ランク戦
継環省・戦闘人材育成局・第二訓練ホール。
その日、訓練班全体に通達が下った。
「特例昇格評価ランク戦」実施決定。
対象:第九訓練班。
内容:模擬対人戦を通じた、戦闘力・連携力・異能制御の総合評価。
成績上位者には“実戦戦力”としての暫定認定が与えられる。
ホールに集められた訓練生たちの中、ざわめきが走った。
誰もが知っている。この“ランク戦”が、ただの評価試験ではないことを。
「……事実上の“振るい”だよ」
第七訓練班の上級訓練生がぼそりとつぶやいた。
「ここで実戦昇格の見込みがなきゃ、戦線には出られない。
戦力に足るか、使い物にならないか……その“線引き”だ」
裕也の隣で、加賀谷蓮が拳を握る。
「チャンスってことだろ。俺は出る。全力で勝ちにいく」
鳴海朱音はいつになく沈黙していた。
「……蓮、あなたの“前に出る癖”、今日だけは抑えなさい」
「へいへい」
一方、裕也の中では“静かな炎”がともっていた。
(力だけじゃ足りない。今の俺は……どこまで通用する?)
◆
ランク戦は個人戦と小隊戦の二部構成で行われる。
第一試合は、白木裕也 vs 第五訓練班所属・一ノ瀬朔。
「音系ね。やりにくいけど、正面から潰す」
朔は“空気硬化”の異能を持つ防御・反射型。
拳を振るうたび、周囲の空気が金属のように硬化し、攻防一体の戦術を展開する。
裕也は冷静に構える。
(防御型……なら、まずは距離を取って“響かせる”)
試合開始。
朔が突進。拳が空気の壁を作りながら迫る。
裕也は反響波を展開し、**“干渉空間”**を構築。
そこに入った瞬間、朔の動きが一瞬だけ鈍る。
「——遅い!」
裕也のステップが切り込む。
すれ違いざまに、低音の波を打ち込むと、朔の体がぐらついた。
「なっ……」
「《音律干渉》——」
一拍遅れて、鋭い無音波が朔の耳と脳に衝撃を与える。
反応が鈍った隙を逃さず、裕也は一気に間合いを詰めた。
「“音”が読めた時点で、もう勝負は決まってる」
そのまま背後を取り、反響の“刃”を首元に突きつけた。
試合終了。
静寂の後、観戦者たちの間にざわめきが走った。
「アイツ……あれが訓練班か?」
「動きの読みが早すぎる……完全にプロの領域だろ」
裕也は静かに息を整える。
確かに、初めて「自分の異能で“戦った”」と実感した瞬間だった。
◆
その後、朱音も勝ち進み、シンは惜しくも初戦敗退。
だが、それぞれの異能特性が評価され、第九訓練班全体の実力が認知され始めた。
ランク戦後の控室で、蓮がふと呟いた。
「……なあ、裕也。あの災異、あん時のお前……
なんか別人みたいだったよな」
裕也は答えない。
心の奥に、ずっと残っている違和感がある。
——戦うたび、何かの“旋律”が、自分の中で覚醒していく。
(俺の力は、本当に“自分のもの”なのか……?)
だが、その答えはまだ遠い。
今はただ——この戦場に、音を残すしかない。