11.恐怖のリス
怒りでしっぽが盛大に膨らんでいるのが分かる。
敵の息の根を止めようと右手を伸ばし、
「きゅーきゅーーっきゅきゅきゅ(忘る神が命じる、呼吸の仕方を忘れよ)」
俺って実は結構無敵な神。
多くの生命体は、生命機関の根幹を、無意識に機械的に動かしているので、その動作を忘れることはない。忘れては生きていけない。だが俺は忘れることに特化した神だ。強制的に生命機関に動きを忘れさせることができる。無敵やろ。
まあ、そんな俺が、逆に人々に忘れられて神の地位が最底辺って笑える。
神力が枯渇しているって言われたばっかりだった。力が振るえる訳なかった。忘る神だけに~忘れてた。なんてボケている場合じゃない。
光の精霊の力は健在だ、攻撃パターンは何が出来る?
ほんわか光って癒すみたいなのしか思いつかない。後は、バシッて光って目くらまし?もっと直接的な攻撃はないのか?
「きゅっきゅ!(射貫け!)」と言って放った適当な攻撃は、効果抜群だった。
これやな!レーザービームっていうんやったか?使い勝手が良さそうや。出力最大にして、一閃したら、森の木々ごと上下に切れた。
「キオル様、背後関係も追いたいです。全滅させるのはご容赦ください!」と、今回の腕試しチームの責任者であるウーゾが、距離を置いた背後から大声をあげている。
ウーゾはイカロスの息子で大神官の補佐をしている男だ。父のイカロスと息子のイジーが生真面目な雰囲気を持っているのに比べて、砕けていて大雑把な印象の男だ。
そんな男でも、見たことのないレーザービームで森を見晴らしよくしてしまった、『恐怖のリス』に近づくことは出来なかったようだ。
雄大だけでなく神官たちも、体のどこかしらに矢の刺さったような状況で、そんなこと言っていられないと思うが、仕方ないので残っていた二名は光の矢を顕現させて檻に閉じ込めておいた。
さすがに疲れた。慣れない体に、初めてつかう力。
「お疲れ様」といって、右手一本で髪の毛にうずくまる俺を撫でてくれる雄大。神だ。ユリリーアスより、よっぽど神!
*****
急な痛みに驚いた僕は、左腕に矢が刺さっているのを見てしばらく現実逃避した。
しばらく待ってもジンジンと痛む。そりゃそうなんだけど、矢が刺さるという非日常に、僕の平凡な脳みそは対応できていかない。
キオルは、きゅきゅきゅきゅ大騒ぎしたあと、一呼吸おいて、ド派手な光魔法をぶっ放し始めた。それこそ、痛みを忘れるくらいな威力の魔法だった。
ドン引きしている神官たちが目の端に映った。皆ボロボロだったが、目線はキオルのぶっ放した魔法の先にくぎ付けだった。
あっという間に二人だけが光の檻に隔離され、その場が静寂に包まれた。呆然としながらも、僕は頭の上で、仕事は終わったとばかりに寝る体制にはいったキオルをなでてやった。
その後、皆は自分の治癒魔法で傷を治し始めた。さすが神官。
僕も見よう見まねでやってみたが、神々しい光は出るけれども治らない。ウーゾさんが、
「ま、まさか!?」と言って、言葉を詰まらせている。
「父様、まずは治療を」とイジーが促す。
「あ、ああ、そうだ。お待たせをいたしました」と言って、ウーゾが治癒魔法をかけてくれた。
魔法凄い!と感心している僕だったが、ウーゾのなんとも言えない表情をみて、嫌な予感を覚えるのだった。
怖い、何?キオル起きてきてくれないかなぁ。




