3.乗っ取り
血まみれの痛々しい体は元の世界に返され、ユリリーアスお手製の新品な雄大の体だけが残された。
そして、虹色の綺麗な魂が、その体に吸い込まれていく。
あたりが真っ白に発光したかと思うと、静謐な森の中にいた。
雄大はその森に違和感なく設えられた祭壇に寝かされている。ユリリーアスは神々しく光っているままだ。
しばらく待つと、雄大が目を開く。
くりくりお目目可愛い。その眼で一番に俺の顔を見て欲しい!
がぁ~~~~~!なんで俺、体、ないねん!
「雄大君こんにちは。私はユリリーアス。事故で亡くなったあなたを、私の世界に招待しました。つきましては、勇者として、この世界にはびこる魔物を減らしていただきたいのです」
「えぇ?あのえっと、僕、死んじゃいました!?」
「そうです。残念ながら。しかし、あなたの魂は大変健全でしたので、我が世界にお越し願いました。あなたの世界の神たちも快く送り出してくださいましたよ。ぜひとも頑張ってくださいね」
「あの、僕……今はやりの異世界転移したってことですかね?」
「魂だけですが、そうです。体は私が創りました。頑丈にできているはずですのでご心配なく」
「は、はぁ。僕って、剣道も柔道も体育でかじったくらいで、お役に立てないと思いますけど……」
「全く、問題ありません。これから聖教会のものが迎えにくるでしょう。そこで訓練していただければ、聖魔法が使えるようになります。その魔法で戦ってください」
「ま、魔法。ファイヤーボール的な?」
「ファイヤーボールでもなんでも構いません。あなたが使えばそれが全て聖魔法となるでしょう。もう一つお願い事がありますが、この世界に落ち着いた頃合いでいいでしょう。それでは、その時に。ごきげんよう」と言って消えて行った。
「なんだ?なんなんだ?こんなところに取り残されてどうしろと?魔物いるって言ってたよ。怖すぎるから。うそでしょう?私の世界って言ってた。神様ってこと?」
パニックになってブツブツ言っている雄大に声をかけたが、俺の声は聞こえないようだ。ユリリーアスめ、俺の雄大を不安にさせやがって。いくらなんでも説明不足だ!
『あ~、伝え忘れました』念話でユリリーアスから声が届く。
『あなたのこの世界での名前はキオル。光の精霊キオルです』
名前を得て、存在が濃厚になった一瞬で、俺はその辺にいた死にかけのリスの体を乗っ取った。
光の精霊とやらの力でリスの死を回避させる。
光の精霊になにが出来るかとか、よく分からへんけど、気合や!ふんばれ俺!このままリスとして死んだら雄大と一緒におられへんで!
よし!成功や。体の乗っ取りなんて神の時はタブーやったけど、今、この世界やったらかまへんやろ。知らんけど。
これで雄大と一緒に過ごせるで!
『ストーカーさんって呼ばないように注意しますね』
楽し気な声がリスになった俺の頭の中に響く。
性格の悪そうな奴だとは思っていたが、思った倍、嫌な奴かもしれへん。
でも、雄大と一緒に居させてくれるから、喧嘩は売らへん。
でも、一言だけ「ストーカーちゃう!ファンなだけや!」