21.精霊の王
雄大は兵士たちに聖魔法をかけていく。
「治療だから、水魔法ぶつける訳には行かないし、光とかかなぁ。パーって明るくすればいけるかなぁ」と一人でシュミレーションをしながら、試行錯誤している。
その姿はまさに聖女だ。くりくりの可愛いお目目を懸命に開いたり閉じたりしながら、熱心に繰り返し、その度に本人自身も光に包まれていた。
拝みだす輩も現れて、その場は騒然とし始めた。
神官たちは大喜びだ。ウーゾも
「この話が、王都に帰還したものから国民の間に広まれば、聖教会が真実、神の代弁者だと信じてもらえるでしょう」と安堵の表情を浮かべている。
俺としては、雄大を隠してしまいたい。
同担拒否の闇は深いんやで。なんぎやな。
そして、王都に帰還する前日の夜、光の精霊ケイティが俺の前に現れた。
「ちょっと来て~」と言われて招かれたのは、精霊の作り出す不思議空間だった。
「高位の精霊はちょっとした個室程度の空間を世界の狭間に作り出せるのよ。あなたはユリリーアス様の特別招待枠?の精霊なんでしょ~?もうすぐ出来るようになるわよ。きっと」とのほほんと言っている。
先輩面して、ええ情報教えても、許されへんで。俺はお前に話があったんや!
「お前、雄大と結婚できるかってユリリーアスに聞いたんやって?どういう了見か、聞かせてもらおか?」
「え~。だって、雄大可愛いでしょ~。私のこと見てニッコリ笑ったし、好きなんだろうなって思って」
「勘違いや!お前は光の靄の精霊としか認識されてへんし、あいつはいつも、誰にでもニッコリ笑ろうとる!」
「浮気!?」
「浮気ちゃう!雄大はお前のもんやない!!!」
「でもユリリーアス様は、私の後継の光の精霊の王を任命した後なら、人になってもいいって。精霊を辞めたら、人として死ぬしかなくなるけど、その覚悟があるなら好きにしていいって言ったも~ん」
「……。精霊の王?」
「そ、私、かなりのお偉いさんなの~。あなたは、言ってれみば、部下ね。馬車馬のように働くがいいわ~。なんちゃって」お茶目に笑う少女。お偉いさん……。
俺はフルフルと頭をふる。こいつのペースに乗せられたら負けや。
「俺は誰の部下でもないわ!」
「雄大のストーカーなんでしょ。知ってる~」
「ストーカーでもない!ファンや!いや、今はニコイチのパートナーに格上げされとるし!そんでもって、ユリリーアスは結婚を許可したわけやない!人になるのは自由にしろって言っただけやろ!」
しっかり釘をさした。が、ケイティは、
「どうかしらね~。ま、しばらくは様子見するわぁ」と言ってこの話は終わった。
というのも本題は別にあるからだ。
ケイティは、王宮で、美に執着する第一王女ブリジットと、王族絶対主義の第二王女シシリーをスパイしてきたのだ。
「私の見た感じでは、どちらも最低よ~。私の雄大を、自分がこの国で優位に立つためのアクセサリーくらいにしか考えていないわね~」
「お前の雄大ちゃうがな。ほんで、なんか仕掛けてきそうか?」
「うふふふ。こんな掛け合い、久しぶりだわ~。楽しい!」喜ぶケイティが少し不憫だ。仲間の精霊は居心地のいいジュードに移住し始めているって言っていたからだ。
「仕掛けてって言うかねぇ。どちらも、自分が、『結婚してあげるわ』って言ったらそれで事足りると思っているみたい」




