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影の振動

継環省・第六災異監視室。

警報が鳴り、緊張感が走っていた。


 


「災異反応、振動型確認。コードネーム《影振えいしん》、現在も成長中。レベルは“実体化段階直前”。現場は都内・京西区第十防音線付近!」


 


複数の分析官が端末を叩く。

モニターには黒い“震源”のような波形が、ゆっくりと広がっていた。


 


その情報がすぐさま訓練課へ届く。

対応部隊が欠けていた関係で、非常配備が発令された。


 


第九訓練班、初出動。


 



 


「……災異《影振》。過去に2体確認された振動共鳴型。

 空間の“反響”を利用して攻撃を行う。接近戦に持ち込まれると危険だ」


 


出動前、音野教官がブリーフィングを短く締める。


 


「任務は“対象の構造分析”と“戦闘記録”。撃破は狙わなくていい。

 ただし——やられるな」


 


裕也の背に冷たい汗が流れる。

模擬戦とは、空気が違う。


 


蓮が珍しく真顔で言った。


 


「……マジで、死ぬやつは死ぬぞ。災異ってのは」


 


朱音も目を伏せながら頷いた。


 



 


現場——京西区の地下駐車場。


 


照明は切れ、闇と湿気に包まれていた。

ところどころひび割れたコンクリートが不気味な“音の反響”を生んでいる。


 


シンが前に出る。


 


「……違和感あり。反響がずれてる。反射点に“吸音構造”が存在してる。

 音を飲み込む……いや、偏らせてる」


 


朱音がそっと天井を叩く。“鼓動”が返ってこない。


 


「反響が“攫われてる”。……ここ、音が逃げ場を失ってる」


 


裕也が反響の円を展開し、空気の“裂け目”を感知した。


 


(感じる。何かが、“自分の音”を狙ってる)


 


そして——現れた。


 


空間のひずみの中から、黒くぶれた人影のような災異が滲み出てくる。


 


全身が揺れていた。

震えることで存在を保つ、“振動の生命体”。


 


「災異《影振》。確認」


 


朱音が即座に走る。壁に触れて、爆発を誘発。


 


だが——災異は、反響をそのまま“踏み台”にした。


 


「っ、上だ!」


 


蓮の声と同時に、天井から災異が落下する。

狙いは、最も音を発していた朱音。


 


だが——


 


「《音律干渉》!」


 


裕也が反響を放ち、空気の層を歪ませる。

災異の動きが、一瞬だけ“浮き上がる”。


 


蓮がその隙に飛び込み、木刀で横薙ぎに払った。


 


「決まれッ!」


 


だが、衝突の瞬間——災異は振動をまとって反発。

蓮が跳ね飛ばされ、地面を転がった。


 


「ぐっ……!」


 


「蓮! 大丈夫!?」


 


朱音が走る。

だが災異は今度こそ、明確に**“殺意”**を持って距離を詰めてきた。


 


(速い……!)


 


裕也の心臓が跳ねる。


 


——恐怖、じゃない。

——身体が、勝手に動こうとしている。


 


「……止まれ」


 


反響の輪を最大展開。

音の波形を組み直し、空間の“律動”に対して逆位相を打ち込む。


 


「《反響する自我》——!」


 


災異の動きが鈍る。

その間にシンが制御波を走らせ、反射の“抜け道”を作る。


 


裕也が跳び、朱音が援護する。


 


三人の連携が、ついに災異の“心核”を露出させた。


 


「——今だ!!」


 


蓮が立ち上がる。

音の反響に乗って、全員の一撃が重なった。


 


災異《影振》、撃破。


 



 


その夜、継環省内部で訓練班の戦果は慎重に評価された。

あくまで訓練枠だったとはいえ、これは災異の完全排除という記録。


 


——実戦を乗り越えた者たちだけが持つ、“音の余韻”。


 


裕也はふと、耳をすませた。


 


地下の反響が、まだ自分の中で残響していた。

それは恐怖ではない。仲間とともに刻んだ、**“音の記憶”**だった。


 


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