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【超超短編小説】ファッションモンスター

掲載日:2025/12/27

 豪奢な装飾の施された洋館を突き進む。

 勝手知ってる、と言うほどでは無いが多少の慣れがある。

 足が沈みそうなほどに毛足の長い赤絨毯を進み、黒檀の長扉に手を掛けた。

「いくぞ」

 勇者は自分に言い聞かせるように呟き、重たいそれを押し開けた。


 廊下から室内に続く赤絨毯の先は階段となっており、その最上段にひとりの男が立っている。

「てめぇを斃す為に……地獄のそこから舞い戻ったぜ!」

 勇者が男を指差すと、男は不敵な笑みを浮かべて笑い

「勇者よ、その着こなしでは私を……このファッションモンスターを倒すことはできない」

 ファッションモンスターは粋にキめたボルサリーノを摘んで傾げてそう言った。


「ぐわっ」

 そのツバが織りなす角度が生み出した圧倒的な美しさに勇者は打ちのめされた。

 ここぞとばかりにファッションモンスターが追い打ちをかける。

「前回の吊るし売りスーツは酷かったな、私も舐められたものだ」

「くっ……今回はきちんと仕立てたのに、何故だ!」

「まずはネクタイの色だな」

 ファッションモンスターが自身のネクタイを持ち上げた。



「なんだと?」

 勇者はファッションモンスターの言うことが分からず、遅効性の毒ダメージのようにじわじわと恥ずかしくなってきた。

「勇者よ、その仕立てを作る為に私をどれだけ待たせた?」

 ネクタイ……時間……はっ!まさか!

「あ……」

「そう!キサマはもはやフレッシュマンでは無い!いつまでも若々しくピンク色のネクタイなど絞めるんじゃない」

 華麗な先制のコンボ攻撃を決めたファッションモンスターが一歩踏み出す。



 ピカピカに磨き上げられた靴は今にも顔が写りそうだった。

「それに」

 ファッションモンスターが踏み出した足、そのズボンは裾が真っ直ぐ伸びている。

 まるで布が重力に引かれているようだ!

「貴様はベルトの色と靴の色も揃っていないどころか」

 まさか、裾に錘を入れているのか……?

「パンツと靴下の色も違うだろう」

 何故そんな事まで知っているのかはもとかく、勇者に向けて真っ直ぐ伸ばした指の爪は美しく磨き上げられていた。


「は、ハッタリだ!」

 勇者は自分のパンツと靴下が何色だったかも思い出せなかったが、たぶん色は揃っていないだろうと思って動揺した。

「来るぞ!構えろ!」

 勇者がパーティーに指示を出す。

 階段を降りるファッションモンスターの持ち上がったジャケットの下から、一直線になったシャツのボタンラインとベルトのバックル、そしてスラックスのチャックが見事な中心線を構成しているのが見えた。

 う、美しい着こなしだ……しかし!

「うおおっ」

 勇者が投げつけた領収書はファッションモンスターのカフスボタンに弾かれた。

 更に何か投げようとポケットに入れた両手を、ファッションモンスターのタイピンとマネークリップが貫く。


「ぐっ……」

 膝をつきかけた勇者だったが、すんでのところで堪えた。

 ファッションモンスターは高笑いをして

「膝を付かなかった事は認めてやろう、折角の仕立てが汚れてしまうからな」

 というとジャケットの汚れを手で払う仕草をした。



 その時だった。

「ファイヤーボール!」

 魔術師の杖から巨大な火の玉が飛び、ファッションモンスターは炎に包まれると呆気なく膝を付いて斃れた。

「おい、何してんだ。行くぞ」

 勇者は魔術師に回復魔法すらかけて貰えず、拳法家には白い目で見られる始末だった。

「いや……アレをファッション対決で斃すと装備を貰えるから、次の街で売ると金になるって……」

 だが勇者の発言は誰も聞いていなかった。



 勇者は買い揃えたスーツを脱いで鋼の鎧を着込んだ。

 このスーツは次の街で売れるだろうか?

 装備を売り払われてほぼ全裸の魔術師を後ろから眺めながら、道中でできるだけモンスターを倒して稼いでおこうと思った。

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