22.帰還前日
俺の最愛の推しを、そこらの駄犬の『お手』のような軽々しさでどうにかできると思っていると?最低最悪の女たちだ。
「だからね。雄大には、そう言うだけでいいとして、問題はライバルの方だってなっている訳。愛人がすでに何人もいるとか、子供を秘密裏に産んだ経験があるとか、敵国と繋がっているとか、山のような真偽不明の噂が流されているわよ~。お互いが部下を使って大っぴらにばら撒くもんだから、笑われていたけどね~」
「そんな奴らが雄大の嫁候補に名乗りを上げるやなんて、絶対に許されへん!!」
「でしょでしょ~。それより私が嫁の方が良いって思うわよね~。キオルのこと、お父さんって呼んだほうがいいかしら?」
「誰が、お父さんやねん!」
「お母さん?」
「そっちでもないわ!」
あかん、相手をしたら負けや。べたな笑いを拾っているほど、今の俺は優しくない!
「王は、そんな状況を放置しとるんか?」
「そうね~。どうやら、人を害する事はご法度だけど、それ以外は、娘だろうが自爆していても静観する様子ね~。変なところで肝が据わった王なのか、はた迷惑な親なのか。読めない人よ~」
あの王は……いろいろと策をめぐらしても上手くいかず、何も考えていなければ、それなりに上手くいくという、アンラッキーと超ラッキー、二つの星のもとに生まれていそうだ。
側近たちが俺と同じ印象を受けているのだとすれば、放置も悪い策ではないと、諫言されないのかもしれない。
「いずれにせよ、長子のアルス王子がめちゃくちゃまともだから、誰もなにも言わないわよね~。次代が安泰って、頼もしいわ~。ラーニア王妃も、アルスだけなら鼻高々で、第二王妃のソフィに嫌味を言われることもないのにさぁ~~~」
相変わらず、話が長い。延々と続く王室ゴシップにうんざりしてきたが、我慢して、セーブモードくらいのゆるさで話を聞き続けた。
明日から雄大が関わる人の名前が沢山出てくるからだ。
「~~~って、感じ!あとは~」
まだ続くのか?と顔をしかめたが、
「雄大の聖魔法の件があっという間に広がったわね!」という言葉を聞いて、脳を再起動させた。
「聖魔法の件!?もうか?今月担当の兵士が王都に帰還してから、じわじわ広まるような話になってたんちゃうの?」
「それがね、大物貴族の当主が亡くなって、葬儀の準備の為に、一族の者全員に帰還命令が出たんですって。それでそこの大勢が集まっている場所で、一気に広まったという事ね~。その情報を聞いた王女たちったら凄かったわよ。自分の伴侶が神の御業を使えますのよ!って感じの言いっぷり。馬鹿にして笑っていた者たちも、勇者様の妻になる王女はどちらだ?と目の色が変わったし~」
「最初から、ユリリーアスが連れて来た勇者だって知っていたはずやのに、今になってか?」
「そうね~。残念ながら、ここブルムス聖教国も、アンチジュードからの、アンチ聖教会という流れは防げていないもの。皆、疑心暗鬼で様子を見ていた感じだったのでしょうね~」
嫌な感じだ。俺だけの推しが、勇者勇者と持ち上げられるのも業腹だが……。
このままいけば、アンチ勢は間違いなく改心するものと、過激派に割れる。ターゲットは言わずもがな雄大だろう。




