6.こぢんまり
「それでしたら、私がご一緒しましょう」と体格の良い若い男が、沈黙の中、進み出た。
よく考えたら、こいつら、大神官イカロス以外名乗りもしないで会話をしている。
「きゅーきゅっきゅ(名を名乗れ!)」雄大の頭の上で大きな声を上げた俺に注目が集まるが、
「リス様にご賛同いただけましたか。さ、こちらへどうぞ、私が先に乗って引っ張り上げましょう」と話が進んでいった。
会話能力が切実に必要や。折角リスとはいえ肉体を得たんやしな。後でユリリーアスを呼び出さなあかんな。
馬でしばらく進むと、小さな町が現れた。牧歌的な町の中に、神殿が建っている。ここが聖教国ブルムスの中心に位置する最も重要な場所だそうだ。
「国っていうか、町っていうか、こぢんまりしていて可愛いですね」と、雄大は少し安心した声で感想を呟いた。
そりゃそうか。超庶民の雄大が、いきなり勇者だなんだと言われて煌びやかなお城なんかに連れて行かれたら、今より更に萎縮するだろう。
「ここは、そうですね、こぢんまりしてますね。この町と周りを囲む森を含めて大神殿の管轄になります。森の外側に王宮があって、聖教国ブルムスが治める土地が広がります。
北東にカシム国、南東にロードエ国、南西にクランジ国、そして、北西はダークスポットになっていて魔物が湧き、この国に侵入しようとしています。現在最前線は押しつ押されつと聞いています」
パカラパカラと馬に揺られてこの世界の事を聞いていたら、いきなり魔物の話になった。魔物が湧くダークスポットか。
雄大がその話を聞いて体を強張らせたのが分かった。
俺の雄大になんてものを押し付けるつもりや、この世界は!
頭をなでなでしてやる。
「リスさん。ちょっとくすぐったいよ」といって、優しく俺の方へ手を伸ばしてくる。
うわ~。この手は、すりすりしてもいいやつやろか!?
思い切って、指先にキッスでもしてみるか。合法やろ!?
「到着でございます」という声に雄大は、
「あ、はい。お手数おかけしました」姿勢を正して頭を下げた。当然手は俺を素通りしていった。タイミング悪っ!
大神殿の雄大専用の部屋に通された。5人の中で最も若そうな男が案内を務めて、部屋の説明をされる。
「そして、お着替えはこちらに。ユリリーアス神より、私の弟と同じサイズで一式そろえておくように言われましたが、確かに体格が同じようで、サイズもあっていると思います」とほほ笑んでいる。
「弟さんいらっしゃるんですね。あの、えっとお尋ねしていいのかどうかわからないのですが、風習とかしきたりとかあるなら無理にとは言いませんが、お名前は…?」
「弟の名前ですか?」
「いえ、あなたのお名前です……」
「!?!?なんてことを、我々、名乗ってすらおりませんでした!大変申し訳ございません」
大変なポンコツを早々に披露したことに気づいた男は、恐縮して、
「イジーと申します。大神官イカロスの孫で、16歳。勇者様の側仕えとして、置いていただきたいと思っております」と自己紹介した。