19.ダークスポット
いろいろと俺の苦悩は尽きないが、結局雄大は建国祭ギリギリまで、ダークスポットの最前線に駐屯することになった。
暗殺者も、魔物が跋扈するダークスポットにまでは押しかけて来ないだろうというのが皆の見解だ。
聖魔法が使える雄大にとって、魔物はすんなり倒せる敵だから、そこが安全だと言われると、その通り。
暗殺者には全く対応できない雄大だが、俺ももう油断するようなことはない、だから避難するようにダークスポットに向かわなくても大丈夫なんだが、
「キオル様、暗殺者だとて、瞬殺するのはお待ちいただきたい。情報を引き出す算段もございますれば……」とイカロスに言われてしまった。
なにかと面倒なので、ダークスポットに行った方が平和だと思いなおした訳だ。
王宮から、勇者様は現地視察に向かった、という情報だけ流させて、とっとと出発する予定。一週間もすれば戻るので大げさな見送りは不要だ。
雄大はというと、
「あ~、キオル、どれを持っていく?こっちのふかふかのお布団か、もこもこのタオルケットか、迷うね~」と遠足気分だ。一週間の旅といえば、雄大にとっては一大イベントなのだ。ちなみに、布団かタオルケットで迷っているのは、自分の物ではなく、俺の寝床用の物だ。
推しが選んでくれたものなら、コンクリートに直にだって寝られる!そんな俺に、
「もう~、ちゃんと聞いてる?ダークスポットってちょっと寒いらしいから、準備万端で行かないとだよ!」温室に準備されていたものを片端からひっくり返して、俺の為にいそいそと旅支度している雄大を見て、贅沢なファンサを味わっていた。
実際は、イジーに、
「勇者様の御支度は、私がぬかりなくやっておきますから、ご安心くださいね」と言われて、手持ち無沙汰だっただけとも言う。
二日後、武装神官と王宮近衛に守られながら、俺と雄大、イジーとウーゾとエンロの一行はダークスポットに到着した。
「うわっ。不気味過ぎるよ。ホラーアトラクションにでも迷い込んだみたいだ」とは、馬車から外へでた雄大の第一声。まさに、だ。
昼なのに暗く、重たい空気が流れている。それもそのはず、この一帯だけ雲のように黒く渦巻くなにかが空を覆っているからだ。
宿泊場所には仮ごしらえだが、大きな天幕を用意してくれていた。
安全の為、主要メンバーはまとまってここに滞在だ。
俺がカッチカチの光の防御魔法をかけていると、それを見て、雄大も真似して防御魔法を重ね掛けしていた。
「これで、キオルが悪い人を防いで、僕が魔物を防ぐって感じになっているかな?二人で一つ。ニコイチの本領発揮だね!」と嬉しそうだ。
神様~、天国はここですか~?と、幸せに浸っている俺に、
『ちがいます。きもいです』とユリリーアスの声が。
『こういう場合の神様は、お前ちゃう。雰囲気や、バイブスや、いちいち話しかけんなや!』
雄大の髪の毛に潜りこんで耳をふさぐ。念話だから関係ないんだが、気持ちの問題!
『あぁ、そんな態度ですか?大事な事を教えてあげようと思って来たんですが?』
『なんや?はよう言え!』
『あなたが使っている光の精霊魔法ですが、闇の精霊が側にいる訳でもないのに、やたら威力があるので調べてみたら、あなたの神力を闇の精霊の存在に代用していました』
『どうゆうこっちゃ?』
『つまり、このまま使っても問題ないですが、そうするといつまでたっても神力は溜まらないので、雄大との念話が使えないという事になりますね』
『……』
『まあ、でも、考えようによっては、いい事かもしれませんよ。だって、念話できると、ストーカーって事がすぐにバレそうですから。絶対にドン引きされますから、よかったですね』




