25.独白
『あの時、魂に紐づけて残しておいたのが、悪かったんか。両親との幸せの記憶とくっついてたし、消滅させるのはいつでも出来ると思ってたんやけど。お前のせいやで!』
『まあまあ、雄大も成長していますし大丈夫でしょう』
『根拠もなく大丈夫って、そんなん言うなや!』
『でもアルスには短時間ですっかり馴染んだようですし、悩み事も相談できそうな友達ゲットですかね』
はあ?相談する友達やって?
雄大の周りの大人は、雄大が記憶喪失になったことも、その原因の心の傷も知っているから、誰も突っ込んだ案件を雄大には持ってこない。親がそれとなくアンタッチャブルな空気を出すと、子供も察するもので、子供も同様だ。
そんな雄大は、おばあちゃんっ子ということもあって、親友と呼べる友達はいない。
そんな雄大のニコイチ。初めての親友ポジションに最も近づいた俺を差し置いて、アルスが相談窓口になるやって!?
ない、ない、ないわ。俺的には100パーないわ。
雄大が気疲れしてくたくたになってぐっすり眠っているだろう夜、皆も寝静まった頃、俺は雄大の寝室にこっそり入って寝顔を見ていた。
記憶が戻っているなら、うなされているかもしれないと、思ったのと、祖母殿が必死に祈った『笑って過ごす為に忘れさせてやってくれ』という声が脳裏にこだまする気がしたからだ。
すぴすぴと気持ちよさそうに寝ている姿に安心した。
今の俺では彼女の祈りを聞き届けてやれない。どうか、思い出さないでくれと、こちらが祈る気持ちだ。
たとえ思い出したとしても、頼れる祖母のいない雄大には親友が必要だろう。アルス、そのポジションをあいつに譲るのは嫌だが、話せない俺に出来ることは、少ない。我慢するしかない。
歯ぎしりする思いで、雄大を見つめていると、雄大と目が合った。
「キオル。眠れなかった?こっちにおいで」と、寝転んでいる顔の前に手を置いて、俺のベットにしてくれた。
は、は、鼻血案件勃発!とパニックになりながらも、掌におさまって、なんとか力を抜いた。
「キオル。僕ね、記憶喪失だったんだけど、こっちに来て徐々に両親のことを思い出しているって感じるんだ。とっても怖い、恐ろしい記憶。でね、お母さんの
『絶対に雄大は守るからね』って言いながら痛いぐらい抱きしめられたことも思い出したんだ。小さい頃の記憶だし、どこまで正確かもわからないし、本当は全然違う記憶かもしれないけど、おばあちゃんもいないし、答え合わせが出来ないからね。この温かいお母さんの記憶が本物って思いたい。それにね、おばあちゃんの
『神様、雄大の笑顔を守ってください。忘れさせてください』ってお祈りする言葉が夢の中で繰り返し聞こえるんだ。だからね、僕、幸せな記憶だけ大事にして、あとは忘れるというか、意識して反芻しないって決めたんだ」
俺は、雄大の逞しい心の成長を喜ぶとともに、今日のユリリーアスとの念話が筒抜けだったかのような独白に、心臓が飛び出る思いだ。
「きゅうきゅう~~。(雄大凄い、なんで~~)」
「僕ね、日本にいたときは、毎日公園に向かって、今日もいい日になりますようにってお祈りしてたんだよ。大昔に神様がいた山があった公園らしくて。なんだか気持ちのいい場所なんだ。キオルを見ているとその気持ちのいい場所の感じがするんだ。懐かしいって感じも。だから、僕の決意表明を聞いてもらっちゃった。光の精霊様にこんなことしちゃだめだったかな?」
ぶんぶんと、首がどうにかなるほど、横に振った。
「きゅうっきゅううきゅう!きゅうきゅきゅきゅぅぅぅ!(なんでも俺に言うてや!親友ポジション、大ウエルカム!)」
「うん?良いって言ってくれてる感じかな。ありがとう」
こっちこそ、ありがとうやで。雄大の成長と、優しさと、逞しさと、愛らしさと、温かさと、いいにおいと、全部、全部……ありがとう。涙、出てまうわ~!
『いいにおい、だけが、蛇足ですね』と言いながらも、安心した様子でこっそり見守るユリリーアスがいた。




