30.カシム国
そしていざ謁見。
こちらの王族と相手の王族、大人数が一堂に会するので、謁見の間は、もはや大会議場、という設えになっていた。
最初の国はカシム国。さっきの今で、情報戦にたけた国と言われていても、流石に俺がしゃべれることは知るまいと思ったが、もう知っていた。入室と同時に始まる俺たちへのおべんちゃら。
雄大の付き添いとして同席したイカロスは、妻と嫁が殺された地域の王族というのもあって、まったくの無表情で、
「いまいましいほど、素早く情報がまわるものです。いまさら下手に出て、ご機嫌伺いとは」と感想を述べた。
俺は雄大の肩にのって、しゃべらずに様子見をしている。紹介されても軽くうなずくだけにとどめた。
雄大は、日本人気質丸出しで、ペコペコしていた。これは、後で、鷹揚に挨拶する練習が必要か。なめられてはいけない。とりあえず、耳元で、「ペコペコ禁止!」とささやくと、カチンコチンに固まってしまった。可愛い!
「それにしても、貴国はうらやましい限りですな。神使として勇者様を迎えた上に、そのパートナーとして会話ができる光の精霊様を得るとは!」とカシム王がブルムス聖教国の王、ブラッド・ブルムスに大声で話しかけている。
「我々の国はユリリーアス神とその橋渡しを務める大神官様の一族を、決してないがしろにしておりませんので、そのような奇跡をおそばで拝する栄誉をお与えくださったのでしょう」
ブルムス王はなかなか強烈なパンチをくりだしている。
「大神官様のご家族の件をあてこするのは止めていただきたい。我らも心を痛めております。ならず者の入国や襲撃を防げなかったことは既に謝罪が済んでおりますし」と言ってイカロスに目線を送るのは、王太子だという中年の息子だ。
無表情のイカロスだが、両手は固く組まれ、まるでそうしていないと殴りかかりそうなのを押しとどめているようだ。
隣に座る雄大も、心配そうにしていた、が、意を決して声を上げた。
「僕、いえ、私は、神様から、『この世界の魔物を、人類みなで協力して減らしていけ、と命じているので、その手伝いをせよ』と送られて来ました。ずっと、その神の言葉を伝え続けた大神官様が信じてもらえず、家族も殺されたと聞いて、なんて世界だ!って思いました。でも、ここに、僕や光の精霊キオルがいることは目に見えています。信じやすいはずです。どうか、大神官様の言葉に耳を傾けてください。辛い目にあっても、神の言葉を遂行しようとする人です。皆さんの協力をお願いします」
ペコリと頭を下げる雄大だが、天性の才能か、普段のオロオロした態度とは違って、ここぞというときの腹の座り具合は相当なものだ。
流石、俺の推し!まだ弱冠18歳なのに、ちょっとした宗教の教祖くらいには余裕でなれそうだ。俺は第一信者でヨロシクやで。
早速、第一信者(笑)の俺も協力しようと、雄大が頭を上げるタイミングで盛大に雄大を光らせた。
イカロスは雄大の演説を聞いて泣きそうだった顔を驚きに変えて俺を見たが、ウーゾは居ないので怒られないはず。
あいつは、目立ちすぎるとダメだってすぐに言う。
まあ、大神官の一族の者というだけで妻と母を殺されれば、不必要に目立たない方が安全だと思うのも無理はないが。
忘れられた神である俺が断言する。
目立たなアカン時ってのもあるもんや!




