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制限の中で掴むもの

 重い息を吐く裕也の足もとには、一体、二体と倒れたターゲットが転がっていた。

 足枷は外れない。視界は片方だけ。肩には既に痛みが残っている。


 黒瀬は腕を組み、淡々と告げた。

「次の段階だ」


 合図とともに、訓練場の照明が落ちた。

 視界はほとんど闇に沈む。わずかな非常灯だけが、輪郭を照らす程度だ。


「——条件を追加する。

 四つ目、“視覚に頼るな”。」


 暗闇の中、ターゲットが再び立ち上がる音が響いた。

 五体の足音、関節のきしみ、空気の流れ。


 裕也は片目どころか、ほとんど何も見えなくなった。

 だが、不思議と恐怖は薄い。

 代わりに、全身に“音”が染み渡る感覚が広がっていく。


 (見えなくても……聞こえる。いや、響いてる……!)


 迫る一撃を、肩越しに感じ取る。

 反響する音が空間を描き、敵の位置を浮かび上がらせる。

 反射的に身を沈め、逆に足枷を利用して低い姿勢から蹴り上げた。


 ターゲットの金属音が宙に散る。


 続けざまに、左右から挟み込む気配。

 裕也は片腕で衝撃を受け流しながら、残響をたどって跳ね返すように体を回転させる。

 重りで遅いはずの動きが、音を基準にすれば“正解のタイミング”となる。


 黒瀬は闇の中で唸った。

「……スピードを奪われても、音で補うか。お前の異能はただ速いだけじゃねぇ。——適応する力だ」


 最後の一体を倒し終えたとき、裕也は膝をついた。

 息は荒く、汗は止まらない。

 だが、その瞳には確かな実感が宿っていた。


 「俺……音で戦えてる……」


 黒瀬は背を向け、低く言い残した。

「覚えとけ。速さは刃だが、状況次第で鈍器にもなる。

 お前が本当に生き残るには——音と共にあることだ」


 訓練場に、静かな余韻だけが響いた。

久しぶりの投稿〜

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