12.聖魔法とは
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俺が目を覚ますと、ふかふかの雄大の枕の上だった。まだ明るい。片手は雄大の髪を掴んでいる。俺が寝たまま離さなかったんだろう、雄大も一緒に寝てくれている。
それにしても、ええ香りや。この匂いを嗅ぎながら昼寝の二度寝と決め込もう。贅沢の極み!と思いながら雄大の髪に再度潜りこんでスンスンしながら目を閉じる。
ゾクッと悪寒がする。ユリリーアスに違いない。
でも俺今日頑張ったし、ご褒美もろうてもええはずや!
イヤイヤするように首を振って悪寒を振り払おうとすると、雄大が、
「あ、起きたのかな?キオル?」と言いながら手を差し伸べてくる。昼寝の後の推しの優しい声!幸せはここにあります!と俺は断言する。
手をスルスル伝って、雄大の顔が見える位置まで行く。
そして、なんだか元気のない推しの顔を見てびっくりする。
俺が寝た後どうなったんだ?なんで雄大がしょんぼりしているんだ?傷か?矢傷が痛むのか?
腕を見るが綺麗に塞がっている。雄大はかなりの聖魔法が使えるようになっているし、あれだけの神官が同行していたんだから、問題はないはずだ。じゃあいったい何があった?
「きゅきゅ~?(どうした?)」
ポロりと雄大の澄んだ瞳から涙が零れ落ちた。
俺は、なんであの時、疲れて寝てしまったんだ!推しを泣かせた犯人が分からへんやん!
「あ、ごめんね。突然、涙がでちゃった。ちょっと不安になっただけ。キオルの顔をみたら、ホッとしちゃったのかな。情けないよね。ごめん」
俺は精いっぱいの気持ちを込めて、雄大のほっぺに鼻先をつけてスリスリしてあげた。それしか出来ない俺を許して。
そして俺には最大のご褒美になっているけど、それも赦して。
初めて魔物を滅して、喜んだのもつかの間、暗殺集団に襲われる。これで不安にならない訳がない。雄大はよく頑張っている!
推しを慰める栄誉を与えられたことは嬉しい。全力で取り組む次第だ。が、不安な推しをそのままにしておくなんてファン失格だ。
「きゅうきゅううきゅきゅ!(大丈夫俺がついてる!)」と言ったところで通じない。早く念話したい!神力早う溜まれや!
「あのさ、どうやら、僕の力って何か変みたい。魔法で治療しようとしても出来なかったんだ。ウーゾさんが驚いてた。聖魔法って、イメージでは魔を祓って、人を癒して、みたいに思っていたんだけど、違うのかも。魔を祓うことしかできない魔法……」
しょんぼりしながら語る雄大。
雄大の不安は、ユリリーアスのせいか!
聖魔法の使い手を送り込めば魔物退治が出来るってことしか考えとらんかったんやろ。
どんな魔法でも聖魔法になるって言うとった。なんかうさん臭いキャッチコピーみないな文句やったしな。
治癒魔法も、魔物しか倒せへん聖魔法に変えてしまう。アホや。アホの神がおるわ。
『その件はすみません。まあただ、キオルがいるのでニコイチで行動するということでどうでしょう』とユリリーアスから声が届いた。
「ぎゅうぅ(ぐふぅ)」俺は思わず声が出た。推しとニコイチ。誰得?俺得。
ちらりと雄大を見る。雄大もこちらを見ている。
「キオル。僕と一緒に居てくれる?」コテンと傾けた首の角度も神!
目を見開いて、その仕草を目に焼き付けながら、首を縦に振る。
心の中では、側にいてもいいというおまけ扱いから、ニコイチで行動というセット扱いの昇格に、歓喜の舞を舞っている。




