44.交流
関係者専用裏口からこっそりと大神殿に入ったが、壁を隔てていても分かる、騒々しさだ。
エンロは裏口を警備していた同僚に何事かと聞いている。
「それが、昨日から、「ジュードとの国交樹立反対!聖教会は魔王の手先だ!」と叫ぶ一派と、「神様は友和を求めている、その言葉を信じよう!聖教会を信じよう!」と叫ぶ一派が、ここへ集結して、双方一歩も引かない状況なのです」と弱り切った表情で説明してくれた。
「こちら側を信じてくれる人がいるのは頼もしいですね。アンチ側を追い出す手筈は?」
「それがですねエンロ様。双方武器を片手に、牽制しあっていて、こちらの言う事には全く耳を貸さないのです」
やっかいなこって。街中でもめ事を起こされるより数倍いいが。
それにしても、暗殺者を送り込んだり、教会を破壊して回っていた過激派はどこへ行った?武器を手にしているとはいえ、『大神殿でにらみ合う』なんてそれに比べると子供の遊びだ。
イカロスがやってきて、一行を応接室に通す。
緊張感のある空気の中で、ミッテ王と初めましての挨拶をした。だが、その最中も、
「魔王は世界を牛耳る気だ!」とかいう声が響いてきている。
「大変申し訳ございません。我らが神、ユリリーアス様はジュード王国とも手を携えて共に魔物を減らすようにと厳命されました。その命をただただ叶えようと奔走しておりますが、このような現状でして……」
イカロスのいたたまれない風情が哀れだ。話の分かる男ミッテも、馬車の中で何度も状況を聞かされていたので同情している。
エンロの神官長補佐としての役割か、ただの心配性のおかん気質か知れないが、役にたったと言えるだろう。
「状況は伺っています。我がジュード王国は他国と交流もなく、肌の色も違う。それ自体が異質と認定されても仕方がないのでしょう。ですが、不思議な事に、言葉は通じるし、宗教も同一です。太古の世界ではダークスポットはなく、交流があった証拠なのかもしれません」
言葉を切って、一同を見まわし、遠くで聞こえる喧噪を聞く。
励ますように、付いて来ていた光と闇の精霊たちが、周りを飛び回る。
この会見に同席したいつもの5人と雄大は、精霊の靄が見えるので、その靄の多さにミッテ王の姿が隠れてしまっているようだ。
雄大は、俺にだけ聞こえる小声で「うわっ、見えない」と呟くし、俺にとっては、精霊が「がんばれ~!」「しっかりね!」「言いたいことは全部言うのよ!」と子供の運動会の応援席かってくらい騒々しく聞こえるので、しんみりした話が入ってこない。
「お前ら、静かにしろ、ほんでもって、せめて後ろにおれや!前にくんなや!」とドスの聞いた声で言った。
自分とメイルにだけ見えないのは慣れっこになりつつあるミッテ王は、それを察して、「いつも側にいてくれてありがとう」と見えない空間に向かってだが感謝を表している。
その姿を見ただけで、イカロス達は安心している。まともな、優しい王と交渉できるということは、大変な喜びだろう。
「改めまして。我らジュード王国は、神が遣わせてくださった勇者様と共に、魔物を減らすための一翼を担わせていただきたいと思います。そして、行き来があったであろう太古の時代のように交流が出来ることを楽しみにしています」とミッテ王は締めくくった。




