43.首席秘書官
エンロは38歳、燃えるような赤毛を清潔感のある短髪に整えている。優しそうな茶色の瞳に、大柄な体。
雄大曰く、格好いいのに、くまのぬいぐるみのような安心感のある大人の男って感じ。だそうだ。モテ要素たっぷりだが、神官長の補佐をこの年で担っているくらいだから、仕事中毒のやばいやつで婚期を逃したに違いないと思って聞いてみると、
「何度かいい縁があったのですが、聖教会関連の悲惨な事件が多発しまして、僕と同年代かそれより若い神官は、独り身が多いですかねぇ」と寂しそうに言われてしまった。
本来聖教会は、ユリリーアスを中心に祭り、左に光の精霊のシンボル、右に闇の精霊のシンボルを祭っている。しかし、他国の聖教会では、規模の大小を問わず、闇のシンボルは、『神がこのような暗いおどろおどろしいものを眷属とするはずがない!』と信じられ破壊されていったようだ。勿論それに抵抗した神官たちは、襲撃された。
それに耐えて頑張っていた神官たちも、アンチジュードの台頭で、聖教会自体が『神の意を捻じ曲げて伝えている極悪集団』のレッテルを貼られ、一般庶民にまで敵意を向けられるとどうしようもなかった。
命の危険があるときは大神殿に帰還せよ、という規定の通り帰って来た。
「この規定が使われることになるとは……」と皆が皆、悄然としていて、とても結婚だなんだと言っている場合ではなかったようだ。
おかしなことを信じる圧倒的多数の一般人ほどやっかいなものはない。これに対抗するには奇跡が必要だ。雄大はまさに奇跡の塊だ。もう神でいいと思う。
雄大教をつくって、俺が、教皇とか、ええな~。響きが最高や~。「雄大教、教皇キオルである!」ドドーン!と登場!ええわ~。
とか考えながらニヤついていると、雄大に、
「もう!キオルもちゃんと考えてる!?メイルの肩書だよ!」と叱られて、ほっぺをミヨ~ンとされてしまった。これはこれで、ご褒美。
結局メイルの肩書は、『首席秘書官』に決定した。
近衛や大将という肩書は軍事的で、初外交の場には物騒だし、侍従では内内のことしか出来ない印象だし、大臣を名のらせるのは帰国したときに揉める予感しかしない。
参謀も有力候補だったが、「自分に付けると王を操る影のボス的要素が強くなりすぎる」と、自らで却下。
どんな自覚があんねん!
そして、頭をひねって、側近と秘書と執事の三択。
俺としては、ど~でもええ!と思ったが、執事と聞くと雄大がテンションを上げるので、執事は却下や。
側近と秘書。ほんま、どっちでもええ。
ま、でも最終的には、秘書に箔付で首席とつけて、体裁は整ったし、公式行事にも側に控えておかしくない肩書で、うまく収まったように思う。
雄大は、「なんか、格好いいね~。僕もなんか、格好いい肩書が貰えるような大人になりたいな~」と呟いている。
馬車の中の全員が、「すでに勇者という最も輝かしい肩書があるのでは??」と心の中で突っ込んだはずだ。
この子天然なんです~。すんません。
突っ込まない配慮のある優しい大人たちに囲まれて、和やかな馬車旅である。
三日後、大神殿へ到着した一行は、和やかとは正反対のピリピリした雰囲気に驚くことになる。




