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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第一章・とある転生者の死

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【02】

「いらっしゃいませ」


 もちろんカフェはオープンカフェ。

 日差しが好きなもんで。美白? それは魔力でどうとでもできるから。いや、日焼けしてもいいんだけど。


「本日の日替わりです」

「ありがとう」

「そういえば、この日替わりって、ユセリラルダ侯爵が始めたって聞いたんだけど」

「そうなんですよ」


 ランチタイムの日替わりメニュー……他の国では見ない形式。いままで違和感なく食ってたけど、やっぱりなあ。絶対転生者だよな。


 わたしは転生者だけど、そういうことはしなかった。それ以外のことは…………思い出させるな!


「侯爵さま、この辺りに食べに来るの?」

「先日いらっしゃいましたよ」

「そうなんだ。お話とかした?」

「わたし担当しなかったから。担当してたら、お話したんですけど」

「残念だね」

「そういえば、侯爵さま眼鏡をかけていらっしゃいました」

「眼鏡か。どんなの?」


 眼鏡はこの世界に元々あるから……侯爵ならコンタクトレンズを開発しそうなものだけど。

 魔力で身体強化できるわたしには、関係ないけどね。


「黒縁の”眼鏡”って感じの眼鏡だったけど、眼鏡の鎖がきらきらして、とっても素敵でした」

「へぇ」

「あ、呼ばれてる」

「話してくれてありがとう」


 給仕を見送って――キラキラした眼鏡チェーン? いままで聞いてた侯爵”らしく”ないな。

 侯爵は転生者、それも「前世は社畜OLで過労死した、ネット小説を読むor乙女ゲームアプリをプレイしていた、悪役令嬢に生まれ変わった人」だと、勝手にわたしが思っているのだけれど、その一つとして、やたらと派手なものを好まない傾向がある。


 ほら、転生者の人って、派手なもの嫌うじゃない。


 見た目が華やか過ぎるヤツを倦厭するというか。侯爵はメイクはナチュラル……ナチュラルメイクは、下手なメイクよりも手間かかるけど、それはここでは論じないが、とにかくメイクはナチュラルで、髪型も一本にまとめる程度。香水は薫る程度で、洋服も生地は上質だが派手さはない。アクセサリー類なんてほとんど付けない。


 そんな人が、少し離れた所からでも分かるほど、キラキラした眼鏡チェーン? 違和感あるなあ。


「エリニュスさま、こちらが領収書になります」

「ありがとう。いつも助かるよ」


 いつもの領収書を受け取る。

 外回り中の昼食を経費で落とせるのかって? 落とせるんだな、これが。領収書がないと駄目だけど。

 そして領収書が切れる店は、値段設定がお高め。それはそう、領収書を書ける人間を雇うのだから、人件費が高くつくのだ。


 識字率? 侯爵が教育改革をしているけれど、依然低めだよ。おそらく人口の七割強は文字は書けないな――庶民と貴族を混ぜての概算なんで、貴族だけ、庶民だけにするともっと下がる。


