41.応接室
「僕の聖魔法水、沢山樽詰めしたけど、効果、いつまでもつか気になるね。向こうの国境の堀もどうなっているんだろう。普通の水堀になってたら危険だし、早く戻りたいね」と不安がる雄大をよそに、ジュード王国の初外交は波乱含みだ。
今もキーキーと叫ぶ王妃の声が聞こえてきている。
「ま、聖魔法で最初に浄化した土地は魔物の南進にも避けられた程の効果があったんやし、ひと月は余裕やと思ってええやろ」
「でも、僕の魔法で直接浄化したものと、水堀の水に数パーセントだけ混ぜた魔法が同じ効果をもたらすとも思えなくない?」
「ま~、確かにそうやなぁ。少なくともここの樽は純度百パーにしたんやし大丈夫やろ」
そんな会話をしながら待っているとミッテ王が入って来た。
「あ、ミッテ王!」と雄大が嬉しそうに迎えた。すっかりなついてしまった。
ジュード王様と呼んでいた雄大だが、国王本人が、
「私は、国交のない国の王ですので、ジュード王と呼ばれるのは違和感しかありません。出来れば勇者さま方には『ミッテ』と呼んでいただきたい」と言い出したのだ。
困った雄大は、王と二人で、
「ミッテ国王様?」「いやミッテで!」
「ミッテ陛下?」「いやミッテで!」という、もはや様式美さえ感じるやり取りを経て、『ミッテ王』に落ち着いた。
まだ、43歳、ガタイのいい大男のミッテ王だが、雄大を見る目は孫を見るジジイのようだ。かわいいもの好きなのかもしれない。実際、トリート王子の母親は、寵姫トッティという二つ名で呼ばれているのだが、可愛らしい人だった。
トリートが自分は妾腹だと卑下したように、この寵姫というポジションは公式なものではなく、非常に曖昧な立場のようだ。
ここの人物相関図を考えると、トリートが王妃に目の敵にされるのも分かる。
閑話休題。ミッテ王は、国王代理は大賢者に任せたという。
妥当な判断だろう。だが、王妃や王子は、となると次は、同行者の一員に混ぜろと言い出したそうだ。
「何人くらいまでなら、同行しても迷惑にならないのでしょうか?」と聞いてくる。
「はあ?なにゆうとんねん。俺が!!この俺が、雄大のついでにお前も守ってやるよって話なんやで!さらにお荷物増やす気か?」と低音ですごんだ。
「……。」目を見開いて凍り付いたミッテ王。
それを見た、王についてきていた精霊たちが、一斉に話し出す。
「あ~、これは、優しい聖女のような勇者様にくっついている、かわいい超絶猫かぶりの子リスが、急に不思議な方言で、ガラ悪くまくしたてる状況に、混乱して固まっているんだね」
「そうね、きっと」
「今のちょっと格好良かったね。はあ?なにゆうとんねんって言い方とか、練習してみようかな」
「精霊ってヤンキーって思われちゃうかしら?」
「うるさいわ!!!」と一喝した俺に、精霊の靄も見えない、声も聞こえない王は、ビクッと震え上がった。
雄大やエンロは靄が見えるので、会話しているんだろうなぁ~うるさいくらいしゃべりかけられているんだ~と微笑ましく見ているだけだ。
それにしてもうるさい。光の精霊王が、しゃべると止まらないケイティだというのだから、光は想像がついたが、闇の精霊までうるさい。ここは寡黙な影を背負った設定であって欲しかった。




