残光と共鳴
篠森の五体の残像が、同時に動いた。
走り、跳び、斬りかかる。
すべての動作が完璧に同期している。まるで時間が五重に重なったような錯覚。
観客たちは息を呑む。
その中で、裕也はただ耳を研ぎ澄ませていた。
(——全部の“動き”に音がない。やっぱり幻じゃない。だが、どれも同じリズムで動いてる……)
裕也は片足を一歩後ろへ引き、呼吸を合わせる。
空気の振動がわずかに歪む。
異能《音律干渉》が発動する。
彼の周囲の“音”が、波紋のように広がっていった。
篠森の残像が斬りかかる瞬間、その波が干渉し、軌跡を僅かに狂わせる。
刃が裕也の肩先を掠める。
——だがその瞬間、残像の一体が“ズレた”。
足音が、一拍遅れたのだ。
裕也はそれを逃さなかった。
「見えた……!」
音を導線にして、空間を駆け抜ける。
速度が爆ぜ、残像が崩れ、光の粒となって消えた。
篠森が舌打ちする。
「干渉系か……珍しいな。だが、干渉できる範囲にも限界があるだろ」
「限界はある。でも、“響き”はどこにでも届く」
裕也の声が静かに響いた。
篠森が再び踏み込む。六体目の残像が現れる。
その刹那、裕也は掌を地面に叩きつけた。
「——音律反響!」
地面全体が共鳴するように震えた。
残像たちの軌跡が、一瞬だけ“揺らぐ”。
音の干渉が、過去に記録された残光データを乱したのだ。
「なっ——!」
篠森が驚愕の声を上げた瞬間、裕也の姿が消える。
そして次に現れたのは、篠森の背後。
「——響け」
一閃。
残像も、本体も、同時に掻き消えた。
フィールドに静寂が戻る。
遅れて、観客席が爆発するような歓声に包まれた。
審判の声が響く。
「勝者——白木裕也!」
裕也は息を荒げながら、篠森に目を向けた。
篠森は立ち上がり、肩で笑った。
「……悪くねぇ。あんた、ランク戦の本番で化けるぞ」
裕也は少しだけ笑みを返した。
「ありがと。でも……俺は、まだ始まったばかりだから」
その瞳には、確かな決意が宿っていた。
響きの中に生きる少年——白木裕也の戦いは、ここからさらに深く鳴り響いていく。




