14.噂
「キオル様は素晴らしい魔法で敵を屠ったと伺いました。我らが不甲斐ないばかりに……。ご助力感謝申し上げます」とイカロスはキオルに深く頭を下げた。
「きゅっきゅ!(ええよ、ええよ!)」
「「「……」」」誰も通訳出来ないが、取りあえず皆の視線は雄大に向かった。
「あ~。たぶんですけど、かまわないよって言っている気がします」と、俺を見ながら自信なさそうに言う雄大。
俺はサムズアップで、正解やで!っと伝えた。
とたんに嬉しそうに顔がほころぶ。天使の笑顔!
しばらくは念話が使えないと想定して、もっとジェスチャーに力をいれようと心に決めた。しっぽもあるし、かなりのバリエーションが作れそうだ。『おはよう』は必須だな~。
そんなことを考えている間も、深刻な話は続いていく。
大量の刺客をピンポイントで、大神殿にもブルムス聖教国の王城にも近いあの場所に配置できる敵に、みな頭を悩ませている。
「今回の一件で、ブルムスの王宮から勇者様とはいつ会えるのかという問い合わせの文が、ついに王直々のものになりました。神官たちには特に箝口令を敷いた訳ではございませんでしたので、キオル様の件も耳に入ったようです」
「ブルムスの王様って、味方なんですよね?」
「そうです。この土地はそもそも大神殿の管轄でした。昔の神官たちは神への祈りを邪魔されたくないと、『国の統治』という仕事を切り離して聖教国を作ってブルムス家に託したのです」
「そうなんですか。じゃあ、安心ですね。僕会っても構いませんよ?」
「ありがとうございます。ですが、昔と違って、今は少々事情が異なります。絶対的に上の立場であった大神殿の権威が徐々に失われております。今回の襲撃のこともありますし、どこまで信用していいものか」ウーゾは悲しそうに言い、
「各国の神殿もアンチ勢力に対処できず、闇の精霊のシンボルは悪の象徴として信者に排除され、今では聖教会自体も危険にさらされています」神官を統括している神官長のマリーヤは悔しそうに漏らした。
そして、イジーが、
「あの、私が王宮の講習会で聞いた噂話なのですが、」と話し出した。イジーは16歳なので、18歳の社交界デビューまで、講習会という名の勉強会に参加しているようだ。社会情勢からテーブルマナー、ダンスレッスンまで、貴族の子弟と共に学んでいるようだ。
「そこで、第一王女のブリジット様と、第二王女のシシリー様、どちらかが、政略結婚で国を出され、もう一方が勇者様と結婚して国に残るという話を、」
「きゅっぎゅぎゅーきゅ!(そんなん、マジで、あり得へん!)」
俺はいらだちをマックスで表現するべく、テーブルにのり、足を踏み鳴らして抗議した。俺は同担拒否勢や!愛があっても微妙なのに、王女と勇者で、めでたくカップリング!なんて決めてかかってくるとは、どういう了見の輩や。
「魔物討伐、ジュード王国との国交樹立、闇の精霊の名誉回復、反教会勢力の鎮静化、問題は山積みなのに、更に膝元の王宮が政略結婚の思惑までぶち込んでくるとは、王宮は何を考えているのか」ウーゾは声をあらだてた。
任せてや!全力でぶち壊すしな!
 




