表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/37

第九訓練班

継環省・訓練区画F棟。

“新人育成部隊”とも呼ばれるこの一角に、白木裕也は初めて足を踏み入れた。


 


「白木裕也、配属になりました」


 


淡々と告げると、教官付きの女性職員が手元の端末を確認しながら頷いた。


 


「第九訓練班は現在、五名体制。そのうち三名が今日の訓練に参加中です。

 今から合流してもらう。以後、基本行動は班単位で」


 


無機質な廊下を抜けた先、屋内トレーニングエリアの一角に三人の姿があった。

床は柔軟素材、壁には光反応型の防壁システムが張り巡らされている。


 


「おー、新人来たな」


 


真っ先に手を挙げたのは、細身で長身の少年。髪は無造作な銀色。

名前は矢吹シン。能力系統は“視界制御型”。周囲の空間把握に優れた“観測者”だ。


 


その隣に立つ、無表情な少女が一歩前に出た。

「……白木裕也。音系か。データは読んだ」


 


彼女は鳴海朱音なるみ・あかね

能力は“振動転写”——あらゆる接触物に自分の鼓動を上書きし、爆発的な衝撃を発生させる強化型。


 


三人目は、腰に木刀を下げた快活な男子生徒。

「俺は加賀谷蓮かがや・れん。身体強化の流派系。よろしくな、白木!」


 


蓮は「お前、あの災異を一人で倒したって噂のやつか?」と興味津々に詰め寄ってくる。

裕也は首を横に振る。「……偶然が重なっただけだ」


 


朱音が小さく笑った。「偶然で災異は倒せないよ」


 


 



 


初日の訓練内容は“連携模擬戦”。

三対三に分かれて、仮想災異を相手にどう連携を組むかを評価される。


 


裕也はシン、朱音と同じチーム。

対戦相手は蓮と、他の先輩訓練生ふたり。


 


開始と同時に、シンが声を上げた。


 


「来るぞ、左上から衝撃波!」


 


視界を拡張し、敵の動きを読んで即座に共有。


 


裕也は駆け出す。ステップは最短距離、足音は最小。


 


(この音の流れ……上から圧迫波。地面の“逃げ”が死んでる)


 


空間の音の偏りを読み、逆方向へジャンプ。


 


着地と同時に、朱音が地面に手をつく。

——彼女の手のひらが地面を叩いた瞬間、**「鼓動爆破」**が発動。


 


足元に仕込まれた脈動が、一拍遅れて爆ぜる。


 


敵の一人が吹き飛び、体勢を崩す。


 


その隙を突いて、裕也が背後に回り込む。

“反響の輪”を展開し、相手の気配を封じる。


 


(このまま……耳と皮膚を麻痺させる干渉波を)


 


「——《音律干渉》」


 


無音の波が放たれる。敵訓練生の攻撃動作が一瞬止まった。


 


その一瞬、シンが叫ぶ。


 


「右から来る!」


 


が、遅かった。


 


加賀谷蓮が超加速の突進で飛び込んできた。

木刀の柄が、ギリギリで裕也の顎下に突きつけられる。


 


「——残念、ここまで!」


 


訓練戦終了のブザーが鳴る。


 


朱音が舌打ちした。「あれ、読んでた?」


 


蓮は笑って肩をすくめる。「いや、勘だ。俺、そういうの得意なんだよ」


 


裕也は悔しそうに汗を拭う。

自分の“音の感覚”だけでは、まだ全体の流れに追いつけない。


 



 


訓練後、音野教官が言った。


 


「白木、お前のスピードと反響処理は班内でもトップクラスだ。

 だが災異は、もっと複雑で、もっと理不尽だ。

 今はまだ、“響き”を合わせることだけに集中しろ」


 


響きを合わせる——


 


裕也はその言葉を反芻した。

音とは一人では完成しない。誰かと重ねて、初めて旋律になる。


 


それが“継承者”として生きていくための、最初の扉だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