39.ジュード王国
そしてなんやかんやと話し合った末、俺たちはトリート王子一行をジュード王国まで送っていくことになった。
ダークスポットの非常事態という事でなにかと色々うやむやになっているので、ちゃちゃっと行って、ちゃちゃっと王様を連れて帰ってこようという作戦だ。なんせ雄大がいれば魔物の脅威はないのだから、最も早く、安全だ。
だが、今回、聖教会の代表という立場に立ってしまったエンロは頭を抱えて、
「せめて、ウーゾ様がいらしてくださっていれば……」と唸っている。
国の宝!と言って過言ではない雄大を、国交のない国におつかいに出すなんて、よほどの準備と根回しが必要だろうとは思うが、出発してしまった後ではなすすべは無いはず。
そもそも、この世界の宝ですから!雄大は!俺の宝でもあるけど!
というわけで、エンロの後ろに雄大が乗ってパカラパカラと揺られている。進行方向一帯には、ジュードの水魔法の使い手によって霧がかけられていて視界は悪い。
雄大は霧に所々水の聖魔法を打っていく。それによって、聖魔法はみるみる拡散していくが、雄大の疲労は最小限に抑えられる。
高台の見張り台にいるものは、雄大の通った道筋だけが、光輝いて見えた。その様子を「奇跡だ」と叫びながら見つめて涙を流していた。
安全にダークスポットを進んでいる一行もまた、「奇跡だ」と大騒ぎしていた。「追い払えはしても倒すことの出来なかった敵が!」と雄たけびをあげている。
雄大は首をかしげながら、
「でも、魔物って僕がくる前から倒せてたんじゃないの?」とエンロに聞いている。
「我らは、攻撃して『倒す』と言っていますが、実際には致死ダメージを受けた魔物は黒い粒子になって空に漂ってダークスポットへ帰っていきます。ですから、発動は運次第といえども、聖魔法を使って滅していきたいという思いがあったわけです。そうすれば黒い粒子が蒸発するように消えていきますから。勇者様が惜しみなく使ってくださる聖魔法は本当に奇跡の魔法なんですよ」
エンロの返答を受けて、雄大は自分の手をグーパーして見ている。実感はわいていないようだ。そういう所、天使かっ!
「その話を聞くと、ジュードの言葉では、こっちの『倒す』が『追い払う』で、『滅する』が『倒す、滅する』って感じやな。方言みたいなもんかいな」
「そうですかね。そもそも、交流もないのに言葉が通じているだけでも驚きです」
獣も住めない魔物だらけのダークスポットで、雄大という魔物に一人勝ちする人材がいると、驚くほど安全に野営ができるものだ。翌日にはジュードの造っている頑丈な壁が見えて来た。
「うわー。凄い!こんなに大きいんだ!」と素直に表現した雄大に、ジュードの一行は誇らしげにほほ笑んだ。
トリートの案内で王宮に入場するが、応接室で大いに待たされたと思ったら、アホそうな、兄弟たちが入って来た。
「お前が勇者か?トリートと懇意にするなど、愚かなことだ。我の配下につくように」
「兄上、軍事のことでしたら、私の管轄です。私の配下に入らせます」
「兄さまがた、母様は私の婿にとおっしゃっていましたわ。そうなれば、配下ではなく弟になるのでは?」
と、好き勝手に言っている。
トリートは自分は妾腹だといっていた。この兄弟たちの横柄さを見ると、こっちは本妻、王妃の子どもたちってことだろう。
俺の推しを『配下』って言った?脳みそ洗って出直してこいや!




