32.ロードエ国
最後は、ソフィ第二王妃の実家の国、ロードエだ。
実際には、この世界にはもう一つジュード王国があるが、国交がないので、招待しようも出来ない状況だ。ユリリーアスの望み通りにしようと、聖教会とブルムス聖教国が矢面に立って、アンチジュード勢力(神が魔王であるジュードと仲良くしろなんていう訳ないと信じる勢力)を抑え込もうとしていたが、実際は聖教会側がボロボロになっただけという悲しい結果だ。
宗教って、元神の俺から見ても、難儀なもんやしなぁ。
狂信的な者は神ですら、コントロールが難しい。とんでも解釈をして突っ走っていってしまうものが多いからだ。
そこら辺、日本はあまり極端に走らず、それ祀っちゃうんだ!と驚くことがあったり、害はないので放置されているアイテムとかもある。神界会議では毎回ネタにされているが、微笑ましいものだ。
閑話休題。ロードエは流石に娘が第二王妃だけあって、この国の内部情報は豊富だ。ソフィがアホなくらいホイホイと悪気なく情報を漏らすと分かってからは、情報はコントロールされているらしいが、それ以外の情報は筒抜けだと思っていい。
先ほど入ったケイティからのスパイ情報によれば、ソフィは、ロードエの控室で、『勇者は魔物を滅せられるし、そのパートナーの精霊はとにかく強いのよ!必ず、娘のシシリーを勇者の嫁に!』と張り切っていたそうだ。
それを受けてロードエ王も『シシリーは結婚したらロードエで引き取ろう。第一王女のブリジットと反りが合わないようだしちょうどよかろう。これで、勇者、精霊の二人を迎えて我が国は安泰だ』とご機嫌だったらしい。
捕らぬ狸の皮算用という言葉を贈ろう。
謁見が始まるとすぐ、あからさまに、雄大とシシリーの婚約をまとめようとし始めるロードエ王に一同は唖然とした。
雄大は隣で固くなっている。言うべき時に言うべきことを言う胆力と、現代っ子ならではの怖いものしらずで、サクッと要点から詰めるような合理性を持つ雄大にも、同年代の女性との婚約話を、面と向かって即座に『無理です』とは言い辛いのだろうか。いや、雄大なら、もう少し待てば『僕にはちょっと荷が重いので遠慮します』とか言いそうか?
ロードエ王の話がひと段落ついた時には、ラーニア第一王妃が握りしめる扇子のミシッという音が響く程、室内は静まり返っていた。
ソフィ以外は皆、俺の朝の『雄大に手を出すことなかれ』という言葉を、先ほどのクランジ国への水攻めで実感を持って感じているだろう。
一番の情報を持てる立場にいるのに、伝達係がソフィでは、このような事になってしまう。残念なことだ。
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僕は固まってしまった。
あ~、これはキオルが、怒るやつだ。さっきの水攻め凄かったもん。今回はこの王様どうなるんだろう?
キオルが魔法を発動させる前に黙らせた方がいいのかな?でも、王様のお孫さんとは婚約しません!っていうの?孫がいる前で?
僕、告白とかですら、されたことないのに。本人から申し込まれてもない婚約を断るの?しかももう一人の当事者のシシリーはうつむいていて表情が見えないので、この話に乗り気なのかどうかすら分からない。ハードル高いよ。どうしよ~。
と、考えていると、
特大の竜巻が、ソフィを含むロードエ国一同を巻き上げ、窓を突き破って外へ放り出した。
治癒魔法のある世界なので、即死案件以外はあまり慌てない人が多いんだけど、今回ばかりは大騒動になっている。
キオル……。凄い。最強のリス、じゃなかった、光の精霊だね。
僕は、助かったと喜んでいいのか迷うような状況に置かれた。
頭の中はプチパニックだが、とりあえず、キオルを撫でて落ち着こう。
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