと思ってたよ。


「我々機関の職員の”おきもち”はこのくらいにして……こちらの怪文書としか呼べない密告文に、わたしも目を通しましたが、あまりにもいい加減すぎます。この密告文章を現実のものにするとしたら、ユセリラルダ侯爵がなによりも嫌った、証拠の捏造や自白の強要を使わなければなりません。亡くなられた侯爵が、そのような方法で事件を解決して喜ばれるとお思いですか? ああ、喜ばせるようなことはしたくないからですか。それなら分かる」


 大きな音を立ててカラブリア国王が立ち上がった。

 口を開きかけたが娘婿――ようするに、侯爵の元婚約者で、卒業パーティーで「真実の愛に目覚めたから、公衆の面前で異母妹をいじめていたお前の罪を暴露して、お前と婚約破棄して、国外追放だって宣言する! 異論は認めない! 越権行為なんて関係ない、だって真実の愛だから!」した、元公爵家の御令息が必死に抑えこんでいる。


 異母妹とこいつは結婚したよ。結婚するしか、道は残っていなかったからね。それにしてもあの台詞、乗りに乗っている馬鹿というのは、本当に乗りに乗るんだな。なにに乗ってるのかは知らないが。


 あれ、素面だったんだろうか? 飲酒とかやばいお薬とか、やってないと無理だろ、あんなの。それとも自己陶酔? あそこまで酔えるのか、自分に。やばい薬してたほうが、ましなレベルだ。


「…………」


 裁判長とその両側に広がる左右五名ずつの裁判官と共に、国王が座るのを待つ。どんだけ短気なんだよ。

 娘を失って悲しみに囚われている?

 あんだけ冷遇したのに? ユセリラルダ侯爵の母親とは政略結婚だからって、母子ともども貧民以下の生活をおくらせて、母親が栄養失調で死んで――侯爵よりは魔力はあったが、食事を一切与えられず、なかば監禁状態だったので、母親である王妃はその魔力を幼い侯爵に与えたことにより栄養失調になって死亡したのさ。

 母親の死後、侯爵は栄養失調になったけど――ここで前世の記憶を取り戻して回避したという、冷遇程度の表現では、到底追いつかない扱いしてたのに?


 後悔した? 反省した? それを表現したいなら、黙って座るべきだろう――でも確かに国王は好き嫌いで人殺すな。うん、そう考えると怪文書を信じるのも分かる。


「動物が騒いで申し訳ありませんでした、ファンタズマ氏」

「いえいえ。躾がなっていない動物なら、しかたありません」


 また国王が立ち上がりかけたが、彼の愛しの家族総出で止めてる。そして長官のあきれ顔……からの、こっち見た。


 瞳が「煽るの止めろ」って言ってる。はいはい、わかりました、長官。でも、煽りに乗らなければいいだけのことなんですよ。


「では続けてください、ファンタズマ氏」

「はい。裁判長、まずは大法廷を閉鎖してください」

「閉鎖とは、大法廷の出入りを禁止することですが、それで間違いありませんか?」

「はい」

「エルトハルト氏の疑いを晴らすために必要なことなのですか?」

「はい。こらえ性のないジジイ……ではなく、ユセリラルダ侯爵の不肖の父親を納得させる証拠を提示するためには、大法廷の閉鎖が必要なのです」

「分かりました。では”閉鎖”いたします」


 裁判()は法廷を開廷、閉廷させるほかに、閉鎖することができる。閉鎖というのは、誰も外へと出さず立ち入ることも許さず、新たな証拠の持ち込みも、証拠の持ち出しもできない。

 謂わば「ここにあるだけ」で勝負する――もちろん、例外はあるけれど。


「ありがとうございます、裁判長」


 わたしが欲しいのは、人の動きを制御することなので、これでよし。これで侯爵殺害犯は逃げられないぞ。


「わたしたち機関は、長官であるラッカンネー・エルトハルトの無罪を主張し、ここに証拠を提示いたします」

「分かりました。どうぞ」

「映像に犯人が映っていない、殺害方法は魔石と魔力を合わせた爆発。殺害方法は殺人犯が、自分の魔力を誤魔化すためによく使う手段。そして映像に犯人が映っていないのは、通路ではなく窓から入り込んだから……と、怪文章にありました」

「わたくしも目を通しましたが、そのように書かれていました」


 怪文章の複製はもちろん裁判所に提出している。

 大変だろうなあ、裁判官たち。たった五日で、怪文章と長官を無罪にするために持ち込んだ、大量の証拠品に目を通さなけりゃならないんだから。


 証拠品というのは、基本後出しできなくて、最低でも裁判開始五時間前までに提出を終えていなくてはいけない。

 それを裁判官が精査するのだ。精査といっても、最後の方は「危険物ではないかどうか」の確認レベルだけど。


 だから機関は時間ぎりぎりまで、大量の証拠を持ち込む。


 いやがらせでもなんでもなく、ぎりぎりまで証拠を積みたいんで。とくに今回のように「有罪」ではなく「無罪」を証明するためには、証拠はいくらあってもいい。


「事件当日、現場に最初に駆けつけたのは、わたしでした。そして窓硝子の破片を確認しましたが、外側に落ちていました。要するに内側からの爆発です。証拠品1を御覧ください」

「証拠品1の資料確認しました。内側からの爆発と、裁判所も判断いたします」

「ありがとうございます。ここで”空を飛ぶ”に関して、多くの人が理解していないと思われるので、実演込みで説明させていただきたい」


 カラブリア国王が空を飛べるのは! と騒いでいたが、バビロンのクラン所属団員なら、ほぼ全員飛べるからな。バベルの塔、階層によってはフロアに足をつけていられないところ、普通にあるからな。


「裁判に関係はあるのですか?」

「あります。ゆえに上昇と降下魔法の使用許可を」

「許可しましょう」

 

 事前申請からの裁判長から許可をもらい、


「機関の調査員の多くは、宙に浮くことが出来ます……このように」


 ”ふわり”と浮いてみせる。


「調査員には上級と下級があります。いろいろな基準で分けられているのですが、その一つに魔石を持って上昇と降下ができないというものがあります。実演者アートス」

「はい」


 調査員のアートスには、あらかじめ何をするかは伝えている。


「彼は機関に入庁したての、将来有望な下級調査員です。彼は浮遊と下降ができます。お見せしたいのですが、よろしいですか」

「調査に必要なことですか?」

「はい、必要です」

「わかりました。許可します」


 アートスに指示を送ると、まっすぐな綺麗な上昇と下降を見せた。


「彼は難なくこなしました。ただこれは、入庁に必要な最低基準でして、上級に上がるためには、これを持って上昇と下降をこなせるようにならなければなりません」


 指先で合図を送ると、シンプルなデザインのキャリーケースが運ばれてくる。大きさでいうと、3~4泊旅行に用いるくらいのキャリーケースだ。


「それはなんですか?」

「証拠品2。魔石が詰まった車輪がついた箱です。それも、ユセリラルダ侯爵殺害現場を念入りに調査した結果に割り出した、魔石の量と質と容れ物を、ほぼ忠実に再現したものです」


 爆発の規模と、魔力の残滓、侯爵の邸の素材と、死体の状況から割り出したものだ。これに間違いはないだろう。間違ってたら、わたしの証言が覆……らないけど、合ってると信じてる!


「魔力紋を誤魔化すために使用した物を、再現した品ということですね」

「はい。さすがに魔石の数と大きさまでは割り出せませんでしたが、量と質の再現には自信があります。裁判長ならお分かりでしょうが、爆発の規模と破損状況から割り出しました」

「分かりました。それをどうするつもりですか?」

「今から下級調査員のアートスに、これを持って上昇してもらいます」

「わかりました。では、どうぞアートス捜査員」


 アートスは両手で把手を掴み、深呼吸をして上昇……しようとして、斜めになって飛んでった。

 オルタナが捕まえて傍聴席に突っ込むことは避けられたけど。


「箱から魔力が放出され、浮遊魔法を阻害しているのです。上昇や降下は、繊細な技術を要するため、他の魔力があると出来なくなることが多い。訓練すればできるようになりますが」


 多数の魔石で魔力の跡を消せるということは、当然阻害もあるんだ。魔力が抜きん出て強ければ、問題ないけど。


「その為の実演だったのですね。分かりました」


 裁判長クラスだと、魔力は相当なので「浮遊できない」ということを、知っていても、理解しきれていない可能性があるので、あえて実演させてもらった。


「ちなみに魔石を入れる箱を、魔力遮断素材にすれば……と思われるかもしれませんが、遮断は遮断で魔力に影響を与えてくるので、先ほどと似たような状況になります」

「分かりました」

「現場に残った痕跡から、魔石は遮断素材を使用した箱に入れられていたことが、分かりました」

「慣れていなければ、上昇できない……ということですか?」

「そうです。余談にはなりますが、冒険者になるには、魔石から出される魔力に阻害されないよう訓練するのが大事です。なにせ迷宮にある”お宝”のほとんどは、魔力を持っています。新人が大きな品を手に入れて、そのまま死ぬのは、これが原因のことも多い」


 初心者用マップ……不本意ながら「コスパのハザマ」と呼ばれている、危険回避用の地図を作った時に、初めて知ったんだけどね。

 初心者は宝箱を開けて、お宝を手に入れること自体が、トラップになるという。もちろん、自身の魔力で押さえ込めればいいんだけど。


「ちなみに長官ならば、魔力の遮断材を用いた箱もしくは、使用せず雑多な魔力が漏れ出している箱が側にあっても、なんなく上昇下降することができます」


 お前はエルトハルトさまの冤罪を晴らしに来たのではないのか? って視線向けないでくださいな、ルミルレットーバ主席秘書官。


 晴らすから、晴らすから。


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