31.クランジ国
続いての国は、クランジ国だ。
雄大と一緒に学習した、この世界の一般常識によると、カシム国と並んでアンチジュード、アンチ聖教会がはびこる場所だ。
ただ、この国は脳筋集団だと言われている。情報戦に長けたカシムとは全く異なる。味方であっても暴走が始まると収拾がつかなくなるほどの脳筋らしい。
なんとも、うざそうな事前情報に違わず、異様に大きな声で話す、筋肉もりもりの暑苦しい集団が入室してきた。
「うわぁ~すごい筋肉」と雄大が思わず小さな声を漏らすほどのモリモリっぷりだ。細かい動きをするのに支障がでそうなほどだ。
雄大は自分が細っこくって小さいことを気にしているので、少々憧れの目を向けているが、絶対に似合わないと思う。ファンの俺が、推しの好悪に口を出すのはご法度だろうが……。
ちょっとなら、ええんやで、でも、あそこまでは止めといて欲しい。
「これはこれは勇者様!神から遣わされた勇者様ともなれば、さぞやお強いのでしょうな!我らとお手合わせ願えませんか!」
王族同士の定型文的な挨拶が済んだ後の第一声がこれだった。雄大は驚いている。雄大の生育過程を考えると、対人戦をするなんて生まれこのかた考えたこともないだろう。
この世界に来てからも、楽しそうに『ウォーターカッター』と言いながら水を発射するも全て聖魔法に変わる雄大の魔法では、魔物以外、何一つ制圧できないのだ。
「あの、せっかくですが、ぼ、僕、いえ、私は……」
先ほどから何度となく私と言おうとして僕と言ってしまって、言い直している雄大が愛おしい。
ずっと言い直してて欲しいくらいや。成長しようとする雄大の足を引っ張ってはいけないと自重する、俺。褒めて欲しい。
「私は、魔物を滅する専門で、戦えないんです。ですから、手合わせなんかは無理なんです。すみません」
あ~。また謝ってもうた。謝ることなんてなんもあらへんのに!
クランジ国の一同はあからさまに馬鹿にしたような表情を浮かべた。戦えないものは格下という単純さに反吐がでる。
重要なのは『神使』だってこと。それが、あの小さい脳みそには刻み込めなかったのか?
「神が弱きものを遣わすことなどあるのでしょうか?」
「魔物を滅すると言うのも眉唾では?」
「貧弱そうな何もできない少年に見えますが?」と、王族にくっついて来た金魚のフンにまで言われたい放題だ。情報戦に劣るとは聞いていたけれど、情報が来ないのか、来ても理解する頭がないのか。
俺は光の結界をサクッとそいつら一人一人の周りに作った。密封にして窒息と、水を流し込む水攻めとどっちがええやろ?
どちらも筋肉とは全く関係ない戦い方やで。楽しいやろ?
ビジュアル的にインパクトのある水攻めに決めた。ヒタヒタと水が溜まっていく。状況を理解したクランジ王が、ブルムス王に、
「同盟国にこのような事を仕掛けるとは何事か?戦争でも始める気か?」と怒鳴る。
「これは、我々でなく、光の精霊様が勇者様を馬鹿にされたのでお怒りなのだろうと思います」
ブルムス王は、今朝がた、リスの姿で仁王立ちになって、『雄大を悲しませることなかれ!雄大に手を出すことなかれ』と言われた事を思い出して悪寒がしたのか、自分自身の腕を寒そうに擦りながらそう告げた。
クランジ国の面々は水の中で気を失う瞬間、眩く光り、水が消え、浮力で浮いていた体がドサっと床に叩きつけられるのを感じただろう。
お仕置き完了やな。脳筋対処法は、圧倒的優位を早めに叩き込むことやで!
意識を取り戻したクランジ国の一同は俺の前にひざまづいて、忠誠を誓った。
いや、そんなん迷惑なんやけど。やりすぎやったか。
「ウーゾさんに怒られそうだね」と言って、ニッコリ笑う雄大。
雄大が笑ってくれるなら、もうなんでもええわ。




