49.指輪
*****
僕は医務室で、治癒魔法を使える人に歯を治してもらった。ちょっとだけ欠けていたらしい。
よかった。永久歯大事!
治癒魔法が使える世界に医務室があるのを不思議がっていたら、血を大量に失った人の養生や、手足をくっつけたばかりの人がリハビリなんかに使うらしい。
それにしても指輪は誰のだったんだろう。今アルスが厨房に確認に行っている。
僕が持っていると白っぽく光っているように見えた気がしたんだけど、渡したとたんに普通のシルバーっぽい色になった不思議な指輪だ。
「雄大、指輪は厨房の者のうっかりではなかった。毎日仕事の前に指の爪のチェックを上長がしているらしいんだ。指輪をつけたままパン生地を練るなんてことは絶対にないと言われたよ。あえて入れるとしても、なぜだろう。毒でも尖った危険物でもないのに。あ、歯が欠けているから危険物か」とアルスは一人突っ込みをしながら説明してくれた。
そして、会話しながら指輪を受け取って屋外のお茶会会場に戻ったその時、上空に神様が現れた。
「イカロス、息災か。此度の協力関係の構築嬉しく思う」
「ユリリーアス様のご指示どおりでございます」と大神官様が来賓席から降りてきて膝まずいて答えた。
「雄大も活躍頼もしく見ていますよ。これからも励んでくださいね」と言ってニッコリ微笑む神様。
「あ、はい、がんばります」と返事をして、周りを見ると一同がひれ伏していた。大慌てで僕も同じ姿勢になった。
「雄大、顔をおあげ。指輪のお詫びをしたいと思ってきたんだよ。その指輪は私が心の綺麗な者へのご褒美にと世界にめぐらせていたものなんだ。君の所へ届くとは、喜ばしいことだが歯がかけてしまったとは驚いただろう、すまなかったね。それは、キオルが神力を溜める為に欲しがっていたが、君が使うといいよ。キオルに闇の精霊のペアが出来たら要らないだろうからね。フフフフフ」と、若干悪役のような笑みを残して去っていった。
「???」意味が分からなかった。
神様が去ると、皆それぞれに興奮した顔をして、大騒ぎになった。
大神官様曰く、『神様が神官以外の前に顕現されることはまずないこと』らしい。歴史の教科書に今日の事は乗るはずです。とまで言い切った。
ここには大神官様と僕しか神様の声が聞こえる人がいないので、いったい何のお告げがあったのかと、各国の王族に詰め寄られることになる。
大神官様は、僕に目で合図を送ってくる。察しの悪い僕でも分かる。この指輪の話はいつもの5人組で話し合いが必要なんだろう。ぎゅっと指輪を掌で握りしめて隠した。
「神様は、我ら人類『皆』が手を取り合って魔物と対峙することを非常に喜ばしく思っているとおおせでした。勇者様の目覚ましいご活躍をねぎらってもいらっしゃいました。私もこのように皆の前でお言葉を頂戴することになろうとは、感激いたしております」と大神官様は大げさに伝えた。
*****
プーリは黒のショートカットの髪の先をくるりと指に巻きつけながら赤い瞳をウルルンとさせている。これがきっと、決め顔なんだろう。
雄大の可愛さは神なので、こんなもので心は動かない。が、神力が溜められるのは非常に魅力的だ。
「ちょっとだけ、考えてもええか?俺も普段やったら即決即断の男やねんけどな。今回はちょっと考えたいねん」と言って保留にした。
言い訳までして、格好悪いな俺。でも浮気の定義を一晩じっくり検討したいんや!




