51.途轍もないもの
あまりの剣幕に一同は、フローズンシャーベットくらいに固まった。毎度のことなので、慣れつつあるのか、すぐにいつも通り話し出した。
「左様ですわね。勇者様、キオル様は勇者様絶対主義ですもの、心配なさるだけ損ですわ」
「そうだな。キオル様はペアになることすら、浮気になるかもとか思っていそうだ」
「父様、浮気っていいかたは少々浮ついていませんか。離別?別居?とか?」
好き勝手に言い始めた。
「俺は浮気なんてせえへんの!雄大一筋やの!でも、闇の精霊とペアを組んだら俺の神力を使わんくて済むようになって、溜まるし。そしたら、もっともっと雄大の役に立つなぁって思って。でも、闇の精霊、プーリっちゅう奴やねんけど、そいつがいつも一緒に居ることになるんやで。俺、そんなん耐えられるか分からへんくって」
俺の弱音を聞いた雄大は、ハッとして、俺に手を伸ばして、優しく掌に迎え入れてくれた。
「ごめんね。僕、自分のことばっかりで。キオルは僕のことを考えて、いろいろ我慢してくれようとしてたのに」
「雄大~~~!」
二人の世界に入った俺たちを、良く言えば微笑ましく、悪く言えば生暖かく数秒見守った、イカロス達は、とっとと自分たちだけで指輪の議論を始めた。
「指輪の件は神様から勇者様へのご褒美ということなんですよね?」とウーゾがイカロスに問う。
「うむむぅ。神様は、勇者様へではなく、『心の綺麗な者への褒美にと世界をめぐらせていた』とおっしゃっていた。たまたま勇者様が引き当てたと思っていいだろう。良いものを引き寄せるのも才能であろうかのう」
「重なりすぎて、無双ですね」
「その指輪をキオル様に譲られたら、キオル様が更に強くなるんですよね。闇の精霊とペアになったら、それもまた上乗せで」
「「……。」」
「途轍もないものが生まれようとしている気がします」
「「……。」」
「それは……、仕方ない。勇者様がお決めになることだ。指輪に関しては、アルス王子とジュードのメイル首席秘書官がご存じだ。メイル様には厨房の不始末で通そう。アルス王子には……」
「厨房の不始末でないことは自ら確認されているようですから、他の言い訳を考えるか、正直に話すかですわね」
「正直に話したらええんちゃうか?」
俺と雄大は話に合流した。
指輪は、雄大が『キオルの方が有意義に使えそうだしあげるね!』といって、サクッとくれた。しっぽに嵌めてくれた。
正式な持ち主が決まった瞬間、力がうねるように流れ込む一品だった。そして当然のようにサイズ自動可変。
めっちゃすげーな、これ。ユリリーアス、こんなん普通の人間に持たせたらあかん奴やで!やっぱ抜けとるわ、あいつ!
それはさておき、アルスや。
「あいつは雄大を守る盾になれそうな奴や。正直に話して、こっちの陣営にひっぱっといたらええ。まあ、そんな事せんでも、ユリリーアスが来て姿見せたんやったら、アンチ聖教会なんぞ、自然解体になるやろうけどな」
「確かに、キオル様のおっしゃる通りです。そのようにいたしましょう」とイカロスが受け合う。
イジーは神妙な顔で、
「神様は、皆に姿を見せてくださいました。でもなぜ今なのでしょうか。もっと、もっと早くにいらしてくだされば、おばあさまも、母様も、生きていらっしゃったかもしれないのに……」と吐露した。
「イジー、それ以上はいけないよ」イカロスは、優しくも厳しく言葉を止めた。
「まあ、神には神の縛りがあんねんで。一般人の前には出てきたくても出て行かれへん『この世界の決まり』ってのがあんねんやろ。今回はたぶん、自分の力の入った指輪が人の手に渡ったかなんかのタイミングやったから出てこられたんやろうな」
俺は、ユリリーアスの中二病炸裂の世界創造『最初のルール』を想像して適当にフォローしておいた。
この借りは大きいで!




