4.はじめまして
早速雄大の前で、はじめましての挨拶だ。
緊張する。前の世界でも言葉を交わしたことはなかった。
雄大が「今日もいい日になりますように」と祈るのを聞いて、
「任せといてや~!」と、聞こえないのは分かっていても返事をしていたのを会話にカウントしていいなら、俺たちはもうマブダチレベルだが。
まあ、そんなことは置いておいて、最初が肝心だ。
「きゅーきゅーーきゅきゅ!?」
なんでや!?話せへん!
「なに?リス?シマリス?可愛い。でも、この世界のリスは人食いモンスターだったとかって落ちはないよねぇ?」雄大は体長10センチほどのリスの俺にビビっている。
失敗か?肉体をゲットしたのに、リスだから話せないのか?精霊だから話せないのか?俺の力不足で話せないのか?情報が無さ過ぎて雄大のフォローをしたいのに、俺自身が途方に暮れそうだ。
あの自己中な神は手を抜きすぎや!
「きゅ~~~」がっくりする俺に、
「あ、なんか、寂しそうかも?こっちに来る?」と手を差し伸べてくれる雄大。神!神々しい!ユリリーアスに爪の垢を送りつけたい。
俺はこのチャンスを逃さず、雄大の指先から肩に一目散に駆け上がった。小動物のペットのポジションってば、頭の上か肩の上に相場は決まっているからだ。
雄大の息遣いのすぐそば!暖かい首筋、軽く癖のある柔らかい髪が俺のしっぽに触れる。
「きゅーーきゅーーー(ここは天国かぁ~~~)」と叫んだ。
「おお、人懐っこいね。一人で寂しかったし、お迎えの人が来るはずだから、それまで一緒に居てくれる?」と首をひねってこっちを見ながら話しかけられた。
至近距離の推し。やばい、鼻血案件。ワーニング!
ぶっ飛びそうになっている俺を優しく掌に移動させて、正面からのぞき込まれる。
やばい、殺しにかかっている。俺はもはや瀕死だ。幸せで死ぬ。
「あ、大人しくなった。一緒にいてくれるのかな?君も一人ボッチ?お父さんとかお母さんとはぐれたのかな?」
優しい、無限に優しい。泣きそう。
このリスは恐らく鳥に捕まったんだろう。爪から逃れて落下して死にかけたところで俺に乗っ取られた不運なリス。俺が代わりに、この体で幸せに生き抜いてやるからな!
「あ!もういらっしゃる」
「なんだと!お待たせしてしまったのか」という声と共に、ザ神官って感じの服を着た男女5人が馬に乗ってやってきた。
雄大の前でひざまずき、
「お初にお目にかかります。私は聖教会で大神官を務めております、イカロスと申します。ユリリーアス神の命によりお迎えに参上いたしました」
「……」固まってしまった雄大の掌から肩に移動して、耳たぶをちょっと引っ張る。
「あ!」復活した雄大は一気に、
「あの、僕、山内雄大といいます。死んだ、生き返った、異世界だ、勇者だ、戦え、くらいの情報しかもらってなくて、どうしたらいいか全く分かりません」と、かわいらしい声で愚痴を爆発させた。
うん。ユリリーアスが、全部悪い。
状況把握したら、俺が雄大の力になれるように頑張るからな!