継がれてゆくもの
継環省・地下記録保管区。
重厚なセキュリティを抜けたその先、誰もが立ち入りを許されない、“災異記録庫”。
その中心に、古びた書庫と一基の“封印石柱”が静かに佇んでいた。
「……音の無い場所、か」
案内された裕也は、無意識に耳を澄ませた。
そこには音がなかった——厳密には、“すべての音が殺された空間”。
「災異《音喰い》の残響封印場よ」
声をかけてきたのは、継環省の情報部門主任、久賀院 梓。
長身のスーツ姿、眼鏡の奥に鋭い眼差しを宿す女性だった。
「きみの“能力因子”の反応が、ここに反応したの。
それも、通常の災異因子とは違う“もうひとつの痕跡”に」
裕也は驚きを隠せなかった。
「俺の……能力と、ここが?」
梓は静かに首を振る。
「——逆。
ここに眠る封印の“欠片”が、きみに反応したのよ。
あなたの中にあるものが、封印の**“起源”と類似していた。**」
◆
一方その頃、第九訓練班には新たな指令が下されていた。
「特別任務:災異《同調型》の封印補助」
地点:関東第十四防音封印区
内容:未安定災異の封印サポート、および共鳴体への干渉実験
朱音が眉をひそめた。
「……共鳴体? 聞いたことないタイプだけど」
矢吹シンが端末を操作しながら答える。
「“継承因子”を持つ災異の亜種らしい。
人間と類似した振動波を持ってて、干渉が可能。
簡単に言えば、“人間のふりをしてくる災異”ってとこかな」
「つまり……“誰かの音”を真似る災異?」
蓮が苦笑しながら手を上げる。
「怖ぇな、それ……夜寝れなくなりそうだわ」
裕也はその会話を聞きながら、胸の奥でざわめくものを感じていた。
(もしその災異が……“俺の中の音”と似てるなら)
——自分の力の“源”を探る鍵が、そこにあるかもしれない。
◆
翌日、封印区にて。
薄暗い地下構造。コンクリートの壁に囲まれた空間に、異常なまでの静けさが満ちていた。
「……反響ゼロ。まるで、音そのものが拒絶されてる」
裕也がそう呟いた瞬間だった。
空間の奥から、“足音”が響いた。
「誰か来るぞ……!?」
身構える訓練班。
だが現れたのは、白い学生服を着た少年だった。
顔には感情の乏しい笑み。だが、その身体からは“音の波動”が確かに流れていた。
「やあ、こんにちは。
君たち……“ぼく”の音が聞こえるの?」
全員が凍りつく。
それは“人”ではなかった。
明らかに、**災異のものではない“響き”**をまとっていた。
裕也の中で、何かが共鳴した。
——懐かしいような。
——でも、最も憎むべき音の記憶。
「……お前……誰だ?」
「ぼく? 名前なんてどうでもいい。
だって、音は名を超えて残るものだから。」
次の瞬間——空間が砕けた。
災異《同調型》、顕現。
人の姿と“旋律”を模した、反響系災異の中でも最も危険な存在。
白木裕也とその異能《音律干渉》《反響する自我》に、
明確に“干渉”しようとする初めての存在。