 とにかく識字率を上げるの、頑張ってください、侯爵。


「午後はどこを回ろうかな。あっちの通りのカフェのケーキセットもいいか」


 飲み物とケーキのセット料金も、発案は侯爵。彼女の紹介が経営しているカフェが、最初に始めたって情報。

 機関のみんなが教えてくれた。


「エリニュス、ちょっといいか」

「ゼブンズか、なんだ?」


 席を立とうと思ったら、カラブリア王国の冒険者ギルドの支配人(マスター)に声を掛けられ――この世界は冒険者ギルドがあるんだ。


 もちろん侯爵は、王宮を抜け出した冒険者としても活動していた。破滅回避型転生者ムーヴのお約束だな。


 ゼブンズの両脇にはギルドの職員が三名ほど付き従っている。ギルドの支配人ともなれば、お付きの人もいる。


 ほら、金持ってると思って襲われるから。ギルドの支配人が大金持ち歩くとか、普通は考えないけど、襲う奴らはなぜかそのように考えるんだ。


 領収書を切ってくれた給仕に手を振って挨拶をして、席を立った。


「いま、機関に仕事を頼みに行くところだったんだ」

「へえ」

「地方の小さな迷宮の支配人が、行方不明になってな」

「それはそれは大変だな」

「状況から迷宮支配人は死亡していると思われる」

「それはまあ、ご愁傷様で」

「指名で調査を依頼する予定でな」

「……あー」


 ”わたしか?” そう言う前に轟音が響き、そして空気が震える――


「魔石の爆発だ!」


 この独特の共鳴、魔石の爆発。


 浮遊し、この辺り一帯の建物よりも高い位置に出て、当たりを見回す。

 魔石の爆発は、火や煙などは出ないので、高い位置に出ても見つけづらい。

 だがわたしは専門家だから魔石の共鳴で、方角はすぐに分かる。


 あれ、侯爵の工房兼自宅じゃないか……事故……じゃない。この共鳴は、明確な殺意を持った連鎖爆発だ。


 同じく浮遊したゼブンズと顔を見合わせ、


「あれは侯爵の邸だよな」

「ああ、そうだ」

「ゼブンズ、わたしは現場確保に向かう。お前は機関に連絡を入れて、そのまま依頼してこい」


 長い前髪をかきあげ、爆破された侯爵の邸をみつめているゼブンズを放置して、地上に降りる。


「”身体強化”」


 体の機能を上げて、フォーロウ通りを東に駆け抜けて、左手の脇道に入る。その先に――


「ユセリラルダさま!」

「何があったの!」

「医者を呼べ!」


 通りに人が出て叫んでいる人家。塀の向こう側から、風車のブレードが規則正しく顔を出しては消えるを繰り返している。

 風車は壊れなかったらしい――壊れた日常と壊れていない日常が重なるのが、いかにも現場って感じだ。


「ここで爆発があったな」

「ああ! その制服は」

「機関第四室の主幹エリニュスだ。わたし以外の機関の者は?」


 あたりに気配を感じないから、わたしが一番乗りだろうな


「まだ誰も」

「ではわたしが、現場を確保する」

「爆発したのは、ユセリラルダさまの部屋なんだ! ユセリラルダさまを」

「もう一つ爆発があったよな?」

「裏口だが、そっちにはわたしたちが」

「近づくな! 証拠がなくなる……お前たちなら分かるだろう?」


 ユセリラルダ侯爵は、事件に携わっていたので、部下たちもそのくらいのことは分かるだろう。


「…………分かった。だがユセリラルダさまの安否を」


 それに関しては答えずに、敷地一帯と近隣にかかるくらいの大きさの結界を貼ってから敷地に入る。初めて訪れた邸だが、共鳴を辿れば侯爵の元へ……あ、裏口からも暴発の共鳴が。

 三基の巨大な風車の側を通り抜け――庭に砕け散った強化硝子が散らばっている。見上げると、窓が破壊され室内が丸見えになっている部屋があった。


「あー」


 上下左右全ての部屋の窓にヒビが入っている。

 わたしは建物に近づき、浮遊して事件現場を覗き込む。


「見る前から分かってたことだけど、あーあ」


 部屋には何一つ生体反応はなかった。

 死体があったのか?

 死体すらなかった。この爆発を無防備な状態で受けたら、そうなるだろうな。

 もともと魔力が低い人だし――転生者っぽいので、莫大な魔力を隠しているかも? と思っていたんだが、どうやらそうではなかったらしい。


「自動反撃の魔道具は、開発してなかった……もしくは、開発途中だったか。もしくは、魔道具の性能を越える爆発だったか」


 あったのは、爆撃を受けたかのような部屋に転がっている、キラキラとした眼鏡チェーンのついた、レンズが砕けた眼鏡だけ。


「これ、肉片探すの大変だな。侯爵は魔力が低いから……ん? なんか他にも魔力反応あるんだけど……もしかして、複数名殺害された?」


 室内だけに更に結界を張って、現場を厳重に保存した。



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