1.神界大会議
俺は神。真名は内緒や。
推しは可愛い男子高校生。めっちゃええやつやねん。
こいつを見守っていくのが俺の生きがいやねん。
でも、信じられる?他の世界の神が、この子を勇者として連れて行くからって許可取りにきてん。もうめっちゃ、全力で反対するわ!
*****
神界大会議場にて
「なんで、雄大なんや?あいつただの高校生やで!?そこの、ユリリーアスゆうたか?なんやちょっとシュッとした男前やからって何しても許されると思うなや!」
俺は盛大に吠えていた。俺の激推しの雄大を、他の世界の神ユリリーアスに連れて行かれるかどうかの瀬戸際だからだ。
ここで根性みせんかったらどこで見せるか。やったるわい!
だけど、周りの目は冷たかった。
俺みたいな、信仰するものが少ない忘れられた神は、発言力が皆無だからだ。勿論身の程をわきまえて普段なら空気に徹している。でも今はそうは言っていられない。最後の最後まであがくんや!
俺の唯一の推し。そしてきっと、俺に手を合わせてくれる唯一の信者……
*****
俺には信仰してくれる信者がいない。忘れられてしまった。
『けったいな空っぽの古墳』や、『ようわからん普通の木』とかを有難がるこの国の国民性は愛すべきものだ。けれど、そんな諸々の有象無象に紛れて、普通に神様をサクッと忘れるとか、冗談のきつい国民性でもある。
俺は、山の神なんだけど、めっちゃ低いし小さい、冗談みたいな山な訳。
そら、忘れるわな。多分みんな、ちょっとこんもりしてるし、昔の豪族の古墳でもあったんかなぁ?くらいに思っていたはず。今はそのちょっとこんもりも削られて公園だし。
そこに、唯一手を合わせてくれるのが横の敷地に住んでいる雄大だ。
おばあちゃんっ子だった少年は、今は亡き、ばあちゃんに倣って毎日、元山だった公園に手を合わせて、
「神様、今日もいい日になりますように!」って言ってくれる。
キラキラオーラ振りまいて俺を幸せにしてくれてる。
そんな俺から、雄大を奪うなんて非情にもほどがある!
*****
「ようさん、ようさん、信者持ってはる神のところから、選んだらよろしいやん!なんで雄大なんや!!」俺の叫びはもはや絶叫だ。
「ストーカーかよ」とか言っている外野の声が聞こえる。
「ストーカーちゃうわ!信者を見守っとんねん!いや、俺を幸せにしてくれてるから、俺の神か?あれ?あべこべやな。でも、俺の推しや。そう、俺はあいつのファンなんや!」
何やら、かなり憐れむ視線を送られている。支離滅裂な言い様に周りはドン引きだ。
「それでも、我が世界に雄大君が必要です。採決をお願いします」と大会議場にユリリーアスの声が響く。
圧倒的多数で異世界転移の許可がでた。
あぁ。俺はもう終わった。唯一の生きがい、雄大が連れて行かれてしまう。
本人の許可もなく、無慈悲に。孤立無援で。俺の雄大が。異世界へ。
うぅ~~~。
うぅうぅうなっている場合か?孤立無援にしなければいい!
俺もついて行けばいい。
さっきまで悪態ついていたユリリーアスに土下座で頼みごとができるか?
イエス。雄大のファン歴18年。なめんな。
この世界に未練はあるか?
ノー。どのみち忘れられている。雄大が居なければ信者ゼロだ。数百年もすれば神の位からも追い出されていただろう。
さあ、そうと決まれば土下座しに行くで!