開幕の残響
ランク戦当日。
広大な闘技場に似せた特設フィールドは、観戦席を埋め尽くす隊員たちのざわめきに包まれていた。
裕也は控室で、深く息を吐く。
手には、これまでの訓練で馴染ませた模擬武器。
心臓が早鐘を打ち、汗が掌に滲む。
(落ち着け……音を聴け。俺の世界は音でできてる……)
カーテンが開き、アナウンスが響く。
「第一回戦——白木裕也 対 篠森蓮!」
歓声が湧き上がる中、二人がフィールドへ進み出る。
対面した篠森は無駄な言葉を発さなかった。
ただ冷たい眼差しで裕也を一瞥し、静かに武器を構える。
——その瞬間。
裕也の視界に“もう一人の篠森”が揺らめいた。
(……残像!? もう出してきたのか……!)
観客席のざわめきがさらに膨らむ。
篠森の異能《残光操作》は、自身の動きや軌跡を空間に“記録”し、それを実体化させる能力。
本体が動かずとも、過去の残像が同時に戦闘する。
目の前に三人の篠森。
どれも本物のように攻撃を繰り出してくる。
裕也は反射的に回避しようとしたが、足が止まった。
(目で追ったら負ける……! 俺が聴くべきは——音だ!)
耳を澄ませる。
本体の靴音、衣擦れ、わずかな呼吸。
残像には響きがない。
「——そこだ!」
裕也は音を頼りに、ただ一つだけ響きを放つ本体へ踏み込む。
刹那、無音の一撃が炸裂し、残像が霧のように消えた。
観客席がどよめく。
篠森は初めて薄く笑みを浮かべた。
「……面白い。だが——まだ終わりじゃない」
次の瞬間、五体の残像が現れ、フィールド全体を覆うように動き始めた。
裕也は掌を握り、呼吸を整える。
「……音で響きを掴む限り、負けない」
戦いは、始まったばかりだった。




