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継がれてゆくもの

継環省・地下記録保管区。

重厚なセキュリティを抜けたその先、誰もが立ち入りを許されない、“災異記録庫”。


 


その中心に、古びた書庫と一基の“封印石柱”が静かに佇んでいた。


 


「……音の無い場所、か」


 


案内された裕也は、無意識に耳を澄ませた。

そこには音がなかった——厳密には、“すべての音が殺された空間”。


 


「災異《音喰い》の残響封印場よ」


 


声をかけてきたのは、継環省の情報部門主任、久賀院 くがいん・あずさ

長身のスーツ姿、眼鏡の奥に鋭い眼差しを宿す女性だった。


 


「きみの“能力因子”の反応が、ここに反応したの。

 それも、通常の災異因子とは違う“もうひとつの痕跡”に」


 


裕也は驚きを隠せなかった。


 


「俺の……能力と、ここが?」


 


梓は静かに首を振る。


 


「——逆。

 ここに眠る封印の“欠片”が、きみに反応したのよ。

 あなたの中にあるものが、封印の**“起源”と類似していた。**」


 



 


一方その頃、第九訓練班には新たな指令が下されていた。


「特別任務:災異《同調型》の封印補助」

地点:関東第十四防音封印区

内容:未安定災異の封印サポート、および共鳴体への干渉実験


 


朱音が眉をひそめた。


 


「……共鳴体? 聞いたことないタイプだけど」


 


矢吹シンが端末を操作しながら答える。


 


「“継承因子”を持つ災異の亜種らしい。

 人間と類似した振動波を持ってて、干渉が可能。

 簡単に言えば、“人間のふりをしてくる災異”ってとこかな」


 


「つまり……“誰かの音”を真似る災異?」


 


蓮が苦笑しながら手を上げる。


 


「怖ぇな、それ……夜寝れなくなりそうだわ」


 


裕也はその会話を聞きながら、胸の奥でざわめくものを感じていた。


 


(もしその災異が……“俺の中の音”と似てるなら)


 


——自分の力の“源”を探る鍵が、そこにあるかもしれない。


 



 


翌日、封印区にて。


 


薄暗い地下構造。コンクリートの壁に囲まれた空間に、異常なまでの静けさが満ちていた。


 


「……反響ゼロ。まるで、音そのものが拒絶されてる」


 


裕也がそう呟いた瞬間だった。


 


空間の奥から、“足音”が響いた。


 


「誰か来るぞ……!?」


 


身構える訓練班。


 


だが現れたのは、白い学生服を着た少年だった。

顔には感情の乏しい笑み。だが、その身体からは“音の波動”が確かに流れていた。


 


「やあ、こんにちは。

 君たち……“ぼく”の音が聞こえるの?」


 


全員が凍りつく。


 


それは“人”ではなかった。

明らかに、**災異のものではない“響き”**をまとっていた。


 


裕也の中で、何かが共鳴した。


 


——懐かしいような。

——でも、最も憎むべき音の記憶。


 


「……お前……誰だ?」


 


「ぼく? 名前なんてどうでもいい。

 だって、音は名を超えて残るものだから。」


 


次の瞬間——空間が砕けた。


 


災異《同調型》、顕現。

人の姿と“旋律”を模した、反響系災異の中でも最も危険な存在。


 


白木裕也とその異能《音律干渉》《反響する自我》に、

明確に“干渉”しようとする初めての存在。

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