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速さを奪われて

 翌日、訓練場の一角に呼び出された裕也は、見慣れない装備を前に立ち尽くしていた。

 硬質の金属製足枷。手首には重りをつけるための拘束具。さらに、片目を完全に覆う黒いアイパッチ。


 無精ひげの教官——名を「黒瀬」と名乗った男が、にやりと笑う。

「スピードタイプはな、足と視界を封じられた瞬間に死ぬ。お前の弱点を叩き込む」


「……ハンデ戦、ってことですか」

「違う。これは“殺されないための訓練”だ」


 黒瀬は短く指笛を吹いた。

 すると、訓練用の人型ターゲット——ただし内部に簡易AI制御の駆動機構が仕込まれたものが、五体、無音で現れる。

 それらは人間の呼吸や体温を模し、隙を見せれば即座に打撃を加えてくるよう設定されていた。


「制限は三つ。

 一、足枷の重りは外すな。

 二、片目のまま戦え。

 三、受けてもいいが、三発以上被弾したら即終了だ」


 黒瀬の声が途切れた瞬間、ターゲットたちが一斉に動き出した。


 ——重い。

 足が上がらない。

 視界の半分が消えて、距離感が狂う。


 だが、耳はまだ生きている。

 わずかな空気の流れ、足音のテンポ、打撃が迫る風切り音。


 裕也は体をひねり、初撃をかわす。だが、足枷の重さで着地が遅れる。

 すぐさま背後からの打撃が迫る——反応が一瞬遅れ、肩に衝撃が走った。


 (くそ……速さだけじゃ、やっぱ……)


 その瞬間、脳裏に再び響きが走った。

 《反響する自我》——過去の旋律が、距離感を補正するかのように位置情報を描き出す。


「……行ける」


 次の瞬間、裕也は足枷のまま地面を滑るようにステップし、狭い死角から一体を蹴り飛ばす。

 速度は遅い。だが、動きは無駄がなく、音の間合いだけを狙った軌道だった。


 黒瀬は腕を組み、口元をわずかに緩めた。

「——なるほど、速さだけのガキじゃなさそうだな」


 訓練場には、金属音と短い息遣いだけが残った。

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